第6話 最強の補給拠点
第6話 最強の補給拠点
カイルが目を覚ました時、空は白み始めていた。
結局、昨夜は駅から少し離れた河川敷近くのベンチで仮眠を取った。
本来なら避けたい判断だった。
だが選択肢がなかった。
それでも彼は周囲の地形を確認し、避難経路を三つ確保し、人目につきにくい位置を選び、浅い眠りを維持していた。
その結果。
何事もなく朝を迎えることができた。
「生存確認」
腕を回す。
異常なし。
荷物確認。
異常なし。
周辺状況。
問題なし。
いつもの習慣だった。
その時。
ぐぅぅぅぅぅぅ。
腹が鳴った。
かなり大きな音だった。
「……」
カイルは空を見上げる。
昨日の夕方からまともな食事をしていない。
携帯食料も残りわずか。
補給が必要だった。
補給線を失った部隊は必ず敗北する。
それは戦争の常識である。
「まずは食料調達だな」
そう結論付け、街へ向かった。
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早朝の街は昨夜とは少し違っていた。
学生らしき若者。
スーツ姿の大人。
同じ方向へ流れていく人波。
「規律があるな」
カイルは感心する。
指揮官もいないのに混乱がない。
何万人もの人間が、決められた道路を使い、秩序正しく移動している。
これだけで異世界なら国家事業だった。
そんな時だった。
視界の端に見覚えのない建物が現れる。
大きな看板。
鮮やかな色彩。
そして文字。
【24時間営業】
森羅翻訳が意味を伝える。
二十四時間。
つまり昨日の夜から今までずっと営業していたということになる。
カイルは立ち止まった。
「あり得ない」
軍の補給拠点でも交代制が必要だ。
それを民間施設が実現している。
興味を引かれないわけがない。
さらに看板を読む。
【コンビニエンスストア】
意味までは分からない。
だが中は明るかった。
客もいる。
物資も見える。
カイルは慎重に入口へ近づく。
まず観察。
出入口一か所。
ガラス張り。
内部視認可能。
敵対反応なし。
危険度低。
突入可能。
「よし」
彼は扉を押した。
すると。
「いらっしゃいませー!」
店員の声が飛んだ。
カイルは思わず肩を震わせる。
警戒していた。
入口罠かもしれないと思っていた。
だが何も起きない。
店員も笑顔だ。
そして。
次の瞬間。
彼は硬直した。
「……なんだ、ここは」
棚。
棚。
棚。
棚。
棚。
どこまでも続く棚。
異世界の商館とは比較にならない。
食料。
飲料。
薬品。
日用品。
文房具。
雑誌。
地図。
生活用品。
恐ろしい量の物資が整然と陳列されている。
しかも補充まで完璧だった。
「補給基地……?」
カイルは呟く。
違う。
軍事施設ではない。
ただの店らしい。
だが。
兵士が見たら卒倒する。
異世界の補給将校なら泣いて喜ぶ。
それほど凄まじい物流能力だった。
商品は規格化されている。
配置も統一。
通路幅も一定。
視認性も高い。
何より。
目的の物資を短時間で発見できる。
斥候としての視点から見ても完璧に近かった。
「誰が設計したんだ……」
純粋な感動すら覚える。
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カイルは店内を歩き回った。
まるで巨大なダンジョンを探索するように。
まず食料コーナー。
そこで再び衝撃を受ける。
おにぎり。
弁当。
サンドイッチ。
パン。
惣菜。
数十種類。
いや百種類近い。
「戦時中の王都でもここまでは揃わないぞ」
しかも。
どれも個別包装されている。
衛生管理も徹底されている。
まるで高級軍糧だった。
さらに飲料売り場。
冷却された飲み物。
温かい飲み物。
数え切れない。
保存技術も理解不能だ。
「補給革命ではないか……」
真顔で呟いた。
実際、彼にとっては歴史的大発見だった。
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その後。
雑誌コーナーへ向かった。
理由は単純。
無料で閲覧できるものがあるからだ。
そこで彼は見つける。
一冊の建設関係雑誌。
表紙には巨大な橋が写っていた。
「橋梁技術?」
自然と手が伸びる。
ページを開く。
そして。
カイルの目が徐々に大きくなっていった。
巨大橋梁。
耐震設計。
荷重計算。
鋼材構造。
施工手順。
彼がこれまで見たこともない理論が並んでいる。
「これほど詳細な設計思想を一般公開しているのか……?」
信じられない。
王国なら国家機密級。
ドワーフなら門外不出。
それを普通の本として売っている。
意味が分からない。
だが。
面白かった。
果てしなく。
『空想具現』
スキルが反応する。
知識が流れ込む。
理論が組み上がる。
橋の構造。
力の分散。
重量配分。
材料強度。
全てが理解できる。
まるで脳内に新しい世界が生まれるようだった。
「……これだ」
カイルは確信した。
帰還方法が見つからなくても構わない。
まず学ぶ。
この世界の知識を。
技術を。
文明を。
徹底的に吸収する。
それが最善手だ。
斥候は未知を調べる者。
今の地球そのものが、彼にとって最大の未踏ダンジョンだった。
その時。
店の外を大型トラックが通り過ぎる。
巨大な車体。
大量の荷物。
整備された道路。
信号機。
物流。
輸送。
補給。
それらすべてが一本の線として繋がった。
カイルの目が輝く。
「なるほど」
そして静かに呟いた。
「この世界を支えているのは、勇者でも王でもない」
窓の外を見つめる。
何台ものトラックが走っていた。
朝日を浴びながら。
「道だ」
その言葉が、後に世界を変える思想の原点になることを、彼自身まだ知らなかった。
そしてこの日。
伝説の魔法斥候カイル・ヴァンガードは。
魔法よりも先に。
物流という名の最強の力に魅了されることになるのであった。
――第6話 了――
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