第59話 もう十分だ
第59話 もう十分だ
「帰れ」
観測者はそう言った。
白い髪。
感情の消えた瞳。
塔の最上部に立つ一人の人間。
かつて物流網へ接続された管理者。
三千年前に観測者となった人物。
その声と同時に。
世界が崩れ始めた。
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轟音。
空が割れる。
道路が沈む。
建物が崩れる。
記憶都市そのものが壊れていく。
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神代が叫ぶ。
「来る!」
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無数の建造物が砂となって崩壊する。
物流塔。
橋。
輸送路。
都市。
全部。
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観測者自身が世界を閉じようとしていた。
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「拒絶反応です!」
栞の声が響く。
《世界管理補佐》が解析を続ける。
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「人格核が救助を拒否しています!」
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「理由は」
カイルが聞く。
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栞の顔色が悪い。
情報が流れ込み続けていた。
感情まで。
記憶まで。
絶望まで。
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そして見える。
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観測者が何を考えているか。
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「諦めてる」
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静かな声だった。
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「もう自分は人間じゃないって」
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「助からないと思ってる」
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「だから追い返そうとしてる」
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沈黙。
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アリアも分析を完了する。
「一致」
「人格核は自己消滅を選択しています」
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神代が歯を食いしばる。
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三千年。
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孤独。
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苦痛。
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それだけ続けば当然かもしれない。
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だが。
ここまで来て終わらせるつもりはなかった。
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カイルは塔を見る。
遠い。
非常に遠い。
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「行くぞ」
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一歩踏み出す。
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「は?」
神代が振り向く。
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前方には崩壊する都市。
無数の瓦礫。
空間崩壊。
普通なら進めない。
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しかし。
カイルは進む。
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「要救助者を確認」
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「救助作業を開始する」
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その言い方に。
思わず神代が笑った。
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本当に。
どこまで行っても変わらない。
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世界だろうが。
観測者だろうが。
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遭難者扱いだった。
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その時だった。
巨大な道路が崩落する。
都市中央。
塔への唯一のルート。
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完全崩壊。
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深い亀裂。
下は奈落。
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栞が叫ぶ。
「道が!」
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普通なら終わりだった。
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だが。
カイルは止まらない。
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《空想具現》
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青い光が走る。
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空中に構造線が描かれる。
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トラス。
橋脚。
補強材。
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次々形成される。
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巨大な仮設橋。
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神代が笑う。
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「やっぱり橋か!」
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「移動するなら必要だろ」
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当然のように言う。
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数秒後。
橋完成。
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三人は駆ける。
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観測者の記憶世界を。
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救助対象へ向かって。
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その頃。
塔の上。
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観測者は見ていた。
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不思議そうに。
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「なぜ来る」
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誰も来なかった。
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三千年間。
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誰一人。
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来なかった。
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だから理解できない。
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どうして今さら来るのか。
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そして。
記憶がよみがえる。
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最初の百年。
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助けを求めた。
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返事はなかった。
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五百年。
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求め続けた。
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誰も来なかった。
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千年。
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諦めた。
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二千年。
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忘れた。
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三千年。
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もう終わりたかった。
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それだけだった。
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その時。
神代の能力が暴走する。
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《継承者の記憶》
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観測者本人の記憶。
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直接流れ込む。
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神代は足を止めた。
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苦しい。
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悲しい。
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そして。
泣きたくなる。
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「神代さん!」
栞が支える。
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神代は涙を流していた。
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理由もなく。
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ただ。
あまりにも孤独だったから。
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「助けてくれって」
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震える声。
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「ずっと言ってた」
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「誰にも届かなかった」
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その言葉で。
カイルの足が少し速くなる。
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栞も唇を噛む。
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アリアも黙っている。
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誰も何も言えなかった。
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やがて。
塔が近付いてくる。
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観測者はまだそこにいる。
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動かない。
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逃げない。
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ただ見ている。
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諦めた人の目だった。
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その時。
仮設橋が崩れ始めた。
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都市崩壊が加速している。
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栞の能力が警告を出す。
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「間に合わない!」
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「人格核崩壊まで四分!」
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「都市崩壊まで三分!」
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「物流接続切断まで二分!」
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全部最悪だった。
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だが。
その瞬間。
アリアが前へ出た。
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「補助します」
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青い光。
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物流網権限。
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管理支援端末。
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本来の能力。
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都市全体へアクセスが走る。
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崩壊する道路。
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停止した物流路。
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失われた記憶。
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それらが一時的に再起動する。
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「道を開きました」
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栞が目を見開く。
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「アリア!」
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「急いでください」
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いつになく優しい声だった。
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三人は走る。
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塔へ。
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そしてついに。
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最上階へ到達する。
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白い髪の観測者。
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その前へ。
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カイルが立った。
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観測者は静かに言う。
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「もう十分だ」
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諦めた声。
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疲れ切った声。
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三千年分の終わりの声。
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だが。
カイルは首を振った。
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「足りない」
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観測者が目を見開く。
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「何」
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「保守期間が足りてない」
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沈黙。
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神代が吹き出しそうになる。
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こんな場面で。
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その言葉。
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だがカイルは本気だった。
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「三千年働いたんだろ」
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「なら休暇が必要だ」
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観測者が固まる。
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理解できない。
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誰も。
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そんなこと言わなかった。
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管理者も。
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革命家も。
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誰も。
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みんな世界のことを言った。
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だが。
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目の前の修復者だけは違った。
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「世界より先に」
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「お前を助ける」
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その言葉に。
観測者の感情が。
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三千年ぶりに揺れた。
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第60話へ続く
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