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壁上で待つ者【里緒菜/零仁】

お読みいただき、ありがとうございます!

 一方、その頃――。

 里緒菜はネロスの内廓、主棟を守る城壁の上に設えられた指揮所から、北門の攻防を見ていた。東西の城壁の攻防も、千里眼の魔法を併用してつぶさに観察している。


 その時。千里眼の視界で、騎兵の一団が動いた。囲まれていて見えづらいが、灰馬を駆る零仁の姿がある。


(動いたわね、零仁くん)


 ほくそ笑むと、床几に座るバルサザールの方を振り向いた。

 でっぷりとした身体に全身鎧を纏い、上から黒地に緑の刺繍を入れた陣羽織を着た姿は、貫録を感じなくもない。


「【遺灰喰らい(アッシズ・イーター)】が動きました。予定通り、包囲部隊を向かわせます」


 神妙に告げると、バルサザールも余裕の表情で頷きを返してきた。

 右手には酒が入ったグラスを持っているあたり、ここまで攻め込まれるとは微塵も思っていないらしい。


「やはり遊撃に使ってきますか。こうなると早めに包囲部隊を船に乗せて、東西の背後を突いた方がよかったのではないですか?」


 ネロス城の背後を流れるミーナ川の流れは緩やかだ。小舟でも魔法を使えば、流れに逆らって進むことなど造作もない。

 船を用いた奇襲部隊で東西いずれかの敵陣を崩せば、北にいるグランス本陣の脇腹を突けるだろう。

 しかし里緒菜は、ゆっくりと首を振った。


「いずれの敵陣にも、後方に騎兵隊が待機しています。足止めされる間に、【遺灰喰らい(アッシズ・イーター)】と挟撃されると面倒でしたから」


「ううむ。それであれば、あなた方も攻撃に参加すれば……」


 言いかけたバルサザールに、波留が冷ややかな視線を向けた。


「北の城門は言うに及ばず、東西の城壁上も被害が拡大しています。元々、兵数は旧王派(あちら)が圧倒的に上です。広域回復魔法なしでは、昼を待たずに押し切られます」


「ぬう、敵も抜かりありませんか……結構。手はず通りに進めてください」


 そう言ったバルサザールの膝上には、短い黒髪をひとつ結びにした女子がしなだれかかるように座っていた。小柄な体に、丈の短い薄手の服。太ももが露になったスカートの裾には、バルサザールの手が入り込んでいる。


 【水練達人(ウォーター・アデプト)】――刈谷(かりや)明日香(あすか)

 ダリア砦陥落でのバルサザールの怒りを鎮めるため、伽役にした女子だった。最下位級(ローエンド)能力(スキル)での偵察役くらいしか仕事がなかったので、ちょうどよかったのだ。


(波留の勧めで宛がってみたけど、気に入ってよかったわ。小動物系が好みなあたり、あの新治(アバズレ)を引きずってるねぇ~)


 悩ましげな表情で呻く刈谷をよそに、里緒菜は千里眼の視界へと意識を戻した。

 零仁を擁する騎兵の一団は、西の城壁へと向かっているらしい。


(それにしても零仁くん、【燐光の抗剣(レジスト・フォスファ)】を使わなかったの……なんで?)


 かつて零仁と相まみえた際に使われた能力(スキル)だった。口ぶりからして、ドミナの戦いで戦死した転移者のものらしい。


 魔法を吸収する能力(スキル)で、吸収した魔法を魔力(マナ)に変えたり、光の刃として打ち出すこともできる。魔法使いにとっては、天敵とも言える能力(スキル)だ。


(あれを警戒して、地咲や火音を砲台代わりにしたんだけど……もしかして使わないんじゃなくて、使えなかったり?)


 いかに【大いなる御手(マイティ・ハンズ)】がいるとはいえ、最上位級(ハイエンド)の攻撃魔法を前にして、対魔法の能力(スキル)を使わない選択肢などありえない。


 かつての死闘の最後で零仁が見せた、遺灰纏装(アッシズ・アームズ)なる灰色の剣――。

 あの絶大な力と引き換えに【燐光の抗剣(レジスト・フォスファ)】を使えなくなったのであれば、だいぶ戦術の組み立て方が変わってくる。


(使い手よろしく、分からないことが多すぎるのよねえ……。ま、ひと当てしてみますか)


 里緒菜は気を取り直すように息を吐くと、傍らに控えていた伝令を呼んだ。


 ◆  ◆  ◆  ◆


 ネロス城を左手に見ながら、騎兵たちに囲まれ馬で駆けることしばし。

 零仁は、西の城壁を攻める部隊に合流していた。


(いやまあ、予想はしてたけど……北に比べると地味だな~)


 敵味方とも、矢の応酬を魔法結界と盾で防いだところに、陣形で増幅した攻撃魔法を打ち込んで数を削っている。


 グランスや敵方の最上位級(ハイエンド)がいないので当たり前なのだが、その分ねじ込み甲斐がありそうだった。


「【遺灰喰らい(アッシズ・イーター)】、グランス公の命により助勢に来ました」


 一声かけると、ドレファスことドリーと、アンリが顔を向けてくる。

 二人とも革鎧の軽装で、アンリに至っては弓兵用の胸当てと革の籠手脚甲だけだった。ドリーの得物は、背中に負った細長い剣状鎚(ソード・メイス)。アンリは背の短弓と腰の(えびら)を見るに弓兵らしい。


「おお、さっきぶり~! 北側で花火をかましたって?」


「ええ。最上位級(ハイエンド)の連中に、すぐ回復されちゃいましたけど」


 笑顔のドリーに応じると、アンリが対照的に険しい表情を浮かべる。


「先ほどの青い光……やはり最上位級(ハイエンド)の仕業か。多少無理をしてでも、ひと息に決める必要がありそうだね」


「はい、グランスさんも同意見です。そのために俺が回されてきました」


「いいだろう。じゃあドリーと一緒に、城壁の上でひと暴れしてくれたまえ。ボクの戦絵(アート)が完成するまでね」


「えっ、でも……どうやって城壁の上に?」


 アンリの言葉に、自陣を見回す。

 進軍の最中も疑問に感じていたのだが――城攻めだというのに、攻城兵器の用意がまったくないのだ。道中で作ったり途中で合流したりするのかと思いきや、それもない。


 城の設備を攻撃する投石機や破城槌などは、魔法で代用するのだろうとなんとなく思っていた。

 しかし雲梯(うんてい)井闌車(せいらんしゃ)といった人を運ぶ類の兵器は、さすがに代えが利かないのではなかろうか。


 言わんとすることを察したか、ドリーとアンリは一瞬だけ顔を見合わせた。だが、すぐに弾けるように笑いだす。


「そうか~! キミ、城攻めは初めてかぁ~! ネロスがデビュー戦とか最高じゃないか!」


「ダリアも奇策で()としたと聞いたからね。無理もない」


「それはそうなんすけど……えっと、どういう……?」


 戸惑っていると、ドリーがバンと肩を叩いてくる。


「オーケー、オーケー! ここはいっちょ先輩らしく、お手本を見せてやるとするかあっ!」


「よし……歩兵全隊、第二魔法隊、前ヘっ! 弓兵隊の斉射後に仕掛けるっ!」


 アンリの号令に応じて、歩兵たちが前に出てきた。ドリーはその先頭だ。少し後ろには、結界や攻撃魔法を担当しているのとは別の魔法隊が整列している。

 零仁がそそくさと歩兵たちに混ざったあたりで、鐘が二度鳴った。


「弓隊……放てえっ!」


 優しげなわりにはよく通るアンリの声で、弓兵たちの斉射が始まった。例によってほとんどが魔法結界に阻まれる中、アンリが短弓で一射を放つ。


 他の弓兵よりはるかに速い矢が、城壁上の兵士に突き立った。かと思うと爆炎が生まれ、艶やかな炎の花が咲く。

 魔法を込められる(やじり)を用いた、魔鏃(まぞく)の矢による攻撃だ。


「よし、乱れた……! 歩兵隊、かかれえッ!」


「っしゃああっ! 第一隊、いくぞおおおおっ!!」


 ――ウオオオオオオオオッ!


 ドリーの大音声に続いて、歩兵たちが鬨の声を上げた。横陣を組み、城壁に向けてまっしぐらに駆けていく。


(いやいや、堀があるだろ⁉ そもそも西は城門がないのに……!)


 どこから入る気なのか――零仁がそう考えるより早く、魔法隊が動いた。


『地に眠りし精霊よ。汝の息吹で、我が同胞を空へと導く……!』


 三人一組で陣を成した隊、それぞれが唱和しながら城壁に向けて手をかざす。


『……跳ね翔けろ! 跳躍地創(バウンド・アース)ッ!』


 響き重なる”名づけ”とともに、堀の前に緑色の紋様が生まれた。

 ドリーが、第一隊の歩兵たちが、次々と紋様を踏みつけると――


(……跳んだっ⁉)


 元の世界にある遊具のように紋様がたわみ、彼らを高みへと跳ね飛ばす。


 気づいた敵兵たちが申し訳程度に矢を射るが、射ち落される者はごくわずか。その間、着地したドリーの振るう剣状鎚(ソード・メイス)が、数人の敵兵を吹き飛ばした。


『……槌頭(ハンマ・ヘッド)、ドレファス・マーカムッ! 一番乗りいいいッ!!』


 ――ウオオオオオオオッ!!


 拡声魔法を使ったのだろうドリーの声に、西陣の兵たちが沸く。

 それを見たアンリが、零仁に微笑みかけてきた。


「要領は分かったね?」


「ええ、おかげさまで」


「では【遺灰喰らい(アッシズ・イーター)】のお手並み、拝見と行こうか……! 第二隊、進めえっ!」


 ――オオオオオオオッ!


 我も続けと言わんばかりに、歩兵たちが鬨の声を上げて走り出す。

 零仁も周囲の熱に身を任せ、城壁に向けて駆けた。程なくして、前方の地面に緑の紋様が現れる。

 城壁の上はと見れば、ドリーたちが暴れているおかげか矢の一条すら飛んでこない。


(ドリーさんは真西か! 逆サイド、行きますかっ!)


 見当をつけて、気持ち北寄りの位置にあった紋様へと走り込む。

 屈みこみ、自身をバネにするイメージで跳んだ。足元の紋様がたわみ、握りしめた金属の戦槌もろともに、零仁の身体が城壁の上空へと跳ね飛ばされる。


「……憎悪炎招ヘイトレッド・フレイムッ!!」


 名を告げると、戦槌が黒い炎を帯びた。

 着地とともに打ちつけると炎が爆ぜ、周りにいた敵兵たちを吹き飛ばす。


「アッ、【遺灰喰らい(アッシズ・イーター)】⁉」

「なんで西(ここ)に……ぐほっ!」

「北にいるんじゃなかったのか……ぐぎゃあっ⁉」


 口々にわめく敵兵たちを、戦槌で片っ端から叩き落す。

 改めて見ると、城壁の上はかなり広かった。元の世界で言うならば、自動車が楽にすれ違えるくらい、といったところだろうか。


(このまま城壁伝いに北門の上に行ければ、庄山と塔村を()れる……っ!)


 当たりをつけて駆け出そうとした時。

 にわかに降り注いだ風弾と石礫(いしつぶて)を、戦槌で弾いた。


 行く手にある階段から、数人の男たちがゆらりと姿を現した。いずれも見覚えのある顔だ。


「……よお、やっとご到着かい」


 鈍色の全身鎧を纏い、級友(かたき)たちの先頭に立つは【武極大帝(タイラント)】――舘岡亮平。

 その姿を前にした時、零仁の内にある黒い炎が燃え盛った。

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