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1. フィールド

風騒ぐ草原の内に俺は立っていた。

格好は学校帰りのときの制服のままだ。

陽光はまぶしく、さりとて暑くはない。

秋風めいた優しい風が俺の頬を打っている。


これは夢だ。

そう思う。

数多く異世界にゆく話を見たり聞いたりしていたが、もう少しなにかきっかけも理屈もあった。

おそらく自分はスマホを片手に寝落ちしてしまったのだろう。


それでも五感は心地よく野外の空気を感じていた。

遠くに森とその先に山脈が見える。

今立っているところは丘陵地帯となっているらしく、四方がよく見渡せた。


どこはゆくべきなのか、このままとどまっているべきかと360度を見まわしていると、遠くに人影が見えた。

土色のコートを来ている。右手を大きくあげて、その手を振っていた。

こちらに来いということなのだろうか。


足取りは軽く、すぐにコートの男の近くにたどりついた。


「はじめまして、運営のタチバナです」


二十代半ば頃らしいその男は十分な笑顔を浮かべて俺に話かけてくる。


「募集の方ですよね。こんなところまでご足労いただきありがとうございます」


ここは話をあわせておいたほうがいいのだろうか。


「よろしくお願いします」


愛想のない声色で俺は頭をさげていた。


「さっそくですが、お仕事の説明にはいりたいと思います。ゲームマスターの経験はありますか?」


「いえ」


「ゲームのご経験は?」


「……ここではありませんがオンラインRPGは、いくつかプレイしていました」


これは嘘ではない。高校入りたての頃は眠る間を惜しんではログイン状態になっていた。もっともパーティプレイは苦手で、もっぱらオンラインでのイベントシナリオにソロで入って、交流所などでアイテムや情報交換をする程度でしかなかったが。


「わかりました。では操作のほうはおいおいということで、おおまかにお仕事内容だけお伝えします」


男は、右手にタッチパネル端末を出すとそれを私に渡した。


「ゲームマスターの仕事はいくつかあるのですが、今回は、イベントシナリオのガイド役になります。といっても、ほとんどは自動化されたNPCが対応しますので、実際には、不慣れなプレイヤーへの補助的な介入と、あきらかに不正をしているプレイヤーの報告が主な仕事になります」


「……はい」


「介入はゲームの雰囲気を壊さないように、冒険者風のアバターを作成してもらい、ステータスはフィールド参加のプレイヤーの平均レベルで自動設定されたものを使います。運営からきた応援、という形であれば身分をあかしてもらって問題ありません。アミューズメントパークにいるスタッフをイメージしてもらえばほぼ間違いないと思います」


箇条書きされた、仕事内容や、時給条件等をみながらタチバナはなめらかに話を進めてゆく。

夢ではあるが、展開としては悪くない。仮にプレイヤーキャラクターに襲われても、強制的に離脱することができるなど、ある意味現実の運営スタッフの仕事よりもずっとやりやすそうだ。

夏の間、アルバイトでイベントの行列整理をしたことがあったが、あれにくらべればずっと楽しそうだし、苦痛もなさそうだ。

もっとも自分の夢で苦痛になってもらっても困るが。


「アバターは二種類作成することができます。特に明確な使い分けはありませんが、今私がこうしているように、ガイド的な介入のための一般人風のアバターと、ゲームに不慣れなプレイヤーや、レベルの低いキャラクターの補助に入る際の冒険者風のアバターに分けることが多いです」


一般人風、という点には気になったが(むしろ、裏のある魔法使いにさえタチバナは見えた)、意図していることは分かった。


「アバターは同時に動かすことはできません。入れ替わる際には出現位置も異なりますので、一人が消えるともう一人が離れたところからやってくる、というような演出が可能です」


「ウルトラマン的なあれ、ですかね」


「あれです」


タチバナは満面の笑みを浮かべる。


「私からの口頭の案内は以上です。私を含めた運営スタッフとはコールしていただければすぐ話ができますので、マニュアルをこの後お読みになった後、不明な点があればいつでもお聞きください」


そういうと、次の方の案内もありますので、とタチバナは片手をあげるとその場から消えた。

わずかに光の点がほんの一秒ほどそこに残った。

陽は高くあがり、ここが現実であるならば十四時すぎころといったところか。

終わる気配を感じないこの夢の中で、俺は役割を果たすため、マニュアルを前にアバター製作にとりかかった。

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