第75話 世界の橋
第75話 世界の橋
王都上空。
青白い光の橋が夜空を貫いていた。
カイルが構築した避難路。
崩壊する都市を繋ぐ最後の生命線。
その上を数万人の避難民が移動している。
老人。
子供。
兵士。
商人。
誰もが必死だった。
だが。
その瞳には絶望だけではなく希望も戻っている。
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「第三区画の避難完了!」
栞の声が通信回線へ響く。
《世界観測》は限界以上に稼働していた。
避難民の位置。
崩落予測。
物流網の状態。
負傷者情報。
全部見えている。
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「次は西区画!」
「誘導班を回してください!」
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解放派。
アダマス保安部隊。
王都警備兵。
本来なら敵同士だった者たちが協力している。
それだけ状況が切迫していた。
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神代は地下物流路を走っていた。
額には汗。
手には古代端末。
《世界設計図》によって見える構造情報を確認し続けている。
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「地下第二物流脈はまだ生きてる!」
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「避難民をそっちへ回せ!」
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通信先で栞が即座に反応する。
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「了解!」
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以前なら考えられない連携だった。
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補佐官。
継承者。
修復者。
管理端末。
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物流網が選んだ後継者たちは、今や一つのチームとして機能していた。
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その頃。
王都中央。
崩落した大通り。
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カイルは一人で巨大な亀裂を見下ろしていた。
幅百メートル以上。
底は見えない。
さらに今も広がり続けている。
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普通ならどうにもならない。
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だが。
カイルは崩壊を見ていた。
敵ではない。
現象として。
構造として。
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「止められるな」
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小さく呟く。
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誰も聞いていない。
だが本人の中では結論が出ていた。
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《空想具現》
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巨大な魔法陣が展開される。
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アダマス。
第二認証鍵。
第三認証鍵。
物流網。
全部が共鳴する。
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かつてない規模だった。
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王都全域へ広がる光。
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避難民たちが思わず立ち止まる。
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崩落地帯の縁。
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そこへ巨大な構造体が形成されていく。
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柱。
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梁。
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基礎構造。
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補強フレーム。
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一つの橋ではない。
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都市全体を支える補強骨格。
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王都そのものを支える仮設基盤だった。
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神代が息を呑む。
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「都市ごと支える気か……」
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アークが苦笑する。
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「らしいな」
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三千年前の技師ですら呆れる規模だった。
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だが効果は絶大だった。
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揺れが止まる。
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崩落速度が下がる。
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避難速度が上がる。
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人々に時間が生まれる。
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その時だった。
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《世界観測》が異常反応を捉える。
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栞が顔を上げた。
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「来ます!」
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全員が振り向く。
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世界中心部。
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第四認証鍵中枢。
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そこから光の線が伸びている。
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一本。
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二本。
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三本。
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やがて無数。
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それは物流路だった。
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だが正常ではない。
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崩壊した物流網。
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切断された世界間接続。
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その残骸。
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黒く汚染された物流路だ。
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神代が青ざめる。
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「暴走してる!」
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アリアも警告を発する。
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「第四認証鍵異常出力を確認」
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「世界接続の崩壊が加速」
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静寂。
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その時。
レギウスが前へ出た。
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「やはり来たか」
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苦い声だった。
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神代が振り向く。
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「何なんですか」
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レギウスは遠くを見る。
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世界の中心。
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第四認証鍵。
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「世界の悲鳴だ」
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静かな声。
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「壊れた物流網は最後に全てを引き込もうとする」
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三千年前にも起きた。
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管理局崩壊の日。
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物流網は生き残るために周囲の世界を取り込み始めた。
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だから観測者が生まれた。
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だから世界炉が作られた。
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そして今。
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再び同じ現象が始まろうとしていた。
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その時。
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遠く。
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ゼノンがカイルを見ていた。
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第四認証鍵中枢上空。
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彼は動かない。
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ただ見ている。
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修復者の選択を。
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その行動を。
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その思想を。
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ずっと。
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そして初めて。
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管理局最後の執行者は理解する。
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カイルは世界を救おうとしているのではない。
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人を救っているのだ。
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その結果として。
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世界が救われる。
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順番が逆だった。
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三千年前の管理局とは。
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根本から。
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その時。
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ゼノンの黄金の瞳が揺れた。
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本当に僅かに。
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そして。
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彼は静かに呟く。
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「判定を更新」
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誰にも聞こえない声。
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だが。
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世界そのものが微かに震えた。
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一方。
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避難は続く。
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王都救出作戦も成功へ近付いていた。
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だが。
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本当の修復はまだ始まっていない。
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次の目的は世界そのもの。
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七か所の物流網断裂点。
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それらを繋げる前代未聞の工事。
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《世界の橋計画》
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修復者たちによる最後の大工事が。
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いよいよ始まろうとしていた。
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第76話 物流網再生へ続く
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