連合軍結成前夜
一八一三年三月、ドイツ。
ヨルク・フォン・ヴァルテンブルクは、タウロッゲンで運命を書き換えた。
「王への忠誠とは盲従ではない。プロイセンの存続こそが真の忠誠だ」
ロシア軍の軍服を着たクラウゼヴィッツが、ヨルクの陣営へ入り、協定書を交わす。この偏屈な宿将による「生存のための独断の裏切り」が火種となり、ドイツの地は一気に熱を帯び始めた。ヨルクらの独断に引きずられる形で、プロイセン国王もついにロシアとの同盟を決断する。
一方、テッテンボルンはナポレオンの敗残兵を追い越す速度でドイツへ先行すると、民衆の『信じたい奇跡』を先回りして提示し、誰よりも早くハンブルクを解放した。彼はかつてハノーヴァーで研究した情報操作を早くも実践していた。
チェルニショフはフランス軍の後方に回り込んで補給路を遮断し、ヴィンツィンゲローデはドイツに入り、現地で急造の義勇兵をかき集めていた。
ロシア軍とは名ばかりの混成軍団が作られ、テッテンボルンが語った『兵士が飢えぬ軍団』という王太子の言葉が中身をもって、彼らの軍団に武器と兵站として注ぎ込まれる。その時を静かに待っていた。
ストックホルムの王宮では、ドイツの熱狂とは裏腹に、張り詰めた沈黙が流れていた。
「殿下、本気なのですか。わが国の全軍をバルト海の向こうへ投じるなど……。もし敗れれば、スウェーデンは地図から消えますぞ!」
議会の重鎮たちが、必死の形相でベルナドットに詰め寄っていた。彼らにとってナポレオンは依然として「世界を焼き尽くす太陽」であり、その怒りを直接買うことは自殺行為に等しかった。
ベルナドットは窓の外の凍てつく港を見つめ、静かに答えた。
「……負ける計算はしていない。だが、諸君が案じるのは無理もないことだ。ならば、この『投資』に見合う保証を引き出すまでだ」
ベルナドットは、自室に英国大使ソーントンを招き入れた。
「大使、単刀直入に言おう。わが軍が動くには相応の対価が必要だ。英国による資金援助、そして何より戦後のノルウェー割譲の確約。これがない限り、私は一歩も動かん」
ソーントンは、この「北の王太子」の強気な交渉に冷や汗を流していた。
「殿下、わが国も全力を尽くしますが、ノルウェーはデンマークの領土であり……」
「道理を説くのは終わりだ。私は軍人である前に、この国の未来を預かる王太子なのだよ。確約がなければ、議会という名の株主たちは納得せん」
国家運営を数学の等式のように扱う、一切の隙がない合理的なやり取りこそが、ベルナドットの真骨頂であった。
そこへ、さらにもう一人の客人が現れる。
オーストリアの外相メッテルニヒが送り込んだ密使、アダム・アルベルト・フォン・ナイペルク伯爵である。
ナイペルクは独眼の精悍な顔立ちに、どこか楽しげな、しかし不屈の風格を感じさせる笑みを浮かべ、ベルナドットの前に立った。
「殿下、メッテルニヒ閣下からの伝言です。オーストリアは未だ中立を保っておりますが……もし貴公が、この計算式に『勝利』という解を書き込めるのなら、わが国も動く用意がある、と」
ベルナドットはナイペルクの隻眼をじっと見つめた。
「メッテルニヒらしい、食えない提案だ。私が火中の栗を拾うのを見届けてから、分け前を奪いに来るというわけか」
「それが、最も合理的な『正解』ですからな」
ベルナドットは鼻で笑い、ナイペルクにワインを注いだ。
「いいだろう。食えない狐には、それ相応の獲物を見せてやらねばな。大使、伯爵、諸君の『経営陣』に伝えたまえ。私の組み立てた計算式は、ナポレオンがすでに『過去の遺物』に過ぎないという解を導き出している、と」
1813年戦役にベルナドットを勧誘したのが、ロシアかオーストリアかは、あまりわからないのです。そのわりにオーストリアの参戦が遅いというのが。
ロシアは破産中、プロイセンは国家再生中、オーストリアは破産寸前。破産三兄弟だけでナポレオンを倒すのは不可能です。そこで、イギリスは投資先としてベルナドットを指名したわけです。
ロシア軍には、ドイツで徴兵した部隊をロシア人でない将校がイギリスの金で動かしていて、ロシア要素どこに? って感じの部隊が結構あります。




