第53話 選ばれたのは
第53話 選ばれたのは
第二認証鍵は眩く輝いていた。
白でもない。
青でもない。
黄金に近い光。
それが区画全体を包み込んでいる。
まるで何かを探しているように。
まるで。
誰かを選んでいるように。
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全員が認証鍵を見つめていた。
レギウス。
アーク。
シオン。
ミリア。
アリア。
神代。
栞。
そしてカイル。
誰も動かない。
ただ光だけが脈動している。
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「認証が始まっています」
アリアが言う。
声はいつもより硬い。
緊張しているのかもしれない。
「何の認証だ」
カイルが聞く。
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アリアは答えなかった。
代わりに。
認証鍵そのものが反応した。
空中へ巨大な文字列が浮かび上がる。
古代アルカディア文字。
だが今は全員が読めた。
神代の継承能力。
アリアの翻訳。
そして認証鍵の直接共有。
それによって。
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表示されたのは。
たった一文だった。
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《次期世界管理者選定開始》
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静寂。
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誰も喜ばない。
誰も期待しない。
その意味を知っているからだ。
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次期管理者。
つまり。
レギウスの後継者。
物流網へ接続される存在。
永遠の維持管理要員。
三千年前の失敗の再来。
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「だから止めろと言った」
レギウスが苦笑する。
「認証鍵は管理者を選ぶ」
「物流網は管理者を必要とする」
「そして最後には必ず誰かが犠牲になる」
静かな声だった。
悲しそうな。
諦めたような。
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だが。
カイルは認証鍵を見ていた。
そして一言。
「設計不良だな」
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全員が振り向く。
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アークですら固まる。
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「いや待て」
アークが思わず言う。
「それは物流網そのものだぞ?」
「だからだ」
カイルは真顔だった。
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「運用で人柱が必要な時点で失敗している」
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沈黙。
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「保守計画が間違ってる」
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神代が思わず額を押さえた。
この男。
本当にどこまでもこの調子だった。
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三千年続いた悲劇。
↓
システムの欠陥。
↓
修正対象。
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発想が現場技術者すぎる。
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レギウスは。
しばらく呆然としていた。
そして。
突然笑った。
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「ははは……」
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三千年間で初めて聞くような笑い声だった。
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「そうか」
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「君はそう見るのか」
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そこには怒りも否定もなかった。
むしろ。
少し救われたような顔だった。
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その時。
栞の能力が反応する。
《世界管理補佐》。
情報が流れる。
認証鍵。
管理権限。
物流網。
構造。
全部。
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そして。
違和感を発見した。
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「待って」
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全員が振り向く。
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栞は認証鍵を見る。
その光を。
情報の流れを。
そして。
言った。
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「選定対象が変です」
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沈黙。
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アリアが確認する。
数秒。
そして。
止まった。
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珍しいことだった。
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「異常を確認」
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「説明を」
レギウスが言う。
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栞は少し迷う。
そして。
答えた。
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「管理者候補が一人じゃない」
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静寂。
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アークが目を見開く。
あり得ない。
本来は一人だ。
必ず。
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だが栞は首を振る。
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「四人います」
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今度こそ。
完全な沈黙だった。
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空中に表示が出る。
認証鍵の内部情報。
候補者一覧。
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そこに表示された名前。
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修復者
補佐官
知識継承者
管理支援端末
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つまり。
カイル。
栞。
神代。
アリア。
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レギウスが凍り付く。
アークも固まる。
ミリアですら理解できない。
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「分散管理……?」
アークが呟く。
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神代の能力が反応する。
激しく。
今まで見たことのない勢いで。
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記憶。
過去。
資料。
設計図。
全部が繋がる。
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そして。
ついに見つける。
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消された設計案を。
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三千年前。
採用されなかった計画。
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《共同管理方式》
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物流網管理者を一人にしない。
権限を分散する。
負荷を分散する。
犠牲をなくす。
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その設計者の名前は。
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アークだった。
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「そんな……」
アーク自身が呟く。
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忘れていた。
いや。
消されていた。
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内戦の過程で。
管理局の権力者たちが否決した。
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なぜなら。
一人で管理した方が支配しやすかったから。
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レギウスも思い出した。
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「そうか」
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「それがあった」
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三千年前。
実現できなかった案。
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だが今。
偶然。
条件が揃っている。
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修復者
補佐官
知識継承者
管理支援端末
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四つの権限保持者。
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物流網が求める役割。
全部。
揃っている。
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その瞬間だった。
認証鍵が爆発的に輝く。
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光が四つに分かれる。
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カイルへ。
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栞へ。
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神代へ。
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アリアへ。
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全員が光に包まれる。
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膨大な情報。
物流網。
世界。
管理権限。
全てが流れ込む。
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栞は世界を見る。
数万の物流路。
生きている世界。
滅びかけた世界。
その全体像。
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神代は知識を見る。
失われた文明。
技術。
歴史。
設計。
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アリアは制御を見る。
システム。
管理情報。
接続権限。
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そして。
カイルは。
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構造を見る。
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物流網そのものを。
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巨大なインフラとして。
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橋。
道路。
都市。
補給網。
それらの延長として。
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世界そのものを。
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そして理解した。
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「直せる」
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その一言に。
アークが笑う。
レギウスが笑う。
ミリアが笑う。
アリアまで微笑んだ。
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三千年間届かなかった場所へ。
ようやく答えが届いた。
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一人で支える必要はない。
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最初から。
チームで良かったのだ。
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しかしその瞬間。
中継局全体を揺るがす轟音が響いた。
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ドォォォォォ!!
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全員が振り向く。
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外壁方向。
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アリアが警告する。
「超高エネルギー反応を確認」
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ミリアが青ざめる。
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アークの顔色も変わる。
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そして。
外部映像が強制表示された。
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そこには。
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空を覆う巨大な黒い裂け目。
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そして。
その奥から現れる。
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見覚えのあるシルエット。
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第四管理者。
ヴァルド。
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だが。
違う。
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その表情は今までと違った。
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笑っていない。
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初めて。
本気で焦っていた。
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「まずいぞ」
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その一言で。
全員の背筋が凍る。
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三千年を生きた革命家が慌てるほどの何かが。
裂け目の向こうから来ていた。
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第54話へ続く
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