第50話 守護者ミリア
第50話 守護者ミリア
北方物流中継局。
崩壊まで残りわずか。
中央炉の暴走。
解放派の侵攻。
第二認証鍵への接近。
全てが同時進行で進んでいた。
そんな中。
ミリアは一歩前へ出た。
銀色の髪が揺れる。
赤い瞳は静かだった。
三千年間。
ただ一つの任務を遂行してきた者の目だった。
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「私が止めます」
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栞が息を呑む。
神代も言葉を失う。
ミリアの身体が発光している。
淡い銀色。
今まで見たことがない現象だった。
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アリアが反応する。
「ミリア」
声に感情が混じっている。
明らかだった。
心配している。
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ミリアは微笑んだ。
「大丈夫」
そう言った。
まるで妹が姉を安心させるように。
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「姉さんは知らないかもしれないけど」
ミリアは続ける。
「私は三千年間ずっとここにいた」
静かな声。
だが誇りがあった。
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「補修した」
「保守した」
「修理した」
「掃除もした」
栞が思わず吹き出しそうになる。
最後だけ妙に現実的だった。
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だが。
ミリアは真剣だった。
「だから」
少し胸を張る。
「この施設は誰よりも知っています」
その言葉に。
カイルが頷く。
理解していた。
現場責任者として。
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経験は強い。
知識以上に。
理論以上に。
実際に三千年間維持した人間ほど強いものはない。
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「何をする」
カイルが聞く。
ミリアは迷わない。
「管理者権限を使います」
静寂。
アークの顔色が変わる。
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「待て」
初めて大きな声だった。
「それは」
ミリアが遮る。
「分かっています」
そして。
笑った。
少し寂しそうに。
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「でも今しかない」
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アークは黙る。
顔を歪める。
理解しているのだ。
代償を。
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その時。
神代の記憶が反応する。
激しく。
今までで最大だった。
視界が白く染まる。
そして。
三千年前。
同じ場所。
同じような危機。
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若いミリアがいた。
いや。
完成したばかりのミリアだ。
アークと話している。
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「もしもの時は?」
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ミリアが尋ねる。
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アークが答える。
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「君が施設になるんだ」
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神代は凍り付く。
意味が分かってしまった。
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記憶が終わる。
現実へ戻る。
呼吸が止まりそうだった。
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「駄目だ!」
神代が叫ぶ。
全員が振り向く。
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ミリアは優しく笑った。
「見えたんですね」
否定しない。
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つまり本当だった。
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管理者権限の本体。
施設融合。
中継局そのものになる技術。
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神代の顔が青ざめる。
「それやったら!」
「消える!」
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沈黙。
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栞も気付く。
アリアも。
アークも。
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ミリアは答えない。
だが。
その沈黙が答えだった。
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カイルが前へ出る。
「却下だ」
即答だった。
迷いなし。
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「修復はする」
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「だが人は消さない」
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ミリアは少し困った顔になる。
「時間がないんです」
「なら作る」
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今度は全員が振り向く。
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「時間をだ」
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カイルの目が変わった。
完全に現場モードだった。
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崩落。
暴走。
施設破壊。
危機。
全部同じ。
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「栞」
「はい!」
即反応。
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「最も危険な箇所を出せ」
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補佐官能力が起動する。
施設全体。
荷重。
崩落予測。
損傷率。
全部。
見える。
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数秒。
いや。
一秒もかからなかった。
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「第四支柱!」
「その次が第二!」
「同時に西側導力路!」
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完璧だった。
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アリアも驚く。
「計算結果一致」
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そして神代。
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記憶を見る。
設計を読む。
過去を引き出す。
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「補助支柱がある!」
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「旧保守庫!」
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「移動距離百二十メートル!」
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アークが絶句する。
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あり得ない。
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この速度で設計図を読み解くなど。
管理局時代でも不可能だった。
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そして。
全ての情報が揃う。
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カイルが笑う。
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「間に合うな」
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神代と栞まで笑う。
おかしい。
どう考えても危機なのに。
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だが慣れてきた。
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この男がそう言う時は。
本当に間に合わせる気だからだ。
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その頃。
第二認証鍵区画。
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シオンは到達していた。
巨大な扉。
第二認証鍵。
その目前。
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だが。
彼は立ち止まっていた。
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理由は簡単だった。
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そこに誰かいたからだ。
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長い黒髪。
黄金の瞳。
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静かに立つ男。
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最後の管理者。
レギウス。
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シオンの目が見開かれる。
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「師匠……」
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三千年生きた男は。
静かに振り返った。
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「来たか」
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その一言で。
空気が凍る。
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一方。
カイルたちは施設崩壊を止めるため走り出す。
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ミリアを犠牲にしない。
施設も守る。
認証鍵も守る。
全部やる。
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無茶だった。
普通なら不可能。
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だが。
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修復者。
補佐官。
知識継承者。
管理支援端末。
そして第一技師。
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今のチームは。
少しずつ三千年前が求めた理想形へ近付き始めていた。
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そして次回。
ついに。
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レギウス。
最後の管理者。
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その真実が語られる。
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第51話へ続く
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