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聖地トゥルメイン防衛戦

お読みいただき、ありがとうございます!

 零仁たちが戦支度をして外に出ると、すでに見慣れた面々が揃っていた。

 姫反とともにいるのは、【繋ぎ話すもの(リンク・トーカー)】――角田(かくた)昌美(まさみ)だ。


 ちなみにアリシャも先ほどまで前線に出るとゴネていたが、最後はクルトとメイアに託して聖堂にいることになった。

 危険なのもさることながら、聖地に来ているのが大っぴらになると色々面倒なのである。


「昌美ちゃん、状況どう?」


「三つの大通り全部から攻めてきてるから、新市街はほとんど制圧状態。今は旧市街の手前あたりで粘ってるみたい」


 室沢の問いに、角田は苦々しい表情で首を振る。

 それを聞いた零仁は、輝良に目をやった。


「輝良、転移者がどこにいるか分かるか?」


「待ってね……いた、中央の大通りに固まってる! 【心身合一(シンクロニカ)】もいるよ。東西の大通りから来てるのは、山の民(ハイランダー)の部隊だね」


「西はマティアスさんが踏ん張ってる。ウチらは中央の援軍に行くから、(ふっ)ちゃんは東の寛ちゃんと小櫃(おび)っちゃんのほうをお願いできる?」


「オーケイ、サクッと片づけて中央の背後に回り込んでやる。ただ新市街まで行くんじゃ時間かかるな……」


 【残影疾駆(レムナント)】でもいいのだが、周囲の景色が一瞬で変わるおかげで思いの外、道に迷いやすいのだった。トリーシャ河のように真っ直ぐ進むだけならともかく、土地勘がない場所ではあまり使いたくない。

 すると角田が、傍らの大柄なグリフォンを指さした。


「あたしのグリフォンはどう? 【騎乗の極意(ライド・マスター)】があるなら乗れるでしょ」


 跨って手綱を取ると、ずっと前から乗り方を知っているような錯覚に襲われた。

 鐙が翼と首の間あたりにあるので、その気になれば長柄の武器も振るえそうだ。


「こいつはいいねえ、借りてく! 角田、【繋ぎ話すもの(リンク・トーカー)】って誰が繋がってる?」


「今はマティアスさんだけ。四人を繋げるようになったから、あたしがここに残って輝良ちゃんと明美ちゃん、(ふっ)ちゃんを繋げばいいね」


「頼む。よし、行くぞっ!」


 零仁は角田とハイタッチを交わすと、グリフォンを駆って鬨の声響く空へと舞い上がった。


 *  *  *  *


 聖堂の前から飛び立ち、東の方角へと進む。

 石造りの街並みに入ったあたりには、身体に紋様を描いた半裸の男たちがひしめいていた。見えるだけでもざっと五〇〇はいる。

 新市街のほうを見るとあちこちに屍が転がっているので、これでも減らしたほうなのだろう。


(結構、多いな……! 押し込まれるのも無理ねえか!)


 思うが早いか、半裸の男たちが盛大に吹き飛んだ。

 大きな盾を持った巨漢に守られながら立つのは、見慣れたメガネのオタク面だ。


「深蔵、生きてたかっ!」


「おおう同志っ! 息災のようだなあっ!」


 拡声魔法で声をかけると、オタク面も同じ方法で応じてくる。

魔究隠者(ソーサリア)】――深蔵(みくら)(かん)。少し痩せたのか、魔法使い然とした服装も相まってか怜悧になったように見えなくもない。


 盾を持っているのは【理想の体躯(イデアル・ボディ)】――小櫃(おびつ)大吾(だいご)だ。金属鎧を着こんだ身体は相変わらずデカい。


「一気に散らすぞ……黒陽焔墜(ブラック・サンズ)!」


 手綱から離した左手から放った黒い光球が、山の民(ハイランダー)たちの後方に降り落ちる。弾けた光球が生んだ黒い炎に、敵方がたじろぐのが見えた。


「黒い炎……!」

「トウマが言っていたヤツか」

「プロメが来てるだろ! 呼んでこい!」


 零仁はグリフォンから跳び降りると、後退していく山の民(ハイランダー)たちの前に着地した。


「【遺灰喰らい(アッシズ・イーター)】、レイジ・フツガワです。あんたらと戦う理由はないんで……退いてもらえませんかね」


 じろりと見回すと、半裸の男たちがさらに一歩下がる。

 その時。煙の向こうに。小櫃より一回り大きな影が映った。


「お前になくても……オデらにはあるんだなぁ!」


 野太い声とともに現れたのは、スキンヘッドの巨漢だった。

 筋骨隆々とした半裸の身体には、ロクに防具をつけていない。代わりに肌色の箇所を探すのが難しいほどに、紋様や動物を模したタトゥーに覆われている。手には巨大な鎖つきの鉄球。


 元の世界にいたら、悪夢に出てくるかもしれない見た目だ。


「トウマから聞いだぞう、強っえぇのがいるっでなあ……! オデらの(メジ)のために、ここで()んで……」


「【強迫の縛鎖(デュレス・バインド)】」


 口上には構わず、目を見て能力(スキル)を発動する。

 スキンヘッドの身体がびくりと強張った。鎖を振り回そうとしているらしいが、身体をプルプルと震わせるだけで動かない。


「おっ、おいプロメッ! どうした⁉」

「なんで……! まさか能力(スキル)っ⁉」

「こいつ、転移者か……!」


「お望みってんなら……ここの皆さん、すぐ皆殺しにできますけど。どうします?」


 ふたたび睨みつけると、山の民(ハイランダー)たちが一斉に逃げ始める。プロメと呼ばれたスキンヘッドも皆で担いで引き上げていくあたり、情に厚いのが見て取れるのが少し可笑しかった。


 神盾騎士団(アイアス・リッター)の面々も何かを感じ取ったのか、追撃はせず負傷者の搬送や他方への援兵の相談をし始める。


「……ヘイ、どうした同志。やけにお優しくなったじゃないか?」


 声とともに、肩をポンと叩かれる。

 振り向けば深蔵が、にやにやと笑いながら零仁の顔を見つめていた。


「そうでもねえよ。あいつらは多分、ハメられてるだけだ。殺したら夢見が悪い」


「ハメられてる……どういうことだ?」


「話は後だ。俺はグリフォンで連中の後ろに回り込むから、お前らは中央の正面部隊に合流してくれ」


「よく分からんが、正面で引きつけておけばいいってのは分かった!」


 深蔵たちと別れてグリフォンに跨ると、こめかみに手を当てた。

 【繋ぎ話すもの(リンク・トーカー)】を発動させるジェスチャーだ。


『こちら【遺灰喰らい(アッシズ・イーター)】、東の大通りにいた山の民(ハイランダー)たちを撤退させた。【魔究隠者(ソーサリア)】と【理想の体躯(イデアル・ボディ)】が中央通りに行くはずだ』


『こちら【意志の神盾(ウィル・イージス)】、了解! さすがだねえ~! 東から狼煙が上がったのをきっかけに、中央通りの敵も退き始めたよ。新市街の物資を奪うのが主目的なのかな』


『こちらマティアス! 【遺灰喰らい(アッシズ・イーター)】、聞きしに勝る腕だなっ! 西通りも同じくだ、意外と見切りが早い!』


 室沢は元より、マティアスも浮ついた声だ。

 市街地はまだ分からないが、騎士団への被害は思っていたより小さいらしい。


『【心身合一(シンクロニカ)】と話がしたい。まだ聖地にいるか?』


『さっきまで中央で戦り合ってた! あの人、すっごい遣い手だね。攻撃が全然当たんない……! ウチと柚ちゃん、二人がかりでギリだったよ』


 室沢の【意志の神盾(ウィル・イージス)】は、絶対防御を誇る上位級(ハイクラス)能力(スキル)

 姫反の【一心の射手(ハート・スパイカー)】も中位級(ミドルクラス)とはいえ、貫通の矢を放つ戦闘向きの能力(スキル)だ。


 最上位級(ハイエンド)の級友たちとも戦闘経験のある二人で押し切れなかったのだから、やはり【心身合一(シンクロニカ)】は最上位級(ハイエンド)並の戦闘力があると思っていいだろう。


『こちら【星眼の巫女(ステラ・シーカー)】、【心身合一(シンクロニカ)】を捕捉! 中央通りの殿(しんがり)をやってる。攻撃魔法も使えるけど、どうする?』


『やめとけ。岩の魔法じゃ、あいつの能力(スキル)で無力化される。何より誤解を解くためにも無傷で話がしたい』


『了解、そのまま外壁沿いの道から神楯の門(イージス・ゲート)に回り込んで。そうすればちょうど門の前で鉢合わせできると思う!』


 輝良の指示通りグリフォンで新市街を抜けた後、外壁に沿うように飛ぶ。

 すでに東の山の民(ハイランダー)たちは撤退したらしい。露店などは荒らされているが、人家や市民たちへの被害は意外に少なかった。


 やがて正面左手に神楯の門(イージス・ゲート)が見えてくる。

 門は閉じているが、ばらばらの装備に身を固めた一団が外壁に跳び上がっているのが見えた。

 零仁はさらに近づくと、拡声魔法を遣って口を開く。


「【遺灰喰らい(アッシズ・イーター)】、レイジ・フツガワだ! 【心身合一(シンクロニカ)】、トウマ・サイバラと話がしたいっ!」


 壁を超える人の流れは止まらない。だがその中で、立ち止まった人影があった。

 遠目からも分かる総髪は、賽原その人だ。


『フツガワ、やはり教団の用心棒だったか! 東の部隊を止めたのもお前だなっ!』


「故あって聖地に来てるが、戦ったのは成り行きだ! 教団のお偉いさんからも話を聞いた! あんたたちを襲ってるのは、教団じゃないっ!」


『何を言い出すかと思えば……! その話、信ずる証拠がどこにあるっ!』


「とにかく一度、話し合いのテーブルについてくれっ! そもそも、あんたらは一体どこでその話を……!」


 なおも言いかけた時。

 神楯の門(イージス・ゲート)の空に、七つの光点が現れた。円状に並ぶそれはすぐさま収束してひとつの光球となる。

 不意に、背中に怖気を感じる。


「……賽原、離れろっ!」


 叫びが終わる前に――光球から、一筋の光が放たれた。

 それは賽原のいるあたりに突き立ったかと思うと、地を縦に舐めるような軌道で転移者たちを薙ぎ払う。


 その時。壁を越えようとする列から一人の男が弾き出された。転んだ拍子に足を痛めたか、うずくまったまま動かない。そこへ、二撃目の光が近づいてくる。


「えい、クソッタレ……掴まれっ!」


 手綱を捌き、男の脇をすり抜けざまに腕を引っ張り上げた。

 歳は三十過ぎくらい。茶色い髪をした白人の男だ。


「お前は……! なんでっ……⁉」


「いいから掴まってろっ!」


 男の腕を掴んだまま空を浮遊していると、やがて攻撃が止んだ。

 光が通り過ぎた跡は黒ずみ、神楯の門(イージス・ゲート)や外壁の表面にまで及んでいた。周りには、転移者たちの屍が累々と転がっている。


『くっ、この光……枢機卿(ベルクオンター)かっ! フツガワ、借りは必ず返すぞっ!』


「待て、賽原!」


 後追いで声をかけるが、返答はない。

 聖堂のほうを見れば、神剣騎士団(カリバーン・リッター)の一団が、中央通りを進んでくるところだった。


 先頭に立つのは撫でつけた銀髪に魔法の戦衣(マジック・ガーブ)を着込んだ壮年――枢機卿クェイズ・ベルクオンターだ。

 クェイズは零仁の前まで来ると、腹に手を当てる礼式を取った。


「【遺灰喰らい(アッシズ・イーター)】殿、ご協力に感謝いたします。貴方のおかげで、被害を最小限にとどめることができました」


「あまり手放しには喜べないっすけどね。この攻撃も、ちょっとやりすぎじゃないですか?」


 応じながら、外壁と神楯の門(イージス・ゲート)の鉄扉に残る、黒い痕跡へと目を走らせる。


「まだ敵と本決まりしたわけじゃないんだ。あのまま話してたら、【心身合一(シンクロニカ)】が話し合いに応じたかもしれない」


「襲ってきたのは彼らです。降りかかる火の粉は払わねばなりません」


 クェイズはにべなく言うと、零仁が掴んだままの男に視線を移す。


「その男、転移者ですか」


 この場で処すことも辞さない――そんな目つきだ。

 男も感じ取ったのか、殺すなら殺せとばかりに睨み返す。


「さっきの攻撃で逃げ損ねたところを助けました。彼ら側の言い分も聞いてみようかと思ってます」


「あなたが尋問を? いくらなんでも、そこまでしていただくわけには……」


「俺らも襲われてるし、【心身合一(シンクロニカ)】はまた来るでしょう。もうとっくに片足突っ込んでますよ。それに俺……能力(スキル)も魔法も色々あるんで、適任だと思いますよ?」


 言外の意図を察したのか、男の身体がびくりと震えた。

 クェイズはなおも納得のいかぬ様子だったが、やがて小さなため息を吐いた。


「いいでしょう、お任せします。場所はこちらで用意しましょう」


 零仁は頷くと、【繋ぎ話すもの(リンク・トーカー)】で輝良を呼び出した。

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