第66話 第三認証鍵の正体
第66話 第三認証鍵の正体
流浪方舟アダマス最深部。
カイルたちは強制転送された。
巨大な円形空間。
天井は見えない。
壁面には無数の物流回路。
三千年前の最高技術がそのまま残されていた。
そして。
部屋の中央に一人。
銀髪の少女が立っていた。
セレス。
第三認証鍵の守護者。
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彼女は静かに四人を見る。
カイル。
栞。
神代。
アリア。
順番に。
まるで観察するように。
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「予想より早かった」
感情の薄い声だった。
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「観測者まで救出するとは思わなかった」
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神代が前へ出る。
「第三認証鍵を返してもらいます」
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即答だった。
遠回しな話は苦手である。
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セレスは少しだけ目を細めた。
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「返す?」
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「認証鍵を物だと思っているの?」
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空気が変わる。
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その時。
アリアが反応する。
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「警告」
「登録情報と一致しません」
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ミリアも通信越しに声を上げた。
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「第三認証鍵の信号がありません」
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神代が固まる。
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「え?」
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「ない?」
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それはおかしい。
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ここにあるはずなのだ。
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セレスは静かに振り返る。
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そして。
部屋中央へ視線を向けた。
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そこには巨大な透明容器があった。
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今まで見えなかった。
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物流回路の影に隠れていたからだ。
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高さ十メートル以上。
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巨大な培養槽。
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その中に。
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一人の少女が眠っていた。
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白銀の髪。
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閉じた瞳。
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幼い顔。
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年齢は十五歳ほど。
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まるで眠り姫だった。
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栞は言葉を失う。
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神代も。
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アリアですら停止した。
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そして。
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セレスが告げる。
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「第三認証鍵です」
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静寂。
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誰も理解できなかった。
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「人……?」
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栞が呟く。
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セレスは首を振る。
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「違う」
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「でも人だった」
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その言葉に。
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アーク。
レギウス。
エリオス。
遠隔映像を見ていた全員が凍り付いた。
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エリオスが震える声を出す。
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「まさか……」
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レギウスが目を閉じる。
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アークは苦しそうだった。
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そして。
ようやく神代が気付く。
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「第四計画」
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《継承者の記憶》が答えを出していた。
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三千年前。
観測者計画。
世界炉計画。
共同管理方式。
それらと同時に存在していた。
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最後の計画。
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物流網最大機密。
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正式名称。
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《方舟核計画》
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人を管理者にするのではない。
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人を認証鍵そのものにする。
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静寂。
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神代の背筋が寒くなる。
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観測者より酷い。
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レギウスが苦しそうに言った。
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「中止したはずだった」
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セレスは答える。
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「失敗したからです」
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その一言が重い。
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「世界は崩壊していた」
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「物流網も限界だった」
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「だから起動した」
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誰も否定できない。
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三千年前はそれほど絶望的だった。
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そして培養槽の少女。
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彼女こそ。
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第三認証鍵。
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流浪方舟アダマス制御中枢。
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物流網深層認証キー。
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全認証鍵統合時の安全装置。
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最後の切り札。
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名前は。
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「ルナ」
セレスが言った。
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「私の妹です」
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空気が止まった。
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栞が息を呑む。
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神代も声を失う。
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そして。
アリアが初めて大きく反応した。
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「妹……?」
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ミリアも通信越しに固まっている。
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セレスは頷く。
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「私は管理補助端末」
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「ルナは認証鍵中枢」
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「同時に作られた」
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しかし。
そこで彼女の声が少しだけ揺れた。
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初めてだった。
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感情らしい感情。
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「でも」
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「ルナは人として生きたかった」
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静寂。
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「だから私は守ってる」
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その一言に。
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カイルは理解した。
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第三認証鍵を隠し続けた理由。
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修復者を拒絶した理由。
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セレスは物流網を憎んでいるわけではない。
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ただ。
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ルナを守りたいだけだった。
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世界ではなく。
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たった一人を。
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その構図はどこか観測者エリオスと似ていた。
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その時だった。
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培養槽の中。
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眠っていた少女の指が動く。
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全員が息を呑む。
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ゆっくり。
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本当にゆっくり。
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ルナの瞳が開いた。
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黄金色の瞳。
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そして。
最初に見たのは。
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カイルだった。
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少女はぼんやりと呟く。
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「修復者……?」
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静寂。
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そして。
次の一言が全員を凍り付かせた。
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「第四認証鍵は」
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「もう起動してるよ?」
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部屋から音が消えた。
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第四認証鍵。
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誰も知らないはずの存在。
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その言葉だけで。
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これまでの全ての前提が崩れ始めた。
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第67話へ続く
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