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終戦、そして

お読みいただき、ありがとうございます!

 グリゼンダでの会議から二週間後。

 零仁と輝良は、グスティア城の城下を歩いていた。教団領を目指して旅立って以降、足かけ約二ヶ月ぶりの帰還である。


 休戦協定は変わらずなので、前線を離れて久々の休暇としゃれこんでいるのだった。


「アリシャ様が国を創るってよ!」

「リカルド様も改めて忠誠を誓ったとか」

「じゃあ何か、ここが王都になるのか?」

「戦争が終わってくれれば何だっていいさ……」


 能力(スキル)で耳をそばだてれば、領民たちの会話はアリシャの独立で持ち切りだ。妙な熱気を帯びた様は、どこか新たな時代の到来に浮足立っているようにも見える。


「お~お~。みんな、喜んでるな」


「わたしは素直に飲んでくれて、ホッとしたけどねえ……。焦土戦みたいな感じにならなくて良かったぁ……」


 会談は多少、紛糾したものの――最終的に、王政側はアリシャの独立を受け入れた。

 教団にまで支持されては、とダグラスがやむなく賛同し、ゼノンの答えを引き出した形だった。


 颯手にしてみれば想定外の一手だろう。

 戦わずして負けるか、泥沼に引きずり込まれるかの択を迫ったつもりが、間を綺麗にすり抜けられた形だ。


(まあ実際、颯手たちが戻ってきた上に教団がいないんじゃ、どう転ぶか分からんし……何より皆が望むところじゃない。英断だよ、ゼノンさん)


 停戦協定は、教団を含めて継続。一旦の国境線を島央街道(ツェントルムヴェーク)とし、以東をアリシャ率いる旧王派改め、西部諸侯連合が治めることで合意した。

 いずれは通商条約にも至るのだろうが、これからになるだろう。


 内政面でも、国家の運営方法など問題が山積しているらしい。残りの諸々は都度、グスティアに集まって決めることになっている。


「レイジくん、これからどうする? 一応、戦争は終わったし、バルサザールも死んだし。クラスの皆だってほとんど……」


「まだ颯手たちがいる。それにあいつらが、このまま大人しく思うか?」


 視線だけ向けて応じると、輝良は黙って顔を伏せた。

 颯手の険しい表情は、会談が終わるまで崩れることはなかった。引き下がるとは到底、思えない。


(アリシャとゼノンが揉めるだけで、この平和は崩れる。それこそ颯手が焚きつけないとも限らねえ。今のうちに部隊の運用とか、魔物の遣い方とか見直しておかねえと……)


「……そいえば論功行賞、どうするんだろ。延び延びになってるよね」


「知らねえよ、俺らは傭兵だからな。今ある金や装備を持っていけて、あと魔物たちの餌が何とかなるなら満足さ」


「今まで敢えて何も言わなかったんだけど……レイジくん、欲が無さ過ぎない?」


 無理やり変えられた話題に応じると、輝良がげんなりした表情になる。


 今までは決まった額の金銭に加えて、鹵獲した装備の所有権が報酬だった。

 魔法の鍛冶師(マジック・スミス)製の武器は売り払えば結構な金になるのだが、級友たちから鹵獲した品はすべて使って戦果に繋げているので、報酬と呼べるかは怪しいところだ。


 報酬額も変えていないので、今やガウルやアディンら魔物たちの餌代が大きなウェイトを占めている。


「こっちだって復讐に利用させてもらったんだからな、言いっこなしだろ」


「それはそうなんですけどねぇ。まあたしかに、他に欲しいものなんて……」


 輝良が言いかけたところで、城の方向から黒い何かが飛来した。


「うわああっ⁉ なんだっ⁉」

「魔物だっ! 城に応援を……!」

飛空竜(スカイ・ドレイク)……⁉ いや、あれは……!」


 領民たちが騒ぐ中、零仁たちの周りに翼を広げた竜の影が差す。

 ――アディンだ。


「ココニイタカッ! アリシャガ呼ンデルゾ!」


 すでに軍馬ほどの大きさの竜が、翼をはためかせて頭上に現れたのだ。驚くのも無理はない。

 トリーシャの戦いやグスティアの宴で、アディンの姿を見ていた者たちはさすがに慣れたようだが、領民たちにしてみれば恐怖以外の何物でもないだろう。


「すんません、ウチの魔物(もの)がお騒がせを。……お前、【心を手懐ける者ラヴィッシュ・テイマー】で念話できるんだからそっちで呼べよ」


「ギャギャッ、ソレダト面白クナイ! ミンナ、怖ガッテクレナイ!」


「……さっさと帰れ」


 アディンはつまらなさそうに鼻を鳴らすと、巣になっている城の屋上へと戻っていく。

 言葉を話せるようになったせいで、最近はアリシャが事あるごとに零仁への伝令に使うので困ったものだった。


「ともあれ、次の動きが決まったんだろうな。行きますか」


「休暇とは何ぞや、って感じだねえ……」


 ぼやく輝良に苦笑しながら、零仁は城門のほうへと歩き出した。


 *  *  *  *


 グスティアの執務室に戻ると、アリシャとエレインがいた。

 アリシャはさすがに戦装束ではなく、白を基調とした礼服姿だ。眠れていないのか、目の下のクマによってせっかくの美貌が台無しになっている。


「お休み中にごめんなさい」


「その顔を見せられちゃ文句も言えねえよ。なんかあったか?」


「相談……というよりは、お願いになるわね。論功行賞の件よ」


「さっき、ちょうど輝良と話してた。勝ったからって、別に条件を変えるつもりはねえぞ」


 事も無げに言う零仁を見て、エレインが苦笑する。


「謙虚なこと。ただそれを無理やり変えないといけない、ってなったらどうかしらネ?」


「なんすか、それ……?」


 訝しげに問うと、アリシャはため息を吐いた後に口を開いた。


「単刀直入に言うわ。レイジ……あなたに、爵位と領地を与えようと思ってます」


「はあっ⁉ いいって、そういうのは。ずっと傭兵なのがマズいなら一旦解雇してもらって、その辺の小屋でももらえりゃ……」


「残念だけど、これはあなた方だけの問題じゃないのヨ」


 エレインが言うと、輝良が何かを悟ったように口を開いた。


「……他の諸侯との兼ね合いですか?」


「さすがテラ、ご明察。まさにそこで揉めてるのヨ、別の角度でネ」


「一部の領主たちが疑問を呈しているの。『あれだけ活躍してる【遺灰喰らい(アッシズ・イーター)】は何で城のひとつも持ってないんだ』ってね」


「あ~、そういう……」


 聞いた話では、アリシャは統治圏内に領地を持っている者たちに関しては、それを安堵する方針にしたらしい。


 問題は、新たに馳せ参じた者たちだった。

 西部は土地が余ってるくらいだし、ドミナとネロス、ヴァイスハイトまで切り取ったので、任せたい領地はたくさんある。しかし西部が開拓途上であることを考えれば、どうしても領地の格付けは起こってしまう。


 そこで出てくるのが、『誰がどこを任されるか』といった問題だ。


「みんな新しく国ができるなんて予想してなかったから、どうなるんだって不安がってるのよ。【遺灰喰らい(アッシズ・イーター)】すら領地がもらえないんじゃ期待できないんじゃないか、って」


「しかもゼノン王が、『領地を捨て出奔した者でも、帰参して忠誠を誓うなら新たに領地を与える』と言ってるらしいノ。あっちも誅殺した貴族評議会(アーデルスラート)の連中が治めてた場所がたくさんあるから……。まあ早い話が、囲い込み合戦ネ」


「俺は元々傭兵なんだし、領主さんたちとは扱いが違うんでっせ、じゃダメなんすか?」


「それだけじゃない。【業嵐の魔女(ストーム・ヘクセ)】たちのこともあるのよ」


 アリシャの言葉に、零仁は思わず顔をしかめた。


「たち、ってことは……あいつら全員、貴族の仲間入りってことですか?」


「国王直属の裁定機関、なんて肩書と一緒にネ。ゼノン王が転移者をこれだけ厚遇してる横で、戦の趨勢を変えたと言っても過言じゃない【遺灰喰らい(アッシズ・イーター)】がなんの沙汰も無しってなったら……転移者の皆さんはどう思うかしらネ?」


「あちらは【業嵐の魔女(ストーム・ヘクセ)】たちに加え、【神代の花園ファビュラス・ガーデン】も健在。国を興すことになった以上は、あなたを騎士として正式に主力に据えたという事実が欲しいの……お願い」


 零仁と輝良は無言で顔を見合わせた。

 困ったような、どこか仕方ないと割り切っているような、そんな顔をしている。きっと今、自分もそんな顔をしているに違いない。


 と、その時。扉がノックされた。


「失礼します。お茶をお持ちしました」


 入ってきたのは、アリシャの秘書をやっているカティだ。手にした盆には、茶が四つ乗っている。

 来客がある時は入ってこないはずだが、いるのが零仁たちと聞いて問題ないと思ったのだろう。


 その顔を見た瞬間――。零仁の中に、とある案が浮かんだ。


「……いいっすよ。条件つけていいなら、乗ります」


「本当⁉ ありがとう~っ! で、条件って?」


「まずは俺が指定した領地をもらえるなら、ってやつです」


 喜悦の笑みから、一瞬で怪訝な顔に切り替わるアリシャ。

 零仁はその顔を見ながら、さらに言葉を続ける。


「そんなデカデカと貰おうってわけじゃないっすよ。場所は――」


 その地の名を出した時、カティの目が大きく見開かれた。

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