表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/150

エウロ砦防衛戦②

お読みいただき、ありがとうございます!

 夕焼けの光が射す石橋を、級友たちが疾駆する。

 最前列は田中、中ほどに阿門、最後尾が飯田。能力(スキル)の性能と身体能力を考えれば、まず妥当な配置だった。


(ちゃんと陣形戦してるのは偉いじゃねえの。だが魔法屋を連れてこなかったのは失敗だったな……!)


 零仁は左手を柄から離すと、田中に向けてかざした。


汚濁棺封ポリューテッド・コフィン!」


 声とともに、田中の身体が毒々しい水玉に呑み込まれる。水と闇の属性複合によって、毒の水に浸し続ける魔法だ。


「んぐぼぁ⁉」


田中(たな)っ⁉」


「構うなっ! 田中(たな)能力(スキル)なら死にゃしねえっ!」


 取り乱す阿門を制して、飯田が迫る。

 だがその予想とは裏腹に、田中は水の中で苦しげに藻掻いていた。


(田中はタフだがバカだ。【変幻自在(トリック・スター)】のことも、ただ攻撃が効かなくなる能力(スキル)だと思ってる可能性が高い……!)


 総じて、『【変幻自在(トリック・スター)】は発現する事象を自在に操れる魔法攻撃に弱い』――これが幾度か剣を交えた上での、零仁の結論だった。


 輝良曰く【変幻自在(トリック・スター)】は、”術者が攻撃と認識した事象”によって発生する”ダメージ”を”一定の回数、無効化”する。

 パッと見は強力だが、裏を返せば田中が”害意を持った他者からの挙動によるダメージだと認識しなければ、無効化できないのではなかろうか。


 しかも仮に攻撃と認識されたとしても、攻撃の挙動そのものを無効化できるわけではない。

 水の中で溺れれば窒息する。毒性ある物質が混じってれば、身体を蝕まれる。これらの現象を、瞬時に”ダメージ”だと断定できる人間はあまりいない。よしんばできたとしても、制限回数の壁がある。


 以前の魔法による着火・炎上は二度目で防がれたが、今回は零仁の魔力(マナ)保有量も増えている。しかも水魔法は田中の前で使ったことがないので、ノーマークのはずだ。


(燃やすのがダメなら、水を使った二段構えよ。これで魔法が解ける頃には、喰い時になってるだろうぜ……!)


「【残影疾駆(レムナント)】!」


 ほくそ笑んだ時、飯田の姿が掻き消えた。

 気配が生まれたのは、すぐ左。視線だけで見れば、すでに飯田が剣を振りかぶっている。


 重量のある罪斬之剣(クライム・ヴェイン)がすぐに届かない、いい位置だ。

 仮に斬撃を【影潜り(シャドウ・ダイバー)】なりで躱されても、出てきたところを阿門に仕留めさせるつもりなのだろう。


(悪くねえが、それだけだな)


 斬撃が届く直前。


悪愾燭灯(マリシャス・トーチ)


 名づけとともに、左掌を飯田の腹に当てた。

 掌を中心に黒い炎が灯った。一瞬で、飯田の全身に燃え広がる。


「ぎゃああああああっ⁉」


 闇と火の複合魔法で、本来は手を触れた対象を発火させるだけの魔法だ。本来は焚火などに使うが、そこを黒い炎のイメージを混ぜて威力を強化している。


「えっ、勇人……⁉」


 阿門が呆然とした表情で足を止めた。傍らには、すでに【幻体舞踏(ミラージュ・ダンサー)】による幻影が生まれている。

 零仁の位置まで十歩ほど。目が見える位置だ。


「【強迫の縛鎖(デュレス・バインド)】」


 目を見つめると、阿門の身体がびくりと震えた。

 格下の相手ひとりの動きを止める能力(スキル)だ。魔法による拘束手段も増えたが、対多数の状況なら依然として便利ではある。


 動かぬ亜門の身体をのっぺらぼうの幻影が肩に担ぎ、背を向けて走り出す。自身だけでも逃げようという算段らしい。


(意識がはっきりしてるなら術者の意志で操れるのな。オーケイ)


「【打ち放つ者(エリアル・ランチャー)】」


 足裏に生んだ水の膜を踏みしめ、自身の身体を垂直に吹き飛ばす。またたく間に幻影まで追いつき、担がれた阿門もろとも大剣で叩き斬った。

 支えを失った阿門の身体から、遺灰(はい)が舞う。


「……【遺灰喰らい(アッシズ・イーター)】!!」


 触れた左掌に生まれた黒い紋が、物言わぬ阿門の身体を飲み込んでいく。未だ能力(スキル)の縛めが解けないせいか、断末魔すら聞こえない。

 程なくして阿門を喰らい終えると、脳裏にひとつのイメージが浮かぶ。


 ――放課後の教室らしい。

 目の前には数人の同級生たち。男女混合、中には別のクラスの者もいる。


『帰り、カラオケ寄ってく?』

『いいぜ~。俺、マイク離さないからよ~』


 見えるイメージが、図書室へと切り替わった。

 目の前にはメガネをかけた黒髪女子がいる。たしか隣のクラスだったはずだ。


『阿門くんって、意外と落ち着いてるね。ちょっと意外』

『あれは周りに合わせてるだけだから。本当はこうしてる方が……』


 ふたたび風景が変わり、校舎の階段になった。今度は舘岡たちと一緒にいる。


『阿門、お前また彼女変えたって? 随分と調子いいじゃねえの』

『舘岡ほどじゃないよ。でもまあ、好きって言ってくれるならしょうがないっていうか……』


(そうやって、みんなに合わせるように演じて踊ってたわけだ。最後は自分だけ逃げようとしたけどな)


 なおも変わろうとした風景が溶け落ち、ひとつの歪な形を取る。

 脳裏に、【幻体舞踏(ミラージュ・ダンサー)】の名が刻まれた――。


 視界が戻ると、飯田は橋のたもとにいた。脇には肌を紫色に染めた田中がいる。

 阿門の記憶を見ている間に、田中を抱えて能力(スキル)で距離を取っていたらしい。二人とも、身体から黒い遺灰(はい)が舞い上がっている。


「二人とも食べごろになったじゃねえか。さて、どっちから行くかね」


 にんまり笑ってみせると、飯田と田中の顔が引きつった。


「クソ……来るな、来るなああっ!」


「てんめえっ、祓川……うぉごふぉっ……ごほっ。絶対、絶対ぶっ殺して……!」


 超えには応じず、足裏に水の膜を生む。

 能力(スキル)を遣おうとした、その時。


 視界の彼方から、空を裂き飛ぶ何かが見えた。


(二つの、斧……⁉)


 その正体を悟った途端、右の斧が氷、左の斧が炎を噴き上げる。

 白の大剣で打ち払うと同時、朱色の空に黒い影が舞った。


「ッ……! 【打ち放つ者(エリアル・ランチャー)】!」


 呼気を吐き出しながら、自らの足に吹き飛ばしの特性を付与して後ろに跳ぶ。

 一拍足らずの間をおいて、たった今まで零仁が立っていた場所を黒い斧槍(ハルバード)の刃が叩く。


 着地とともに前を見れば、そこには見知った黒鉄の鎧姿。額に十字傷をこさえた巨漢だ。


「……ったく、言わんこっちゃねえな。想像してたよりひでえ」


 【武極大帝(タイラント)】――舘岡亮平が、言葉とは裏腹の笑顔で零仁を見つめた


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ