第48話 五分の攻防
第48話 五分の攻防
中央炉区画が真紅に染まっていた。
轟音。
振動。
警報。
そして施設全体を揺らす魔力の奔流。
三千年間、中継局を支え続けてきた巨大炉が暴走を始めている。
空中には無情な数字。
《炉心崩壊まで》《残り300秒》
五分。
たった五分だった。
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「止まるのか」
カイルが聞く。
アリアは即座に計算を始める。
数十枚の情報ウィンドウが展開する。
炉心出力。
冷却系統。
導力管。
崩壊率。
すべてが高速処理される。
そして。
答えは厳しかった。
「通常手順では不可能です」
神代が顔をしかめる。
「通常じゃなければ?」
「可能性はあります」
「ただし同時作業が必要です」
「何が必要だ」
カイルは既に走り出す準備をしていた。
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その時だった。
栞の能力が強く反応する。
《情報統合》。
今までとは比較にならない。
施設全域の情報が一気に流れ込んでくる。
無数の通路。
無数の魔力線。
無数の設備。
膨大なデータ。
だが不思議と苦しくない。
整理できる。
理解できる。
そして。
初めて明確な変化が起きた。
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視界へ文字が浮かぶ。
《世界管理補佐》《起動》
栞は固まる。
だが今は驚いている暇がない。
情報が見えている。
施設全体の状態が。
まるで巨大な運営管理画面のように。
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「三つです!」
栞が叫んだ。
全員が振り向く。
「炉心暴走の原因は三か所!」
「中央制御!」
「冷却系統!」
「補助導力路!」
次々に表示が浮かぶ。
神代も驚く。
アリアですら一瞬処理が遅れた。
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アリアが確認する。
「補佐官分析を支持」
「正解です」
アークが息を呑んだ。
「管理局上位補佐官クラス……」
その能力は既に人間離れしている。
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「なら役割分担だ」
カイルが即断する。
迷いはなかった。
「栞」
「はい!」
「全体管理」
即答だった。
「できます!」
以前の彼女なら言えなかった。
だが今は違う。
見える。
分かる。
できると確信できる。
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「神代」
「了解」
神代も頷く。
彼の目には別の景色が見えている。
過去の施設。
三千年前の設計図。
忘れられた技術。
それが今、記憶として流れ込んできていた。
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そして。
アリアとミリア。
二体の管理端末。
姉妹機。
三千年ぶりの再会。
だが今は感傷より任務だった。
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「炉心安定化アルゴリズムを再構築します」
ミリアが言う。
アリアが続く。
「共同演算を開始」
二人の周囲に無数の光が浮かぶ。
情報処理能力が一気に跳ね上がる。
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一方。
ユリウスは笑っていた。
遠くの足場から。
すべてを見下ろして。
「面白い」
本当に楽しそうだった。
「三千年前はこんなに面白くなかった」
狂気だった。
彼にとって破壊は芸術だった。
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「先生」
ユリウスがアークを見る。
「まだ修復が正しいと思うんですか?」
アークは即答した。
「思う」
一切迷わずに。
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ユリウスは笑う。
「なら見せてください」
そして。
新たな起爆装置を取り出した。
神代が青ざめる。
「まだあるのか!?」
「当然だろう」
ユリウスは微笑む。
「保険だ」
最悪だった。
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だが。
その時だった。
栞の能力が再び働く。
無数の情報。
施設。
敵。
構造。
全部が繋がる。
そして。
彼女は叫んだ。
「カイルさん!」
「何だ」
「ユリウスは囮!」
全員が固まる。
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地図が展開される。
施設全域。
そして。
一か所。
誰も見ていなかった区画。
そこへ赤い反応がある。
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「第二認証鍵!」
栞の声が響く。
「狙いはそっち!」
静寂。
そして。
全員が理解した。
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ユリウスは時間稼ぎ。
本命は別。
誰かが第二認証鍵へ向かっている。
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アリアが即座に解析。
数秒後。
答えが出る。
「侵入者確認」
「高位権限保持者」
全員の顔色が変わる。
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「誰だ」
カイルが言う。
次の瞬間。
映像が表示された。
長い黒髪。
黒い外套。
静かな瞳。
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シオンだった。
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解放派の指導者。
レギウスの弟子。
軍勢を率いる男。
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神代が息を呑む。
「最初からそれが目的か」
栞が頷く。
補佐官技能がはっきり答えを出している。
「中央炉は陽動」
「爆破も陽動」
「施設包囲も陽動」
「全部」
静かな声。
だが確信があった。
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「本命は第二認証鍵」
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沈黙。
長い沈黙。
そして。
カイルは笑った。
本当に少しだけ。
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「なるほど」
状況が整理された。
ならやることも整理される。
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「栞」
「はい」
「司令を続けろ」
「了解!」
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「神代」
「分かってます!」
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「アリア」
「はい」
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「中央炉を頼む」
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アリアが頷く。
ミリアも頷く。
アークも立ち上がった。
「ここは私がやる」
静かな声だった。
だが力強い。
第一技師。
三千年の経験。
ついに本領発揮だった。
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そして。
カイルは第二認証鍵区画へ向かう。
シオンを止めるために。
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だが。
その直前。
神代の能力が暴走する。
激しい記憶。
過去。
未来。
設計図。
世界物流網。
その全部が流れ込む。
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そして。
彼は見てしまう。
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レギウス。
最後の管理者。
三千年前。
崩壊の日。
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そして。
世界が壊れ始めた真の理由を。
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神代の顔から血の気が引いた。
「そんな……」
誰も気付かない。
ただ一人。
彼だけが見てしまった。
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最後の管理者は。
世界を壊そうとしているのではない。
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世界そのものを支えている。
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そしてもし。
最後の管理者が倒れれば。
物流網は完全崩壊する。
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その真実を。
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神代だけが知ってしまった。
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第49話へ続く。
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