↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
59/87

第59話 もう十分だ

第59話 もう十分だ

「帰れ」

観測者はそう言った。

白い髪。

感情の消えた瞳。

塔の最上部に立つ一人の人間。

かつて物流網へ接続された管理者。

三千年前に観測者となった人物。

その声と同時に。

世界が崩れ始めた。


---


轟音。

空が割れる。

道路が沈む。

建物が崩れる。

記憶都市そのものが壊れていく。


---


神代が叫ぶ。

「来る!」


---


無数の建造物が砂となって崩壊する。

物流塔。

橋。

輸送路。

都市。

全部。


---


観測者自身が世界を閉じようとしていた。


---


「拒絶反応です!」

栞の声が響く。

《世界管理補佐》が解析を続ける。


---


「人格核が救助を拒否しています!」


---


「理由は」

カイルが聞く。


---


栞の顔色が悪い。

情報が流れ込み続けていた。

感情まで。

記憶まで。

絶望まで。


---


そして見える。


---


観測者が何を考えているか。


---


「諦めてる」


---


静かな声だった。


---


「もう自分は人間じゃないって」


---


「助からないと思ってる」


---


「だから追い返そうとしてる」


---


沈黙。


---


アリアも分析を完了する。

「一致」

「人格核は自己消滅を選択しています」


---


神代が歯を食いしばる。


---


三千年。


---


孤独。


---


苦痛。


---


それだけ続けば当然かもしれない。


---


だが。

ここまで来て終わらせるつもりはなかった。


---


カイルは塔を見る。

遠い。

非常に遠い。


---


「行くぞ」


---


一歩踏み出す。


---


「は?」

神代が振り向く。


---


前方には崩壊する都市。

無数の瓦礫。

空間崩壊。

普通なら進めない。


---


しかし。

カイルは進む。


---


「要救助者を確認」


---


「救助作業を開始する」


---


その言い方に。

思わず神代が笑った。


---


本当に。

どこまで行っても変わらない。


---


世界だろうが。

観測者だろうが。


---


遭難者扱いだった。


---


その時だった。

巨大な道路が崩落する。

都市中央。

塔への唯一のルート。


---


完全崩壊。


---


深い亀裂。

下は奈落。


---


栞が叫ぶ。

「道が!」


---


普通なら終わりだった。


---


だが。

カイルは止まらない。


---


《空想具現》


---


青い光が走る。


---


空中に構造線が描かれる。


---


トラス。

橋脚。

補強材。


---


次々形成される。


---


巨大な仮設橋。


---


神代が笑う。


---


「やっぱり橋か!」


---


「移動するなら必要だろ」


---


当然のように言う。


---


数秒後。

橋完成。


---


三人は駆ける。


---


観測者の記憶世界を。


---


救助対象へ向かって。


---


その頃。

塔の上。


---


観測者は見ていた。


---


不思議そうに。


---


「なぜ来る」


---


誰も来なかった。


---


三千年間。


---


誰一人。


---


来なかった。


---


だから理解できない。


---


どうして今さら来るのか。


---


そして。

記憶がよみがえる。


---


最初の百年。


---


助けを求めた。


---


返事はなかった。


---


五百年。


---


求め続けた。


---


誰も来なかった。


---


千年。


---


諦めた。


---


二千年。


---


忘れた。


---


三千年。


---


もう終わりたかった。


---


それだけだった。


---


その時。

神代の能力が暴走する。


---


《継承者の記憶》


---


観測者本人の記憶。


---


直接流れ込む。


---


神代は足を止めた。


---


苦しい。


---


悲しい。


---


そして。

泣きたくなる。


---


「神代さん!」

栞が支える。


---


神代は涙を流していた。


---


理由もなく。


---


ただ。

あまりにも孤独だったから。


---


「助けてくれって」


---


震える声。


---


「ずっと言ってた」


---


「誰にも届かなかった」


---


その言葉で。

カイルの足が少し速くなる。


---


栞も唇を噛む。


---


アリアも黙っている。


---


誰も何も言えなかった。


---


やがて。

塔が近付いてくる。


---


観測者はまだそこにいる。


---


動かない。


---


逃げない。


---


ただ見ている。


---


諦めた人の目だった。


---


その時。

仮設橋が崩れ始めた。


---


都市崩壊が加速している。


---


栞の能力が警告を出す。


---


「間に合わない!」


---


「人格核崩壊まで四分!」


---


「都市崩壊まで三分!」


---


「物流接続切断まで二分!」


---


全部最悪だった。


---


だが。

その瞬間。

アリアが前へ出た。


---


「補助します」


---


青い光。


---


物流網権限。


---


管理支援端末。


---


本来の能力。


---


都市全体へアクセスが走る。


---


崩壊する道路。


---


停止した物流路。


---


失われた記憶。


---


それらが一時的に再起動する。


---


「道を開きました」


---


栞が目を見開く。


---


「アリア!」


---


「急いでください」


---


いつになく優しい声だった。


---


三人は走る。


---


塔へ。


---


そしてついに。


---


最上階へ到達する。


---


白い髪の観測者。


---


その前へ。


---


カイルが立った。


---


観測者は静かに言う。


---


「もう十分だ」


---


諦めた声。


---


疲れ切った声。


---


三千年分の終わりの声。


---


だが。

カイルは首を振った。


---


「足りない」


---


観測者が目を見開く。


---


「何」


---


「保守期間が足りてない」


---


沈黙。


---


神代が吹き出しそうになる。


---


こんな場面で。


---


その言葉。


---


だがカイルは本気だった。


---


「三千年働いたんだろ」


---


「なら休暇が必要だ」


---


観測者が固まる。


---


理解できない。


---


誰も。


---


そんなこと言わなかった。


---


管理者も。


---


革命家も。


---


誰も。


---


みんな世界のことを言った。


---


だが。


---


目の前の修復者だけは違った。


---


「世界より先に」


---


「お前を助ける」


---


その言葉に。

観測者の感情が。


---


三千年ぶりに揺れた。


---


第60話へ続く

ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。