第52話 修復者の答え
第52話 修復者の答え
第二認証鍵区画。
誰も動けなかった。
静寂が支配している。
レギウスの言葉があまりにも重かったからだ。
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「私を終わらせてくれ」
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最後の管理者。
三千年間世界を支え続けた男。
その本人が。
自らの終わりを望んでいる。
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シオンですら言葉を失っていた。
黄金の瞳を見つめる。
長い間追い続けた背中。
師。
父。
憧れた人間。
その人物が今、自分の終焉を望んでいる。
理解できなかった。
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「なぜです」
シオンが問う。
震える声だった。
怒りではない。
悲しみだった。
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「私はあなたの意志を継ぐために」
「世界を守るために」
「物流網を支えるために」
「ここまで来た」
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レギウスは静かに首を振った。
「違う」
即答だった。
迷いがない。
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「お前は私を誤解している」
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シオンの拳が震える。
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「何が違う!」
初めて感情が爆発した。
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「あなたは犠牲になった!」
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「世界を支えるために!」
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「誰にも理解されず!」
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「三千年も!」
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その叫びに。
レギウスは静かに目を閉じた。
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そして。
少しだけ笑った。
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「だから失敗したんだ」
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沈黙。
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「私は全部一人で抱えた」
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「アークも」
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「ヴァルドも」
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「管理者も」
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「信じなかった」
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その一言に。
アークが目を伏せた。
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三千年前。
みんな正しかった。
だが。
誰も相手を信じなかった。
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結果として。
物流網は崩壊した。
管理局は消えた。
世界は壊れ始めた。
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「だから」
レギウスはカイルを見る。
真っ直ぐに。
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「君なら違うと思った」
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修復者。
補佐官。
知識継承者。
管理支援端末。
誰も一人でやっていない。
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それが羨ましかった。
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神代の記憶がさらに流れ込む。
今まで見えなかったもの。
最後の記録。
最後の日。
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レギウスは世界炉へ接続した。
だが。
目的は支配ではない。
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時間稼ぎだった。
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次の修復者が現れるまで。
物流網を残すための。
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三千年間。
たった一人で。
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神代の目から涙がこぼれた。
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「そういうことか……」
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誰も英雄ではなかった。
誰も悪人ではなかった。
ただ。
世界を守ろうとして失敗しただけだった。
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その時だった。
第二認証鍵が強く輝く。
眩い光。
区画全体を包み込む。
アリアが反応する。
「認証開始」
ミリアも振り向く。
アークも驚いている。
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認証鍵が自律起動している。
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レギウスの身体から光が流れ始める。
黄金の粒子。
膨大なエネルギー。
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アリアが叫ぶ。
「接続解除が始まっています!」
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全員が理解した。
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レギウスは自分を物流網から切り離そうとしている。
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つまり。
死ぬ。
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シオンが走った。
初めて。
理性より先に身体が動く。
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「やめろ!」
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レギウスへ手を伸ばす。
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だが。
届かない。
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黄金の光が二人を隔てる。
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「師匠!」
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レギウスは優しく笑った。
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「すまない」
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「お前にこれを背負わせるつもりはなかった」
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シオンの目が見開かれる。
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レギウスは続ける。
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「だから認証鍵を集めるな」
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今度はカイルたちも固まった。
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「え?」
栞が思わず声を出す。
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認証鍵を集めるな?
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それは修復計画そのものの否定だ。
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アリアが高速演算を始める。
ミリアも同じ。
そして。
結果が出る。
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二人とも青ざめた。
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「まさか……」
ミリアが震える。
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アリアが告げる。
「全認証鍵回収時」
「最終権限制御が発動します」
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静寂。
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誰も知らなかった。
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さらに続く。
「現在の修復計画には欠落情報があります」
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「何?」
カイルが聞く。
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アリアの声が僅かに震えた。
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「物流網再起動には管理者が必要です」
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誰も喋れない。
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管理者。
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つまり。
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誰かがレギウスの代わりになる。
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世界物流網そのものと接続される。
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永遠に。
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その事実が。
初めて明らかになった。
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シオンが絶句する。
アークも。
神代も。
栞も。
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そして。
全員の視線が自然と一人へ向いた。
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修復者。
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カイル・ヴァンガードへ。
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レギウスは苦しそうに笑った。
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「そういうことだ」
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「だから私は止めたかった」
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物流網を再建する。
それ自体は正しい。
だが最後には。
誰かが犠牲になる。
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その仕組みそのものが。
三千年前の失敗だった。
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沈黙。
長い沈黙。
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そして。
誰も予想できない返答をしたのは。
やはりカイルだった。
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「なら作ればいい」
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全員が固まる。
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「何を言っている」
アークが思わず聞く。
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カイルは本気だった。
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「管理者が必要なら作る」
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「犠牲が必要ならなくす」
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「仕組みが悪いなら変える」
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静かに。
当たり前のように。
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「三千年も放置されてる設計ミスだろ」
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完全な現場技術者の発想だった。
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レギウスですら。
初めて言葉を失った。
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そして次の瞬間。
わずかに。
本当にわずかに。
笑った。
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「なるほど」
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「それが修復者か」
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第二認証鍵がさらに輝く。
物流網全体が震える。
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そして。
認証鍵は選択を始める。
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次なる権限継承者を。
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だがそれは。
誰も予想しない形で始まろうとしていた。
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第53話へ続く
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