第64話 流浪方舟の守護者
第64話 流浪方舟の守護者
第三認証鍵。
その正体は三千年間行方不明となっていた移動都市。
《流浪方舟アダマス》。
その事実が判明してから三日後。
オリオンは再び航路へ出ていた。
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ブリッジ中央。
巨大な物流網地図が浮かんでいる。
だが。
第三認証鍵の位置は相変わらず曖昧だった。
存在は分かる。
移動していることも分かる。
しかし追跡できない。
普通ではあり得ない状態だった。
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「逃げてるみたいですね」
栞が言う。
《世界管理補佐》の能力で物流網を監視している。
だが。
信号は捕まらない。
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エリオスが頷く。
「逃げている」
静かな声。
元観測者だから分かる。
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「アダマスは意図的に見つからないよう動いている」
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神代が眉をひそめた。
「都市が?」
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「違う」
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エリオスは首を振る。
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「守護者だ」
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静寂。
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その単語に。
アークが反応した。
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「生きていたのか」
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神代が振り向く。
「知っているんですか」
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アークは苦い顔になる。
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「知っている」
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長い沈黙。
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「管理局最強の護衛だ」
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空気が変わった。
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ヴァルドまで真顔になる。
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それだけで危険度が分かる。
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「名前は?」
カイルが聞く。
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アークは答えた。
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「セレス」
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その瞬間。
アリアが反応する。
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「記録一致」
「第三認証鍵専属守護者」
「識別名セレス」
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ミリアが青ざめる。
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「最上位戦術補助端末……」
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神代が首を傾げる。
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「端末?」
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アークは首を振った。
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「いや」
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静かな声。
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「途中から違う」
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その言葉が重かった。
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そして。
物流網の彼方。
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誰も知らない航路。
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雲海のような空間を。
巨大都市アダマスは移動していた。
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山脈のような船体。
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空へ伸びる塔。
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巨大な物流ゲート。
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その中心。
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少女が一人立っていた。
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銀色の長髪。
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金色の瞳。
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真紅のコート。
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そして表情だけがない。
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感情を失った人形のように。
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彼女がセレスだった。
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「反応確認」
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静かな声。
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目の前に管理画面が浮かぶ。
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修復者。
補佐官。
継承者。
管理端末。
観測者。
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全部映っている。
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カイルたちの動き。
全て。
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「エリオス救出」
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沈黙。
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そして。
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「最悪」
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初めて感情が混じった。
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怒りでもない。
悲しみでもない。
恐怖だった。
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その時。
巨大都市アダマス全体が震える。
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地下深く。
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第三認証鍵が眠る区画。
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そこから低い鼓動が響いていた。
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ドクン。
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ドクン。
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ドクン。
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まるで心臓。
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だが。
第三認証鍵は結晶ではない。
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箱でもない。
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機械でもない。
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何かが眠っている。
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生きている何かが。
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セレスはそれを見る。
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「まだ駄目です」
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優しい声だった。
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「まだ起きてはいけません」
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返事はない。
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だが。
鼓動だけは少し強くなった。
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ドクン。
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ドクン。
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ドクン。
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その頃。
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オリオン。
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栞が突然反応する。
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「見つけた!」
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全員が振り向く。
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地図上。
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一瞬だけ。
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第三認証鍵の信号。
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捕捉成功。
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神代が叫ぶ。
「どこだ!」
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栞の指が動く。
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物流網の外縁。
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人類未踏領域。
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忘れられた航路。
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その中心。
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流浪方舟アダマス。
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ついに居場所が判明した。
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しかし。
その瞬間。
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栞の能力が警告を発する。
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危険。
危険。
危険。
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全部赤だった。
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エリオスが顔色を変える。
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レギウスも。
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アークも。
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理由は一つ。
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その反応を知っていたから。
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「接近するな」
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エリオスが言う。
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珍しく強い口調だった。
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「セレスは戦うぞ」
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静寂。
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「最初から全力で」
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そして。
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誰よりも修復計画を嫌っている。
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そう告げた。
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第三認証鍵編。
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本当の守護者が。
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ついに舞台へ姿を現した。
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第65話へ続く
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