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反攻の初手

お読みいただき、ありがとうございます!

 グスティア城の奪還から、ざっと一ヶ月――。


 その日のグスティア城は、装いも様々な騎士たちでごった返していた。

 旧王派の与力として参じた各地の諸侯が、いつにも増して多かったのだ。


「お初にお目にかかります、アリシャ王女殿下! ハインリヒ・ヴァン・グロースター、並びに我が騎兵三〇〇、ただいま参陣仕りました」

「レオポルト・ヴァン・ベーレン、歩兵四〇〇……推参いたしました。糧秣も持てるだけ持参しております」

「ヴェルナー・ヴァン・シュタインブルクだ。あんたの親父さんには世話になった。城を直すしか芸はないが、どうせのみを振るうなら親父さんの旗の下がいいと思ってな」


「皆さま、よくぞお越しくださいました。先王である父も、この光景を喜んでいることでしょう」


(いやほんと、何人来るんだよ……? ここ最近で一番多いんじゃねえか……?)


 礼服姿のアリシャが挨拶を受ける傍らで、祓川ふつがわ零仁れいじは呆然と騎士たちを見つめていた。広めの応接室だが、すでに部屋に収まりきらないほどだ。


 共に連れてきた兵士たちは当然、城の内外に溢れているはずだ。今頃、城下の住民たちはほくほく顔だろう。


(前の王様、色々やらかしてくれてっけど……人望はあったんだなあ。まあグスティアを綺麗に獲り返したのもデカかったんだろうが)


 その奇跡の一勝と、先王ヴィルヘルムの落胤が王家の正統たる証である“御印の力”を宿していることは、またたく間に島中に広まったらしい。


 直後、それを証明するかのように諸侯たちが次々と集まり始めた。聞けば東部の領地を捨てて、はるばるやってきた者もいた。今や旧王派の陣容は、以前とは比較にならぬほど膨れ上がっている。


 雨降って地固まる、という言葉を思い出していると――。

 最初に挨拶した金髪騎士の視線が、零仁へと移った。


「失礼、その黒ずくめの装い……もしや貴殿、【遺灰喰らい(アッシズ・イーター)】か?」


「へっ……⁉ えっ、いや……あっ、はい……」


 唐突に話しかけられたショックもあって、自分でも嫌になるほど狼狽してしまう。

 だが金髪騎士は気にも留めず、目を輝かせながら手を握ってきた。


「おお、やはりそうか! ダリアでの砦陥としに続いて、グスティアでの武名、つとに聞き及んでおりますぞ!」


 その言葉に、周囲の騎士たちの視線が一斉に零仁へと向く。


「おお、彼が……!」

「息子ほどの歳じゃねえか」

「この若さで大したものだ」

「しかも最上位級ハイエンドではないとか」


「あ〜いや……その……」


「失礼します。【星眼の巫女(ステラ・シーカー)】、テラ・ニイハルです」


 しどろもどろになる零仁をフォローしたのは、隣の黒髪ボブの眼鏡少女――輝良だった。


 共に転移したクラスメイトで、今では零仁といい仲だ。

 最近は軍師エレインの手伝いまでしており、こうしてアリシャの秘書役もこなすようになっている。


「歓談の席は後ほど改めて設けます。殿下へのご挨拶が済んだ方は、こちらで麾下の兵数登録にご協力ください」


「あ、ああ……すまない。承知した」


 道服姿で書類を抱えた輝良を見て相応の立場だと察したのだろう。騎士たちは登録を済ませると、三々五々に散っていった。


 その後も似た対応を何度か繰り返し――。

 ようやく列が途切れた頃には、窓から見える太陽はすでに中天を過ぎていた。


「……だあああああっ、疲れた!」


 扉が閉まった途端、零仁は椅子にずるずるとへたり込んだ。

 ふと隣を見ると、輝良が木の板に挟んだ紙を見つめている。


「エルデマン男爵が岩山に狼、リンドホルム子爵が三本矢、クロイツベルク伯が青地に十字剣と星……っと。伯爵以上だと家紋に下地が使えるんだね」


「お前、よくそんなの覚えてられるなあ……」


「レイジくんも覚えるの。家紋を覚えるのは相手への礼儀だし、戦場じゃ敵味方を見分けるのに必須なんだから」


 そこへ、隣で大仰な椅子に腰掛けていたアリシャが顔を向けてきた。


「あんなの覚えなくていいわよ〜。あたしも半分くらいしか覚えてないし」


「ちょっとアリシャさん……」


「爵位と家紋で人の値打ちが決まれば苦労しないわよ。兵だって当主の方針で強さが全然違うしね」


 先ほどとは打って変わってラフな口調だが、ついこの間まで村娘として暮らしていたのだから、こちらが素だ。


「それにあたしが作りたいのは、爵位や家紋が意味を持つ国じゃないから」


「それって……」


 輝良が言いかけた時、扉がノックされた。

 入ってきたのは長い銀髪の少女――カテリーナことカティだ。

 零仁たちの恩人である辺境領主カークスの遺児で、今はアリシャの身の回りの世話役を務めている。


「失礼します。そろそろ軍議のお時間です」


 簡素な礼服だが素材の良さと立ち居振る舞いが相まって、誰の目にも見惚れるほどよく似合っている。


「は〜い、今行きます。軍議のほうがよほど気楽だわ」


「同感だな……」


 零仁は気だるげに返し、倦怠感を追いやるように大きく伸びをした。


 *  *  *  *


 軍議の会場は、グスティア城の最上階にある大部屋だ。

 通信想石を背にするように、アリシャが上座につく。


 零仁と輝良がテーブル前に整列すると、アリシャの右手に座る長髪の男――グスティア城主リカルドが口を開いた。


「与力の謁見、お疲れ様でした。今日は殊更に多かったですな。【遺灰喰らい(アッシズ・イーター)】と【星眼の巫女(ステラ・シーカー)】もご苦労だった」


「ホント疲れましたよ……。あれ、俺も出なきゃいけないんすか?」


「そう言うな。貴殿の武名は今や方々に轟いている。アリシャ様の素性もさることながら、そうした噂を加味して旧王派(こちら)に付くことを決めた者も多いのだ」


 苦笑するリカルドの対面では、車椅子に座る黒髪の妖艶な美女――旧王派の智嚢“不動の”エレインが、輝良の持ってきた書類に目を通していた。


「今日だけで、しめて三〇〇〇ってところかしら。今まで来た分を全部合わせたら、グランスさんとこの獅子騎士団レーヴェ・リッターと傭兵の穴を埋めて余りあるわネ」


「日和見してた連中だから、質はアテにならないわよ。編成と訓練がてら、エウロやノトゥンの修繕に行ってもらいましょう」


 先のグスティア攻防で帰らぬ人となった将の名に、アリシャが憮然と応じる。

 父親代わりだった男の軍と比べられたのが、何となく嫌だったのかもしれない。


「そのつもりよ。さて……問題は、残り一つの砦ネ」


「ボレア砦、ですか」


「ええ、与力の参集もだいぶ落ち着いてきたし。あなた達にはボレア砦の攻略を支援してもらうわ」


 輝良の言葉に、アリシャが笑顔で頷く。


 ボレア砦――。

 島中央を流れるトリーシャ河の流域にある三つの砦のうち最北に位置し、北街道ノルトヴェークの関所も兼ねた要衝である。現在は新王派に奪われたままだ。


「今って、御老公……でしたっけ? その人がずっと抑えてんですよね。たしか王国五将のひとりって……」


「うむ。元々ボレア砦があるリバーベルは御老公の領地だからな。敵方が軍容を整える前に奪い返し、トリーシャ以西の支配権を確立したい」


 老公ライナルト――。

 王国五将家の一柱にして旧王派の主軸だが、零仁は顔を合わせたことがなかった。


光護隊ルカ・ヴェヒタの全員で行って、御老公と一緒に攻略に当たって。あと魔物たちもしっかり連れて行くのよ」


「え、なんで……?」


 零仁の能力(スキル)――【遺灰喰らい(アッシズ・イーター)】は、殺した転移者の能力(スキル)を奪う力を持つ。

 その中に、魔物を使役する【心を手懐ける者ラヴィッシュ・テイマー】がある。


 当初の持ち主だった級友の俣野は、狼一匹しか使役できなかった。

 しかし零仁が取り込んでからは、“格”が反映されたのか一〇〇匹以上の魔物を使役できるようになっている。


 暇を見ては魔物を使役しに出たおかげで、今は黒魔狼エヴォン・ウルフと呼ばれる狼が一〇〇匹ほど。ちょっとした小隊くらいなら真っ向勝負でも打ち破れる。


「たしかにワンちゃんたち、機動戦や奇襲では強いんですけど〜。正面切っての拠点攻めだと、どうでしょう……?」


「そうなんだけどね。御老公がちょっと変わった方だから……。ま、行けば分かるわ」


 頬に指を当てて考え込む輝良に、アリシャが苦笑した。


「貴殿らは『修繕警護のためエウロ砦に駐留中』と誤情報を流してある。リバーベルまでは迂回路で向かうことになるから、明日の朝にでも発ってもらいたい」


「ボレア攻略は、反攻における大事な前哨戦よ。頼んだわネ」


 すでに決定事項とばかりのリカルドとエレインの態度に、零仁と輝良は顔を見合わせるのだった。

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