表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/55

六日間戦役

一八一四年二月、「気合」の崩壊。


「ベルナドットの計算など待っていたら、春が来てしまう! 略奪してでも進め! 敵の土地で食いつなぐのがプロイセンの流儀だ!」


 ブリュッヘルの号令一閃、シレジア軍は補給を完全に無視し、フランス国内へ深く突き進んだ。ボヘミア軍もまた、その勢いに引きずられるように鈍重な進撃を開始する。


 しかし、略奪に頼った進撃はすぐに限界を迎えた。冬のフランスの農村には他国の大軍を支えるに足るパンなど残されておらず、兵站へいたんの切れた両軍からは、空腹と疲労による脱落者が続出した。北方軍の「ぴかぴか」の兵士たちとは対照的な、幽霊のような軍勢に成り果てたのである。


 この「すき」を、あの怪物が逃すはずがなかった。

 ナポレオンは分散し、飢え、統制を失ったシレジア軍の各部隊を、電光石火の速さで各個撃破していった。

【シャンポーベール】、【モンミライユ】、【シャトー=ティエリ】、【ヴォーシャン】──。

 わずか六日間で、ブリュッヘルとグナイゼナウの「気合」は粉々に打ち砕かれた。


「な、なぜだ! なぜ勝てん!」

 泥をんで敗走するグナイゼナウに、かたわらのミュッフリンクが絶望的な顔で叫んだ。


「閣下! 兵站のない軍隊は、ナポレオンにとってはただの標的です! 王太子の計算を無視した報いです!」



一八一四年二月半ば、北方軍本営。


 北方軍の本営には、勝利の歓喜も敗北の悲鳴もなかった。あるのはただ、膨大な量の事務処理のみ。


 ベルギー、オランダ、デンマーク、ドイツ諸国、ハンザ同盟。これらの行政を再起動させて兵站地へと変え、英国との貿易を再開して関税を徴収する。


 この膨大な実務と、ビューローらに送る兵站の計算。ベルナドットがベルギーのリエージュから動かなかった理由のすべてが、ここにあった。彼は王太子以外には決算できぬ、巨大な書類の山に埋もれていたのである。


 その殺人的な量の書類仕事の中、ナイペルク伯爵は、シレジア軍の「気合」がもたらした敗報を見て震えていた。


「……スチュワート殿。シレジア軍が壊滅的な打撃を受けました。あんなに威勢が良かったのに、わずか一週間で……」


「ナイペルク殿。見たか、王太子のあの顔を」英国特使スチュワートが、執務室の奥を指差した。


 ベルナドットは首の古傷をなぞりながら、静かに地図上のシレジア軍の駒を「敗走」の位置へ動かした。怒るでもなく、ただ「不確定要素がもたらした最大の損失」を検算するような、氷の冷淡さ。


「……だから言ったのだ。ナポレオンを甘く見るな、と」

 シレジア軍の無謀な破産は、流石の王太子にとっても最悪の「予定外のバグ」であった。


 だが、彼は動じない。すぐに代替の修正式を脳内で組み立て、羽ペンを置いた。

「さて、ブラへ。シレジア軍が散らかした盤面を、今度こそ我々が片付けに行く。ビューロー閣下に伝えろ。『掃除の時間だ』と。……ただし、これからはあいつらに一歩も勝手な真似はさせん」


 そう断言した彼の机の上には、パリのデジレから届いたばかりの密書が広げられていた。

 手紙には、六日間の戦いの勝利に狂喜乱舞するパリ市民の様子が、詳細に記されている。


『ジャン=バティスト、陛下は勝利を大々的に宣伝しているわ。でもね、あの方はまだ気づいていない。あなたが北で未来の兵力をすべて帳簿から消去している以上、その勝利は帝国の破産を数日遅らせるだけの効果しかないことに……』


 ナポレオンが喧伝する最後の大勝利。

 それは確かに同盟軍の想定を上回る怪物の足掻あがきだったが、すでに低地諸国と北の供給網をベルナドットに完璧に押さえられた今となっては、ただの「資産なき虚勢」にすぎなかった。

 シレジア軍の壊滅と北方軍による救済です。you tube の動画をみていると、北方軍が意図的に消されているで、シレジア軍が根性で復活みたいにみえて面白いですが、現実にそんな事があるわけもなく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ