第51話 最後の管理者
第51話 最後の管理者
第二認証鍵区画。
そこは静寂に包まれていた。
中継局の他の場所では警報が鳴り響いている。
中央炉は暴走しかけている。
外では解放派が包囲を続けている。
だがこの場所だけは違った。
時間が止まったような静けさ。
その中心で。
二人の男が向かい合っていた。
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シオン。
解放派を率いる青年。
レギウスの弟子。
そして養子。
対するは。
黄金の瞳を持つ男。
三千年間生き続けた存在。
最後の管理者。
レギウス。
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「師匠」
シオンが言う。
レギウスは静かに振り返った。
昔と変わらない表情。
穏やかで。
優しく。
どこか疲れている目。
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「久しぶりだな」
レギウスが言う。
まるで昨日会ったかのように。
シオンの表情が僅かに歪んだ。
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「三十年です」
「そうか」
「私にとっては」
シオンは言葉を飲み込んだ。
レギウスにとっては違う。
三千年生きた男にとって三十年など短い。
だがシオンには違う。
人生の大半だった。
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「認証鍵を渡してください」
静かな声だった。
だが強い。
「そうすれば崩壊を止められる」
レギウスは首を振った。
「止まらない」
即答だった。
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シオンの表情が険しくなる。
「またそう言う」
「事実だ」
「管理局はいつもそうだった」
声が強くなる。
怒りではない。
悲しみだった。
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「危険だ」
「必要だ」
「任せろ」
「信じろ」
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シオンは拳を握る。
「その結果が今だ!」
叫びだった。
静かな青年から初めて感情が溢れる。
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「世界は崩壊している!」
「物流網は壊れた!」
「人々は苦しんでいる!」
「なのにあなた達は!」
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レギウスは黙って聞いていた。
否定しない。
言い返さない。
ただ聞いている。
それが逆にシオンを苦しめた。
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「私が終わらせる」
シオンは認証鍵を見る。
青白く輝く結晶。
第二認証鍵。
物流網再建に必要な鍵。
そして。
別の用途にも使える。
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「世界炉を起動する」
空気が変わる。
レギウスの目が細くなった。
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「本気か」
初めて強い声だった。
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「本気です」
「何が起きるか知っているな」
「知っています」
シオンは迷わない。
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世界炉再起動。
それは物流網を強制維持する最終手段。
だが代償がある。
莫大なものが。
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レギウスは目を閉じる。
そして小さく息を吐いた。
「だから渡せない」
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その瞬間だった。
扉が開く。
轟音。
破片。
崩れ落ちる金属。
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カイルだった。
栞だった。
神代だった。
アリアだった。
ミリアだった。
アークだった。
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全員が認証鍵区画へ到達する。
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「間に合ったな」
カイルが言う。
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シオンが振り返る。
そして初めて。
修復者を正面から見る。
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「君か」
静かな声。
敵意はない。
だが警戒はある。
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カイルも同じだった。
目の前の男を観察する。
軍人ではない。
狂人でもない。
理想家だ。
そして危険だ。
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その時。
栞の能力が全開になる。
《世界管理補佐》。
情報。
表情。
声。
仕草。
視線。
全部が繋がる。
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そして。
彼女は気付いた。
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「この人」
小さく呟く。
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「嘘をついてない」
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沈黙。
全員が振り向く。
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シオンも。
レギウスも。
アークも。
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栞は続ける。
「アークさんも」
「レギウスさんも」
「シオンさんも」
呼吸を整える。
情報が答えを出している。
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「みんな本気で世界を救おうとしてる」
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静寂。
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誰も反論できなかった。
だから厄介なのだ。
悪人がいない。
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全員が正しいと思う道を進んでいる。
だから争っている。
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アークが苦笑する。
「優秀すぎるな君は」
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レギウスは初めて栞を見る。
黄金の瞳。
長い時間を見てきた目。
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「補佐官か」
静かに言う。
「なるほど」
少しだけ笑った。
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そして。
神代の記憶が再び開く。
今までで最大だった。
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三千年前。
最後の日。
崩壊の日。
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アーク。
レギウス。
ヴァルド。
三人がいる。
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そして見えた。
真実が。
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レギウスは世界を支えるために自身を物流網へ接続した。
アークは世界炉になろうとした。
ヴァルドは管理局を壊した。
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誰が悪かったのでもない。
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誰もが。
世界を救おうとしていた。
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その結果。
失敗した。
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神代は膝をつく。
衝撃が大きすぎた。
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そして。
涙が出そうになる。
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三千年前から。
誰も諦めていなかったのだ。
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その時。
レギウスが静かに言った。
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「修復者」
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カイルを見る。
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「君に頼みがある」
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全員が凍る。
最後の管理者からの頼み。
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レギウスは認証鍵へ手を伸ばす。
そして。
静かに告げた。
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「私を終わらせてくれ」
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空気が止まった。
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アリアも。
ミリアも。
アークも。
シオンですら。
動きを止める。
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そして。
第二認証鍵が強く輝き始める。
同時に。
世界物流網そのものが震えた。
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何かが起きる。
決定的な何かが。
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三千年間続いた世界の歪みが。
今。
修復者の選択によって動こうとしていた。
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第52話へ続く
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