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第49話 支柱の上の真実

第49話 支柱の上の真実

中央炉区画。

炉心崩壊まで残り二百七十秒。

巨大な魔力炉は赤熱し、施設全体が軋んでいた。

天井から落下する瓦礫。

震える床。

鳴り止まない警報。

だが、その中で最も重かったのは神代が見た記憶だった。


---


最後の管理者は。

世界を壊しているのではない。

世界を支えている。


---


その事実が神代の頭から離れなかった。


---


「神代!」

栞の声で現実へ戻る。

「大丈夫ですか!?」

「あ、ああ」

息を整える。

だが頭の中は混乱していた。

もし本当にそうなら。

これまでの前提が崩れる。

アークの話。

ヴァルドの話。

管理局の歴史。

全部だ。


---


しかし今は考えている時間がない。

炉は暴走している。

シオンは認証鍵へ向かっている。

施設は崩壊寸前。

問題が多すぎた。


---


「神代」

カイルが呼ぶ。

振り返る。

いつもの落ち着いた顔だった。

「今は目の前だ」

短い言葉。

だが十分だった。

神代は頷く。

そうだ。

まずは中継局だ。

崩れたら全部終わる。


---


一方。

栞は能力を全開で使っていた。

《世界管理補佐》。

先ほど発現したばかりの上位技能。

施設全体の状態が見える。

数千の情報。

数万のデータ。

普通なら脳が壊れる。

だが整理される。

分類される。

優先順位まで自動で分かる。

そして。

その中で最も危険なものが浮かび上がった。


---


「カイルさん!」

地図を出す。

三次元構造図。

崩壊予測。

「中央炉じゃない!」

全員が振り向く。

「支柱です!」

「何?」

アークが驚く。


---


栞の指が走る。

地下深く。

施設基礎部。

巨大支柱群。

そのうち三本が赤く染まっている。

「ここが壊れたら終わり!」

アリアが即座に解析。

結果は一致した。

「補佐官分析を支持」

「施設全体崩落まで百八十秒へ短縮」

空気が凍る。


---


アークが表情を変える。

初めて。

完全な驚きだった。

「その位置を見抜くのか……」

その支柱は極秘設計だった。

管理局上層部しか知らない。

だが栞は見つけた。

能力だけで。


---


「修復者!」

アークが叫ぶ。

「中央炉より支柱だ!」

カイルは即座に頷く。

迷わない。

情報を信じる。

それが彼の強みだった。


---


「神代!」

「分かってる!」

神代も動く。

《継承者の記憶》が反応している。

施設設計図。

施工記録。

補修履歴。

過去の技術者たちの記憶。

全てが流れる。

そして。

一つの答えが見える。


---


「仮設補強!」

神代が叫ぶ。

アークが振り返る。

「できるのか?」

「元々ある!」

神代自身も驚いていた。

だが間違いない。

三千年前。

緊急時用。

支柱補強機構。

それが存在していた。


---


アリアが確認する。

「記録を発見」

「確認」

「非常用補強機構存在」

ミリアが目を見開く。

「そんな機能……」

「設計者本人が忘れてたみたいですね」

神代が言う。

アークが少し気まずそうな顔をした。


---


その頃。

別ルート。

第二認証鍵区画。

シオンは静かに歩いていた。

誰もいない。

妨害もない。

だからこそ警戒している。

彼は愚かではない。

優秀だ。

あまりにも。


---


「先生」

静かに呟く。

アークの姿を思い浮かべる。

幼い頃。

拾われた記憶。

教えられた知識。

物流網。

管理局。

世界。

全ての基礎を作った人。


---


だからこそ。

受け入れられなかった。


---


「あなたは優しすぎた」

シオンの声は静かだった。

世界は守れない。

善意だけでは。

だから管理が必要なのだ。

強い管理が。


---


その思想は。

レギウスから受け継いだものだった。


---


一方。

中央炉区画。

カイルたちは地下支柱区画へ到達する。

巨大だった。

山の根元そのもの。

無数の柱。

何十メートルもの高さ。

都市を支える建築物に近い。

いや。

これは都市以上だ。

物流中継局そのものを支えている。


---


そして。

その中心。

三本の支柱が砕け始めていた。

ユリウスの工作。

魔力爆薬。

崩落進行。

最悪だった。


---


「残り時間」

カイルが聞く。

「百五十秒」

アリアが答える。

短い。

あまりにも。


---


だが。

カイルは支柱を眺めていた。

敵ではない。

崩壊を見ている。

インフラ技術者の目で。

そして。

少し笑った。


---


「できるな」


---


アークが驚く。

「本気か?」

「やるしかない」

簡単だった。

答えは。


---


カイルは地面へ手を置く。

《空想具現》

発動。

巨大な魔法陣が広がる。

今までで最大規模。

施設全体へ伸びていく。


---


神代が理解する。

「そうか!」

修復ではない。

補強だ。


---


支柱が壊れるなら支える。

橋が落ちるなら補強する。

道路が崩れるなら土留めする。

全部同じ。

規模が違うだけ。


---


カイルの周囲へ膨大な構造情報が流れ込む。

応力。

荷重。

損傷。

全部。

そして。

地球で学んだ構造工学。

橋梁理論。

耐震設計。

それらを魔法へ変換する。


---


《構造補完》

初めて使う概念だった。

誰も教えていない。

だが成立する。

今なら。


---


青い光が支柱へ走る。

砕けた部分が繋がる。

消えた構造が再現される。

仮設支柱が形成される。

まるで巨大な見えない橋を架けるように。


---


その瞬間。

振動が止まった。

完全には。

ではない。

だが。

明らかに弱くなった。


---


アリアが解析する。

「崩落速度低下」

「施設余命延長」

神代が拳を握る。

「止まった!」


---


栞も笑う。

初めてだ。

ここまで大規模な危機を。

みんなで止めた。


---


だが。

次の瞬間。

地図が変わる。

第二認証鍵区画。

シオン。

到達。


---


静寂。


---


アリアが告げる。

「認証鍵接触まで推定六十秒」

全員の表情が変わる。


---


施設は守った。

だが。

本命は向こうだった。


---


シオンが第二認証鍵へ手を伸ばす。

修復者チームはまだ遠い。

間に合わない。

普通なら。


---


しかし。

その時だった。

ミリアが前へ出る。

静かな瞳。

決意を宿した目。


---


「私が止めます」


---


全員が見る。


---


「三千年間」


---


「この施設を守ってきました」


---


「最後くらい」


---


「守らせてください」


---


そして。

ミリアの身体が光り始める。

管理補助端末七号機。

北方物流中継局管理者。

三千年守り続けた少女。

その本当の力が。

今。

初めて解放されようとしていた。


---


第50話へ続く。

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