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第62話 帰還

第62話 帰還

人格世界の空が崩れていた。

巨大な亀裂。

砕ける都市。

消滅する記憶。

三千年間続いた精神世界が終わろうとしている。


---


残り時間。

二十秒。


---


アリアの警告が響く。

「人格領域崩壊まで残り十九秒」

「緊急離脱を推奨」


---


だが。

まだ終わっていない。


---


人格転送は進行中だった。

観測者。

いや。

エリオス。

その人格核が少しずつ物流網から切り離されている。


---


青い光。

白い光。

無数の接続線。

三千年間世界へ繋がっていた鎖が一つずつ外れていく。


---


エリオスはそれを見つめていた。

呆然と。

信じられないものを見るように。


---


「本当に」


---


小さな声。


---


「終われるのか」


---


誰に聞くでもなく。


---


そして。

返事をしたのはカイルだった。


---


「終わらない」


---


エリオスが顔を上げる。


---


「休憩だ」


---


神代が吹き出した。


---


「まだ言うんですか」


---


「重要だからな」

真顔だった。


---


「業務終了じゃない」


---


「長期休暇だ」


---


本気だった。


---


三千年勤務。

↓

休暇取得。

↓

復帰未定。


---


カイルの中ではそう整理されているらしい。


---


エリオスは呆然としていた。


---


理解できない。


---


だが。

少しだけ笑った。


---


本当に少しだけ。


---


その時だった。


---


都市中央の塔が崩壊を始める。


---


ゴゴゴゴゴ……


---


足場が崩れる。

床が消える。

世界が消えていく。


---


「時間切れです!」

栞が叫ぶ。


---


人格世界そのものが保たない。


---


完全崩壊まで残り十秒。


---


アリアが報告する。

「人格切断率九十二パーセント」


---


足りない。


---


まだ足りない。


---


最後の接続が残っている。


---


そして。

それが最大だった。


---


世界物流網中枢。


---


観測者を縛る最後の楔。


---


三千年間外れなかった部分。


---


神代の記憶が反応する。


---


見える。


---


三千年前。


---


接続時。


---


最後に付与された制御コード。


---


誰が作ったのか。


---


誰が承認したのか。


---


全部。


---


そこには名前があった。


---


【総監察官レギウス】


---


神代が目を見開く。


---


「レギウス!」


---


現実側。


---


第二認証鍵区画。


---


レギウスも同時に気付いていた。


---


「そういうことか」


---


小さく呟く。


---


最後の管理者権限。


---


その一部がまだ繋がっている。


---


だから切れない。


---


アークも理解する。


---


「まさか」


---


「三千年前の承認コードか」


---


レギウスは苦笑した。


---


「面倒な置き土産だ」


---


そして。

静かに前へ出る。


---


第二認証鍵へ手を置く。


---


黄金の瞳が光る。


---


三千年間維持し続けた管理権限。


---


最後の行使だった。


---


「アリア」


---


「はい」


---


「接続を開く」


---


「了解」


---


黄金の光が広がる。


---


人格世界。


---


その中心へ。


---


レギウスの意識が届く。


---


エリオスが振り向いた。


---


目を見開く。


---


そこに。

三千年ぶりの友人が立っていた。


---


若い頃の姿のまま。


---


レギウス。


---


「遅くなった」


---


謝罪だった。


---


短い。

本当に短い。


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だが。

エリオスは首を振った。


---


怒れなかった。


---


恨めなかった。


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三千年経っても。


---


友人だったから。


---


「本当にな」


---


少し笑う。


---


二人とも。


---


三千年前の青年のように。


---


短く笑った。


---


そして。

レギウスが管理コードを解放する。


---


物流網最終承認。


---


人格接続解除。


---


実行。


---


その瞬間。

最後の鎖が砕けた。


---


エリオスの身体を縛っていた光。


---


全部消える。


---


人格切断率。


---


百パーセント。


---


アリアが宣言する。

「救出成功」


---


静寂。


---


誰もすぐには喋れなかった。


---


成功したのだ。


---


三千年前。


---


誰もできなかった救出。


---


不可能だと思われていた救助作戦。


---


それが。


---


今。

完了した。


---


人格世界の空が砕ける。


---


終わりだ。


---


だが。

もう恐くない。


---


エリオスが振り返る。


---


カイル。

栞。

神代。

アリア。


---


全員を見る。


---


そして。

頭を下げた。


---


深く。


---


「ありがとう」


---


今度ははっきりと。


---


三千年分の感謝。


---


その瞬間。

人格世界が完全崩壊する。


---


眩しい光。


---


白。


---


白。


---


白。


---


そして。

全てが消えた。


---


現実世界。

北方物流中継局。


---


光柱が空へ昇っていた。


---


観測者の巨大な身体。


---


それが崩壊していく。


---


黒い霧。


---


巨大な外殻。


---


世界規模の存在。


---


全てが消えていく。


---


ヴァルドが静かに見上げる。


---


「終わったか」


---


シオンも黙っていた。


---


解放派も。


---


誰も喧嘩しない。


---


ただ見送っている。


---


そして。

空中から一つの光が落ちてきた。


---


小さな光。


---


人一人分。


---


ミリアが目を見開く。


---


アリアも。


---


レギウスも。


---


ゆっくりと。


---


その光は地面へ降り立つ。


---


白い髪。


---


穏やかな瞳。


---


少し戸惑った顔。


---


青年の姿をしたエリオスだった。


---


三千年ぶりの。


---


自由な身体。


---


自由な呼吸。


---


自由な人生。


---


彼は自分の手を見つめた。


---


そして。

震える声で呟く。


---


「……重力がある」


---


神代が耐えきれず笑った。


---


栞も吹き出す。


---


カイルは頷いた。


---


「正常だな」


---


観測者救出作戦。


---


成功。


---


だが。

誰もまだ知らない。


---


その瞬間。

物流網の最深部で。

ある異常が発生していたことを。


---


そして。

それが。

第三認証鍵の所在へ繋がる最初の手掛かりになることを。


---


第63話へ続く

ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!

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