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第67話 第四認証鍵

第67話 第四認証鍵

流浪方舟アダマス最深部。

誰も喋れなかった。

巨大な培養槽。

その中で眠っていた少女。

ルナ。

そして。

彼女が語った言葉。


---


「第四認証鍵はもう起動してるよ」


---


その一言だけで。

これまで集めてきた情報。

三千年前の記録。

物流網の常識。

その全てが崩れ去った。


---


静寂が落ちる。

最初に動いたのは神代だった。

「待ってくれ」

頭を押さえる。

《継承者の記憶》が暴れている。

膨大な情報。

膨大な記録。

けれど。

そんなものは見たことがない。


---


「認証鍵は三つじゃなかったのか」

掠れた声で言う。

「第一認証鍵」

「第二認証鍵」

「第三認証鍵」

「それで物流網を再起動するんじゃ……」


---


ルナはゆっくり首を振った。

眠ったばかりだったはずなのに。

その瞳は異様に落ち着いている。

まるで何千年も昔から世界を見続けていたような目だった。


---


「違うよ」


---


「認証鍵は四つ」


---


「最初から」


---


静寂。


---


神代の顔から血の気が引く。


---


アリアも演算を続けている。

ミリアも。

セレスですら黙っている。


---


そして。

意外な人物が反応した。


---


レギウスだった。


---


最後の管理者。

三千年間世界を支えてきた男。


---


彼だけが目を閉じた。


---


「そういうことか……」


---


苦しそうな声だった。


---


アークが振り向く。

「知っていたのか」


---


「いや」

レギウスは首を振る。


---


「忘れていた」


---


その答えに。

誰も言葉を失う。


---


忘れる?


---


そんな重要情報を?


---


だが。

レギウスの表情を見れば分かる。

嘘ではない。


---


三千年。


---


あまりにも長い。


---


忘れたというより。

思い出したのだ。


---


隠されていた記憶を。


---


その時。

ルナが手を伸ばした。


---


培養槽の中。

光が溢れる。


---


そして。

部屋の中央に映像が浮かぶ。


---


星空。


---


無数の世界。


---


物流網。


---


その全体図。


---


誰も見たことがない。

本当の世界地図だった。


---


栞が息を呑む。


---


《世界管理補佐》が暴走する。


---


見える。


---


世界。


---


物流路。


---


接続。


---


管理権限。


---


その全て。


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そして。

気付いてしまう。


---


「これ……」


---


震える声。


---


「物流網そのものじゃない」


---


誰も動かない。


---


映像が変わる。


---


一つの世界が映し出される。


---


黒い空。


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ひび割れた大地。


---


魔力嵐。


---


巨大な亀裂。


---


滅びかけた世界。


---


その光景を見た瞬間。


---


カイルの身体が止まった。


---


忘れられるはずがない。


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何度も見た。


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何度も歩いた。


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生まれ育った故郷。


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エルドバルト。


---


カイルの世界だった。


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「どうして……」


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小さく呟く。


---


その時。

ルナが言った。


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「第四認証鍵だよ」


---


静寂。


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誰も理解できない。


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神代が聞き返す。


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「世界が?」


---


「そう」


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ルナは頷く。


---


「第四認証鍵は物じゃない」


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「施設でもない」


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「都市でもない」


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そして。


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「世界そのもの」


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沈黙。


---


その瞬間。

全てが繋がった。


---


黒虚の顎。


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世界崩壊。


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異常な物流障害。


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管理局が異常に重視していた理由。


---


全部。


---


第四認証鍵だったからだ。


---


ルナは静かに説明する。


---


三千年前。


---


管理局は知っていた。


---


物流網が限界であることを。


---


観測者による延命。


---


世界炉による補強。


---


認証鍵による管理。


---


全部時間稼ぎ。


---


いつか必ず。

抜本的な修復が必要だった。


---


だから作られた。


---


最後の保険。


---


第四認証鍵。


---


世界そのものへ管理権限を埋め込む計画。


---


正式名称。


---


《世界基盤認証システム》


---


物流網が完全崩壊しても。

認証情報だけは残る。


---


そのための仕組み。


---


その世界が。


---


エルドバルトだった。


---


神代は絶句していた。


---


「そんなの」


---


「偶然じゃない」


---


ルナは頷く。


---


「偶然じゃないよ」


---


そして。


---


「カイルがあの世界へ来たのも」


---


静寂。


---


カイルの瞳が揺れる。


---


今まで。

ただの事故だと思っていた。


---


異世界転移。


---


突然の飛ばされ事故。


---


だが。

違った。


---


「物流網が呼んだの」


---


ルナが言う。


---


「修復者を」


---


部屋から音が消えた。


---


誰も動けない。


---


物流網そのものが。

修復者を探していた。


---


そして。

カイルを選んだ。


---


「理由は?」


---


カイルが聞く。


---


ルナは少しだけ笑う。


---


初めて年相応の顔だった。


---


「あなただけだったから」


---


「壊れたものを見て」


---


「壊すじゃなく」


---


「直そうとした人」


---


静寂。


---


ヴァルドなら壊した。


---


アークなら作った。


---


レギウスなら支えた。


---


だが。

カイルは違う。


---


直す。


---


ただそれだけ。


---


物流網が求めていた解答そのものだった。


---


その時だった。


---


ルナの表情が変わる。


---


今まで穏やかだった顔。


---


それが初めて緊張する。


---


「でも」


---


全員が見る。


---


ルナはエルドバルトの映像を見る。


---


崩壊していく世界。


---


広がる亀裂。


---


そして。


---


映像の中心。


---


世界の最深部。


---


巨大な光。


---


脈動。


---


心臓のような鼓動。


---


ドクン。


---


ドクン。


---


ドクン。


---


誰も知らない。


---


第四認証鍵中枢部。


---


その場所を指差し。


---


ルナは言った。


---


「もう時間がない」


---


静かな声だった。


---


「第四認証鍵が壊れたら」


---


「物流網も終わる」


---


「エルドバルトも終わる」


---


そして。


---


「修復できる最後の期限は」


---


映像に数字が浮かぶ。


---


残存可能時間。


---


《63日》


---


誰も喋れなかった。


---


二か月。


---


それが。

世界に残された時間だった。


---


カイルは崩壊する故郷を見る。


---


長い沈黙。


---


そして。

いつものように。


---


とても静かに言った。


---


「なら行くか」


---


その一言で。

修復者チームは決断する。


---


第三認証鍵編は終わる。


---


次なる目的地は一つ。


---


故郷エルドバルト。


---


世界そのものを救うための。


---


最後の修復作戦が始まる。


---


第68話 滅びゆく世界へ続く

ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!

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