第54話 革命者ヴァルド
第54話 革命者ヴァルド
北方物流中継局全体が静まり返った。
認証鍵の光。
レギウス。
アーク。
シオン。
三千年の真実。
それだけでも十分衝撃だった。
だが今は違う。
誰もが同じ方向を見ていた。
空。
いや。
世界そのものに開いた巨大な裂け目を。
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そしてその前に立つ男。
ヴァルド。
第四管理者。
革命家。
管理局を崩壊させた張本人。
長い銀髪が風に揺れている。
いつもなら笑っている。
皮肉を言う。
楽しそうにしている。
だが今は違った。
本気で焦っていた。
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「まずいぞ」
その一言で。
レギウスが顔色を変える。
アークも凍り付く。
シオンでさえ言葉を失った。
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カイルは気付く。
三人ともヴァルドを知っている。
そして。
今のヴァルドを初めて見ている。
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「何が来る」
カイルが聞いた。
短く。
簡潔に。
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ヴァルドは笑わない。
真っ直ぐ裂け目を見る。
そして静かに答えた。
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「失敗作だ」
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沈黙。
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誰も意味が分からない。
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だが神代の記憶が反応する。
激しく。
今まで見たことがないほど。
視界が変わる。
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三千年前。
中央管理局。
最高機密会議。
アーク。
レギウス。
ヴァルド。
そして大勢の管理者。
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議題は一つ。
世界崩壊対策。
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物流網だけでは足りない。
世界は増え続ける。
管理者は足りない。
保守も追いつかない。
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そこで提案された計画。
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《観測者計画》
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神代が息を呑む。
聞いたことがない。
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記憶の中の若いヴァルドが立ち上がる。
珍しく怒っている。
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「ふざけるな!」
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会議室に響く声。
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「人を部品にする気か!?」
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「これは管理ではない!」
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「支配だ!」
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その言葉で。
神代は凍り付く。
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これが始まりだった。
ヴァルドが革命家になる。
その理由。
その原点。
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記憶が終わる。
現実へ戻る。
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神代は震える声で言った。
「観測者計画……」
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レギウスが目を閉じる。
アークも苦しそうだった。
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「そうか」
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「そこまで見たか」
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神代は頷く。
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「失敗作って……」
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「観測者ですか」
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静寂。
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ヴァルドが苦笑した。
「正解だ」
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誰も喜ばない。
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正解であってほしくなかった。
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アークが前へ出る。
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「まさか生きていたのか」
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ヴァルドは答える。
「生きていると言えるのかは分からんな」
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その言葉と同時に。
裂け目の奥で何かが動いた。
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巨大だった。
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山より大きい。
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都市より大きい。
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黒い。
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ただ黒い。
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輪郭すら不安定。
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存在しているだけで周囲の空間が崩れている。
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栞の能力が悲鳴を上げる。
《世界管理補佐》が大量情報を流し込んでくる。
危険。
危険。
危険。
危険。
危険。
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全部赤だった。
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初めてだった。
分析不能。
対処不能。
理解不能。
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全てが危険判定。
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「何ですか……あれ」
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栞の声が震える。
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ヴァルドは答えた。
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「世界そのものだ」
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誰も理解できない。
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だがヴァルドは続ける。
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「正確には」
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「世界に繋がれた人間だ」
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静寂。
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神代が青ざめる。
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まさか。
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観測者計画。
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管理者不足解決のため。
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物流網の維持要員確保のため。
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人間を物流網へ接続する。
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その極限。
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世界一つ分の物流と接続された人間。
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それが。
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観測者。
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「狂ってる」
シオンが呟く。
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ヴァルドは頷いた。
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「だから俺は反対した」
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初めてだった。
彼が過去を自分から語るのは。
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「皆勘違いしている」
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静かな声。
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「俺は物流網そのものを憎んでいたわけじゃない」
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レギウスが顔を上げる。
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アークも見る。
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三千年前。
誰も聞かなかった言葉。
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「俺が壊したかったのは」
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「管理局だ」
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その瞳には怒りがあった。
三千年たっても消えない怒り。
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「世界を支配しようとした連中だ」
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「人間を部品にした連中だ」
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「世界を数字でしか見なくなった連中だ」
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沈黙。
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カイルは聞いていた。
黙って。
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ヴァルドは初めて修復者を見る。
真っ直ぐ。
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「だから気に入った」
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苦笑する。
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「お前は人を見る」
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「施設も見る」
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「橋も見る」
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「世界も見る」
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「だが最初に人を見る」
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それは。
ヴァルドが最後まで失わなかった価値観だった。
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だから革命を起こした。
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だから失敗した。
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そして。
だから今も諦めていない。
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裂け目の向こうで観測者が動く。
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それだけで物流網が軋む。
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世界が悲鳴を上げる。
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アリアが警告する。
「危険」
「超高位存在を確認」
「既知データと一致しません」
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ミリアですら震えている。
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レギウスが低く呟く。
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「最悪だ」
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その言葉に。
全員の背筋が寒くなる。
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だが次の瞬間。
ヴァルドが意外なことを言った。
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「修復者」
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カイルを見る。
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「手を貸せ」
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空気が止まる。
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革命家。
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管理者。
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解放派。
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修復者。
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全員が敵対していたはずだった。
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そのヴァルドが。
初めて明確に協力を求めた。
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なぜなら。
観測者は。
ヴァルド個人では止められないからだ。
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そして。
物流網そのものの存続が懸かっているからだ。
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世界物流網再建編は。
第二認証鍵争奪戦から。
さらに大きな局面へ突入する。
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三千年前の失敗。
革命の真実。
そして観測者計画。
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全ての因縁が。
ついに交わろうとしていた。
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第55話へ続く
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