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第68話 滅びゆく世界へ

第68話 滅びゆく世界へ

残存可能時間。

《63日》

その数字が消えても、誰もすぐには言葉を発せなかった。

流浪方舟アダマス最深部。

第三認証鍵ルナの見せた未来。

いや。

未来ではない。

現在進行形の現実。

カイルの故郷エルドバルトは、今も少しずつ崩壊していた。


---


映像の中。

空は黒く染まっていた。

かつて青かったはずの空。

カイルが故郷で見上げた空。

それが今は巨大な亀裂に覆われている。

黒虚の顎。

世界を蝕む崩壊現象。

それが大陸全土へ広がり始めていた。


---


神代が静かに呟く。

「二か月……」

震える声だった。

「たったそれだけなんですか」


---


ルナは頷く。

「正確にはもっと短いかも」

その言葉は残酷だった。


---


「六十三日後に世界が消えるんじゃない」


---


「六十三日後に修復不可能になるの」


---


静寂。


---


その意味を理解できる人間は、この部屋に何人もいた。


---


アーク。

レギウス。

ヴァルド。

カイル。


---


そして最近では栞や神代も理解できる。


---


橋が壊れる。

道路が壊れる。

施設が壊れる。


---


完全に壊れてから修理するのと。

壊れる前に補修するのでは。

必要な労力がまるで違う。


---


世界も同じだった。


---


「修復限界点か」

カイルが呟く。


---


ルナが頷く。


---


「うん」


---


「六十三日後を過ぎると」


---


「第四認証鍵が崩壊する」


---


「そうなったら物流網も死ぬ」


---


そして。


---


「誰にも直せない」


---


その言葉が重かった。


---


その時だった。

セレスが初めてカイルを見る。

真っ直ぐ。

長い間観察するように。


---


「それでも行くの?」


---


静かな声だった。


---


敵意はない。

試すような声でもない。


---


ただ確認している。


---


目の前の修復者がどういう人間なのか。


---


カイルは即答した。


---


「行く」


---


迷いはなかった。


---


「理由は」


---


「故郷だからな」


---


それだけだった。


---


英雄的な理由じゃない。


---


使命でもない。


---


世界を救いたいからでもない。


---


だが。

その答えにセレスは少し驚いた顔をした。


---


レギウスなら責任と言った。


---


アークなら未来と言った。


---


ヴァルドなら人々と言った。


---


だが。

カイルは故郷と言った。


---


その個人的な理由が。

逆に信用できた。


---


その時。

栞の能力が反応した。

《世界観測》

以前よりさらに広がっている。


---


第四認証鍵。

物流網。

崩壊領域。


---


その全てが視界へ流れ込む。


---


そして。

気付いた。


---


「待って」


---


全員が振り向く。


---


栞の表情が変わっていた。


---


「これ」


---


「世界だけじゃない」


---


神代が隣へ来る。


---


「何が見えた?」


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栞は映像の一部を拡大した。


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崩壊する大陸。


---


その奥。


---


世界の中心。


---


巨大な光。


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第四認証鍵中枢。


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そのさらに奥。


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何かいた。


---


人影。


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神代が息を呑む。


---


「誰だ」


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分からない。


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だが。

確かに存在している。


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崩壊の中心に。


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ルナの顔色が変わった。


---


セレスも。


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アリアも。


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そして。

意外にもエリオスが反応した。


---


「あいつか」


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静寂。


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神代が聞く。


---


「知ってるんですか」


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エリオスは少し嫌そうな顔をした。


---


三千年ぶりに自由になった元観測者。


---


そんな彼が。

珍しく露骨に嫌そうだった。


---


「知ってる」


---


小さく呟く。


---


「最後の番人だ」


---


部屋が静まり返る。


---


最後の番人。


---


第六感が告げていた。


---


重要な存在だ。


---


エリオスは続ける。


---


「第四認証鍵を守る存在」


---


「管理局最後の保険」


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「もし認証鍵が暴走したら」


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「物流網ごと停止させるために作られた」


---


神代の背筋が寒くなる。


---


まただ。


---


三千年前の連中は。


---


本当に。


---


「保険好きですね」


---


思わず本音が漏れた。


---


アークが苦笑した。


---


「否定できない」


---


その時。

ルナが小さく言った。


---


「名前はゼノン」


---


静寂。


---


「管理局最後の執行者」


---


「世界守護者」


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そして。


---


「今は第四認証鍵を殺そうとしてる」


---


空気が変わった。


---


故郷が壊れているだけじゃない。


---


敵がいる。


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それも。


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管理局が作った最終防衛機構。


---


その時だった。


---


アリアが突然反応する。


---


「緊急警告」


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全員が振り向く。


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物流網地図。


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その中心。


---


エルドバルト世界。


---


真っ赤になっていた。


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今までにない警告。


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「崩壊速度上昇」


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「予測修正」


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静寂。


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嫌な予感しかしない。


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アリアが続ける。


---


「残存可能時間」


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数字が減る。


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63日。

↓

62日。

↓

61日。


---


そのまま一気に落ちる。


---


最終的に止まった数字。


---


《45日》


---


誰も喋れなかった。


---


十八日。


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たった今。


---


失われた。


---


ルナの顔から血の気が引いた。


---


「そんな」


---


セレスも絶句している。


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レギウスが立ち上がる。


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ヴァルドも。


---


全員が理解した。


---


始まった。


---


第四認証鍵の崩壊が。


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予想より遥かに早く。


---


カイルは崩壊する故郷を見つめる。


---


長い沈黙。


---


そして。

静かに言った。


---


「出発準備だ」


---


誰も反対しなかった。


---


もう迷う時間はない。


---


第三認証鍵編は終わる。


---


目的地は一つ。


---


故郷エルドバルト。


---


世界そのものを救うための旅が。


---


今。

本格的に始まろうとしていた。


---


第69話 管理局最後の秘密へ続く

ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!

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