第63話 第三認証鍵の残響
第63話 第三認証鍵の残響
観測者救出から一週間後。
北方物流中継局は少しずつ活気を取り戻していた。
崩壊寸前だった施設は安定化し、物流炉も再起動している。
ミリアは嬉しそうに走り回り。
アリアは以前より明らかに表情が増え。
アークとレギウスは三千年ぶりにまともな会話をしていた。
奇跡のような光景だった。
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そして。
そんな平和な時間は長く続かなかった。
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原因はエリオスだった。
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元観測者。
三千年勤務経験者。
現在長期休暇中。
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しかし。
この男には一つ問題があった。
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物流網そのものだった期間が長すぎた。
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ある朝。
食堂で朝食を食べていた時である。
エリオスが突然固まった。
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「どうした」
カイルが聞く。
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エリオスの顔色は悪かった。
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「聞こえる」
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静かな声。
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全員が見る。
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「何がだ」
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「物流網」
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空気が変わる。
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レギウスが立ち上がる。
アークも反応した。
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冗談では済まない話だった。
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観測者との接続は解除された。
そのはずだった。
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だがエリオスは首を振る。
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「繋がってはいない」
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「けど分かる」
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「残響みたいなものだ」
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元観測者だからこそ残っている感覚。
完全には消えていないらしい。
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その時。
栞の能力も反応した。
《世界管理補佐》。
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大量の情報。
物流網。
世界接続。
管理権限。
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その奥。
本当に奥。
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消えかけた信号。
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「ある」
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栞が呟く。
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神代も反応する。
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《継承者の記憶》。
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古い記録。
封印資料。
認証鍵情報。
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そして。
信じられない事実が浮かび上がる。
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「第三認証鍵だ」
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静寂。
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全員が止まる。
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ついに来た。
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第一認証鍵。
地球。
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第二認証鍵。
北方物流中継局。
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そして。
第三認証鍵。
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物流網再建計画の次の目標。
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アリアが即座に解析を開始する。
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しかし。
結果は異常だった。
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「位置不明」
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ミリアが首を傾げる。
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「認証鍵なのに?」
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「存在は確認」
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「位置のみ不明」
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完全な矛盾だった。
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エリオスが顔をしかめる。
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「そんな馬鹿な」
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そして。
少し考える。
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元観測者として。
世界を見続けた者として。
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やがて答えへ辿り着く。
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「移動している」
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静寂。
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アークが反応する。
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「あり得ない」
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「認証鍵は固定施設だ」
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「普通ならな」
エリオスが答える。
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普通なら。
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その言葉が重要だった。
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神代の記憶が開く。
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物流網設計初期。
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試作認証鍵計画。
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そして。
そこに書かれていた名称。
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《機動認証鍵計画》
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神代が凍り付く。
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「うそだろ」
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全員が見る。
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「第三認証鍵は」
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掠れた声。
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「施設じゃない」
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沈黙。
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「生きてる」
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その瞬間。
本当に。
全員が固まった。
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栞が聞き返す。
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「生きてる?」
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神代は頷く。
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自分でも信じられない。
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だが記憶はそう言っている。
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第三認証鍵。
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正式名称。
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《流浪方舟アダマス》
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三千年前の超大型移動都市。
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文明崩壊後。
自律行動モードへ移行。
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現在位置不明。
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目的不明。
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行動不明。
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乗員不明。
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完全消息不明。
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そして。
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認証鍵そのものを都市内部へ搭載している。
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移動要塞。
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移動国家。
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移動認証鍵。
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それが第三認証鍵だった。
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ヴァルドが珍しく真顔になる。
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「待て」
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「それ本物か」
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神代が頷く。
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「たぶん」
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「たぶんで済ませる内容じゃない」
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その通りだった。
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エリオスは遠くを見る。
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かつての記憶。
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観測者時代に見えていた景色。
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物流網の彼方。
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誰も知らない航路。
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消えた都市。
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そして。
思い出す。
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たった一度だけ。
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見たことがある。
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巨大な影。
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雲海を進む都市。
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山のような船。
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その中央で輝く認証鍵。
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「生きている」
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エリオスが呟く。
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「今も」
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沈黙。
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そして。
物流網の奥底で。
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微かな信号が脈動する。
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まるで誰かが呼んでいるように。
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帰ってこいと。
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あるいは。
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助けてくれと。
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修復者たちの次なる旅は決まった。
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第三認証鍵。
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流浪方舟アダマス。
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三千年間行方不明だった移動都市。
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そして。
その都市には。
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認証鍵以上の何かが眠っていることを。
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まだ誰も知らなかった。
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第64話へ続く
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