第57話 観測者内部潜行作戦
第57話 観測者内部潜行作戦
北方物流中継局上空。
観測者は依然として空を覆っていた。
巨大な黒い存在。
無数の眼。
崩壊する世界境界。
ただ存在するだけで周囲の現実が歪む。
だが今。
カイルたちの目的は変わった。
討伐ではない。
救出だった。
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「作戦を整理します」
栞が言った。
補佐官権限《世界管理補佐》が全力で動いている。
空中へ無数の情報が展開された。
観測者。
物流網。
人格核。
侵食領域。
危険区域。
複雑だった。
だが栞には見えていた。
全部が。
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「目標は人格核」
空中へ一つの光点が浮かぶ。
観測者の中心。
最深部。
三千年生き残った人間の意識。
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「ここを救出します」
シオンが苦い顔をする。
「簡単に言うな」
「私だってそう思います」
即答だった。
栞自身も無理だと思っている。
だが道はある。
それが見えている。
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神代も前へ出る。
《継承者の記憶》が過去の記録を掘り起こしていた。
「内部は現実空間じゃありません」
全員が聞く。
「観測者と接続された精神領域です」
「迷宮みたいなものか」
カイルが言う。
「もっと悪いです」
神代は首を振る。
「記憶そのものです」
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静寂。
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レギウスが頷く。
「正しい」
やはり知っている。
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「観測者内部は本人の記憶で構築される」
「だから三千年分の絶望もある」
ヴァルドが続けた。
「下手をすると飲み込まれるぞ」
その表情は真剣だった。
今までになく。
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その時。
アリアとミリアが同時に演算を完了する。
二人の目が同じ青白い光を宿す。
「侵入手段を確立します」
「世界門接続準備完了」
空中へ巨大な魔法陣が展開された。
いや。
魔法陣ではない。
物流網そのものだった。
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第二認証鍵。
第一認証鍵。
修復者権限。
補佐官権限。
継承者権限。
管理端末権限。
全てが共鳴している。
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「一人では行けません」
ミリアが言う。
「最低四人必要です」
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カイル。
栞。
神代。
アリア。
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物流網が選んだ管理構成。
そのままだった。
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「それ以外は」
シオンが聞く。
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「外部支援です」
アリアが答える。
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ヴァルドが苦笑する。
「留守番か」
「適性外です」
即答だった。
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「はっきり言うな」
「事実です」
ミリアまで頷く。
珍しく息が合っていた。
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一方。
レギウスは認証鍵を見ていた。
複雑な表情だった。
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「皮肉だな」
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誰にも聞こえないほど小さく呟く。
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かつて管理局は完璧を求めた。
一人で全てを担える存在を。
だから失敗した。
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だが今。
物流網が選んだのは違う。
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四人だった。
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欠点だらけの人々。
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それでも支え合う人々。
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その姿が少し眩しかった。
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その時だった。
観測者が動く。
巨大な眼。
数万の瞳。
その一つが開く。
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空間が砕ける。
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「来るぞ!」
ヴァルドが叫ぶ。
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黒い嵐。
記憶の奔流。
精神汚染。
三千年分の絶望。
それが中継局へ押し寄せた。
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シオンが前へ出る。
黒い魔力が広がる。
解放派指導者としてではない。
レギウスの弟子として。
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「通させるか!」
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衝突。
轟音。
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黒い嵐が弾かれる。
だが完全ではない。
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今度はヴァルドが動いた。
空間そのものを裂く。
革命家の力。
第四管理者の力。
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「急げ!」
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時間が稼がれる。
だが長くは持たない。
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栞の能力が叫んでいた。
《世界管理補佐》。
残り時間。
物流網負荷。
人格崩壊率。
全部見える。
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「急がないと消えます!」
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人格核。
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残存率八パーセント。
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そして減り続けている。
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神代が顔を上げる。
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「行こう」
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作家だった男。
ただ物語を書いていた男。
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今は違う。
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世界の歴史そのものを継ぐ者。
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覚悟ができていた。
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カイルも頷く。
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アリアも。
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ミリアも。
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そして。
世界門が完成する。
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巨大な円環。
白銀の光。
記憶の海へ続く入口。
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その向こうには。
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観測者の精神世界。
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三千年の孤独。
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三千年の苦痛。
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そして。
たった一人の救助対象が待っている。
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カイルは一歩前へ出る。
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「目標確認」
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「人格核の救出」
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まるで災害現場だ。
いつも通り。
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橋の上だろうが。
異世界だろうが。
世界そのものだろうが。
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やることは変わらない。
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助けを求める人がいる。
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だから助ける。
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ただそれだけだった。
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四人は同時に世界門へ飛び込む。
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次の瞬間。
景色が消えた。
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彼らが降り立った場所は。
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無限に続く廃都市だった。
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三千年間。
観測者が閉じ込められていた。
絶望の記憶世界。
その中心へ向かう救出作戦が。
ついに始まる。
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第58話へ続く
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