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人獣連携

お読みいただき、ありがとうございます!

 ホールの長机の上を、大剣を担ぐように構えた佐伯が走る。

 敵方の傭兵たちと鷹の騎士たちが、一斉に掛かり合った。リカルドも紫炎を纏ったサーベルを振るって応戦している。


(転移者の相手は転移者で、ってことね!)


分離(セパレート)!」


 零仁は両剣を二刀に分離させ、佐伯に向かって駆け出した。

 彼我の距離が、またたく間に距離が詰まる。

 佐伯の顔がはっきり見える位置で、零仁はその目を強く見据えた。


「【強迫の縛鎖(デュレス・バインド)】!」


 格下なら相手の動きを縛る――はずだった。

 だが佐伯はすんでのところでステップし、軌道を変える。


(なに……⁉)


 勢いを殺さず、左側から横薙ぎを仕掛けてきた。


「それ、カスの荒木の能力(やつ)でしょ! キミが持ってるって話は聞いてたよ!」


 零仁は双剣の片割れで受け止めるも、勢いに押され右へ飛んだ。


「当時の連中は、みんな躱し方を知ってるんだ!」


 テーブルを降りたところを狙って、佐伯が鋭く突きを入れてきた。辛うじて避けるが、すぐに間合いを詰めてくる。


 佐伯の大剣は柄が長く、鍔から上の部分も握れる作りになっていた。大剣というより、日本の長巻に近い。


(室内でどうやって大剣を振り回すのかと思ったら……そういうことか!)


「【影潜り(シャドウ・ダイバー)】!」


 佐伯の影に潜り、背後へ飛び出す。

 しかし佐伯はすでに大剣を振り回すように構え、左へ跳んでいた。


「そういう系の能力(スキル)、厄介だよね!」


 横薙ぎの刃を双剣で交差させて受け止め、零仁は刃を滑らせるように間合いを詰めた。


「【目眩の閃光(デイズ・フラッシュ)】!」


 目の前で放つ閃光。だが佐伯は刹那に目を閉じてやりすごす。

 さらに目を閉じたまま大剣を短く構え直し、零仁の脇腹へ突きを繰り出してきた。


(はあっ⁉)


「ハハッ、聞いてたとおりの戦い方するね!」


 跳び退った刹那、刃が革鎧をかすめた。

 あと一瞬遅ければ、致命傷だった。


(武器技能なら、いいとこ中位級(ミドルクラス)のはずなのに!)


 佐伯は細い目を開け、大剣を短く構える。

 【一対の手練(ツヴァイハンダー)】――両手武器に適正を持つスキルだろう。


(身のこなしがドリーさんみたいだ……! こいつ、“格”が高い!)


 視線を巡らせると、ホールは混戦となっていた。

 傭兵たちは佐伯の直属なのか、外の者より明らかに質が高い。鷹の騎士たちもリカルドも、転移者の戦いに深入りしようとしない。


「目を閉じてたって戦える! この二十年近く、それしかしてこなかったからね!」


 佐伯がふたたび突進してくる。突きを躱すと、今度は柄で打ち、さらに蹴りを織り交ぜてくる。


(舘岡ほどの圧じゃないが……長引かせるのも面倒だ! なら……!)


 零仁は双剣で突きを払って間合いを取る。

 佐伯が踏み込んだ瞬間――。


「ガウル、来いっ!」


 横合いから飛びかかったガウルの牙が、佐伯の右肩に食い込んだ。


「ぐあっ……!」


「ちょっとびっくりしましたよ。いやあ、俺って意外と有名人なんすね」


 振り払った佐伯に、零仁は左手をかざす。


「貴様……横槍など……ッ!」


「すいませんね……こうして生きてきたんでっ! 悪愾燭灯(マリシャス・トーチ)!」


 次の瞬間、黒い炎が佐伯の革鎧を焼いた。炎はまたたく間に全身へ広がり、見ていた傭兵たちに動揺が走る。鷹の騎士たちが勢いづいた。


「ぐぅっああああっ……そんな、複合属性の魔法なんて……⁉」


「俺の全部は知らなかったみたいっすね。まあ、色々できるようになるんすよ!」


 零仁は右手の双剣で、佐伯の首を薙いだ。

 灰が舞う。

 炎の収まった右肩に、左手を置いた。


「【遺灰喰らい(アッシズ・イーター)】ッ!」


 黒い紋様が掌から広がり、佐伯の身体を灰に変えて吸い込む。


「ッガ……アハハッ、巻かれる……相手を……間違えた、か……」


 それが、最期の言葉だった。

 佐伯の身体が取り込まれると、視界が灰に閉ざされていく。


 ――どこかの戦場だった。あたりは見渡す限り、累々と横たわる兵士の屍。


 その中心に、見覚えのある白い軍装の大男が立っていた。今よりはるかに若く口ひげもないが、間違いなくグランスだ。 

 どうやら佐伯は、過去にグランスと戦い、敗れたらしい。


『ハハ……【大いなる御手(マイティ・ハンズ)】と()って死ねるなら本望かな。さあ、終わりにしてよ』


 佐伯の気だるげな声に、グランスは今と同じ笑みを浮かべた。


『お前さん、ただの傭兵だろう。その若さで命まで張るこたあねえよ。どことなりと行っちまいな』


『そういうことしてると……いつか首を掻きに行くよ?』


 するとグランスは、弾けたように笑った。


『ガッハッハ……そいつぁ楽しみだ。ちゃんと生きて、ちゃんと来いよ? お兄さんとの約束だ』


 悠然と去っていく背中と景色が溶け落ち、零仁の中でひとつの形を取る。

 記憶に、【一対の手練(ツヴァイハンダー)】の名が刻まれた――。


新王派(そっち)に付いたのは……長いものに巻かれる、ってだけじゃなかったんだな)


 視界が戻ると、リカルドと鷹の騎士たちが零仁を見ていた。

 佐伯を喰っている間に、敵方の傭兵はすべて片付いたらしい。


「……それが、貴殿の能力(スキル)か」


 おぞましいものを見る視線には、もはや慣れっこだ。

 零仁はへらりと笑い、双剣の片割れを拾い上げた。


「ええ、まあ。それよりベルトランでしたっけ? あいつ、とっ捕まえないと」


「う、うむ……この上が通信想石室だ。行くぞ」


 リカルドの言葉に、騎士たちが階段へ駆け出そうとした時。


「ウォン、ウオォン!」


 ガウルがいきなり吠えた。元来た下り階段へ走り、さらに吠える。


「なんだ……? 上じゃない、ってことか?」


 その時、どこからともなく澄んだ音がした。

 想石の魔力(マナ)を解き放った時の音に似ている。幾重にも響き、やがて部屋全体を包むように広がっていく。


(想石……まさかっ!)


「皆さんっ! 逃げてくださいっ!」


 零仁が叫ぶと同時に――。

 ホールの壁に大きな亀裂が走り、赤々とした炎が噴き上がった。


 *  *  *  *


 主棟が崩れ落ちたのは、最後尾の騎士が入り口から飛び出した直後だった。

 炎を噴き上げる瓦礫の山に、先ほどまでの威容の面影は微塵もない。


「ベルトランめ……自爆の仕掛けを逆用したか」


「えっ、元から仕込まれてたんすか……?」


「ああ、この砦は我が領地の予算で築いたからな。敵に乗っ取られた時に砦ごと焼けるよう、魔力(マナ)を用いて遠隔で発動できるようにしてあったのだ。まさか敵に使われるとは思わなかったが」


(い、一体どんな状況を想定してたんだよ……)


 あたりを見回すと主棟だけでなく、四方の外壁までもが無残に焼け崩れている。

 これではたしかに、砦の用は為さない。


(そうだ、グランスさんたちは……⁉)


「うぉ~い! レイジ~、無事かぁ~?」


 東門のほうを見た時、野太い声が響いた。

 見れば砦跡の横合いから、大剣を担いだグランスがのっしのっしと歩いてくる。


 脇には輝良が宙に浮いて座っていた。【大いなる御手(マイティ・ハンズ)】の見えざる掌に腰掛けているのだろう。


「無事っすよ。そちらもよくご無事で」


「伏兵どもを()した後、さて砦攻めに戻るかと思った矢先にこれよ。おかげで助かったがな」


「転移者の傭兵が紛れてて大変だったよぉ。ホント、どっからあんなにかき集めたんだか……」


 輝良がぼやく横で、グランスはリカルドへ目を向けた。


「なんだ、リカルド。お前らも来てたのか」


「なんだ、はなかろう……。(ふみ)を読んで慌ててエウロに来てみれば、このザマだ。一体、何がどうなっている?」


「ハゲマムシにしてやられたよ。思っていた以上に、旧王派(こっち)の足元は緩かったらしい……」


 グランスとリカルドが話しこむ傍らで、輝良がそっと隣に寄ってきた。


「それにしても、よく気づいたね。砦の中で戦ってたんでしょ?」


「ああ、こいつのおかげさ。……でも結局、生き残ったのはお前だけか」


 零仁はそう言って、ガウルの頭を撫でた。

 他の魔狼たちは砦での戦いで次々と倒れ、残ったのはガウルだけだ。


『あ、なた……は……っ! い、き、て……っ!』


 俣野が今わの際に放った言葉が甦る。


「……ご主人様の言いつけだ。お前は、生きろよ」


 目を見て言うと、ガウルは分かったとばかりに一声吠えた。

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