第47話 破壊者と修復者
第47話 破壊者と修復者
北方物流中継局最下層。
崩壊警報が鳴り響く。
真っ赤な警告灯。
揺れる床。
軋む天井。
まるで施設全体が限界を訴えていた。
そしてその中心。
中央炉区画。
そこに一人の男がいた。
白髪。
痩せた身体。
狂気を宿した瞳。
かつてアークの部下だった男。
ユリウス。
彼は巨大な炉心設備の前でしゃがみ込み、起爆装置を抱えていた。
まるで宝物を見る子供のような顔で。
---
「綺麗だ」
ユリウスは呟く。
巨大な魔力炉。
三千年前の技術。
世界物流網を支えた力。
その全てを見上げながら。
「本当に綺麗だ」
そして笑う。
「だから壊したくなる」
狂っていた。
完全に。
---
その頃。
カイルたちは中央炉へ向かっていた。
保守通路。
非常用昇降機。
崩落区画。
最短ルート。
栞の能力が地図を構築し続けている。
---
「右です!」
---
即座に指示。
カイルが進路を変える。
数秒後。
左側通路が崩落した。
神代が顔を引きつらせる。
「当たりすぎだろ……」
「私も怖いです」
本音だった。
最近の栞は自分でも怖い。
施設全体の情報が頭へ流れ込む。
そして危険箇所が分かる。
昔なら絶対できなかった。
---
アリアが補足する。
「補佐官技能成長」
「施設管理補助権限開放」
「またですか」
栞は遠い目になる。
新しい能力が次々生えてくる。
もはや受け入れるしかなかった。
---
神代の方も同じだった。
《継承者の記憶》。
その力が強くなっている。
走りながら周囲を見る。
すると。
過去が重なる。
三千年前の光景。
保守員。
物流担当者。
技師たち。
そして。
見えた。
---
「そこ曲がるな!」
神代が叫ぶ。
全員が止まる。
次の瞬間。
前方通路が爆発した。
轟音。
衝撃。
瓦礫。
もし進んでいたら直撃だった。
---
アークが振り返る。
驚いていた。
本当に。
「君たち……」
呆然と呟く。
かつて管理局が何百人もかけていた作業。
危険予測。
施設管理。
過去記録参照。
それを。
今は三人で実施している。
異常だった。
そして。
効率が良すぎた。
---
その時だった。
栞が足を止める。
地図が変わった。
大量情報。
敵反応。
崩落予測。
そして。
新しい情報が浮かび上がる。
「待って」
全員が止まる。
「ユリウスの位置が変です」
カイルが見る。
確かに。
中央炉から動いている。
---
「逃げる気か」
神代が言う。
だが栞は首を振った。
違う。
違うのだ。
情報がそう言っている。
そして。
答えを見つける。
---
「違う!」
栞が叫ぶ。
「爆発だけじゃない!」
「何?」
「誘導してる!」
静寂。
---
地図上。
崩落。
火災。
損傷。
全てが一つの場所へ集中している。
偶然ではない。
意図的だ。
---
アリアが即座に計算する。
数秒後。
答えを出した。
「補佐官分析を支持」
「中央炉へのエネルギー集中を確認」
神代が青ざめる。
理解した。
---
「まさか」
---
「炉心暴走だ」
カイルが言った。
その瞬間。
全員の顔色が変わった。
---
爆発ではない。
もっと悪い。
エネルギー暴走。
魔力炉そのものを破壊する気だ。
もし起きれば。
中継局だけでは済まない。
森も。
周辺地域も。
吹き飛ぶ。
---
アークが歯を食いしばる。
「アイツ……!」
怒りだった。
珍しく。
本気で怒っている。
---
ユリウスを育てたのは自分だ。
技術を教えたのも。
施設保守を教えたのも。
全部。
自分だった。
だから分かる。
アイツは施設を壊す天才だ。
---
「急ぐぞ」
カイルが走る。
速度が上がる。
全員も続く。
---
途中。
巨大な隔壁が現れた。
完全閉鎖。
普通なら終わりだった。
だが。
神代が前へ出る。
「待ってください」
目を閉じる。
記憶を見る。
三千年前。
同じ場所。
技師。
整備員。
緊急手順。
そして。
理解する。
---
「ここです!」
壁の一角を指差す。
「隠し操作盤!」
ミリアが驚く。
アークも驚く。
存在自体忘れていた。
---
神代が古代文字を読む。
自然に。
何十年も使っていたように。
そして。
操作する。
隔壁が開いた。
轟音と共に。
---
「すごいな」
カイルが言う。
神代は苦笑した。
「僕も驚いてます」
本当に。
成長していた。
---
さらに先。
今度は迷路のような通路。
複雑。
普通なら迷う。
だが。
栞が即答する。
「左」
走る。
「次右」
走る。
「その先まっすぐ」
全員が付いていく。
完全にナビゲーターだった。
---
アリアが分析する。
「最適経路選択率九八%」
アークが呆然とする。
信じられなかった。
三千年前でも。
そんな能力者は居なかった。
---
やがて。
中央炉区画へ到着する。
巨大だった。
山の内部。
まるで神殿。
巨大な炉。
赤熱する魔力。
無数の導管。
そして。
その中央。
ユリウス。
---
「やあ」
笑っていた。
本当に楽しそうに。
---
「遅かったな」
---
起爆装置を持っている。
あと少し。
本当にあと少しで。
全てが終わる。
---
神代が叫ぶ。
「止めろ!」
ユリウスは笑う。
「嫌だ」
即答。
迷いなし。
---
「どうしてだ」
アークが前へ出る。
ユリウスを見る。
かつての弟子。
かつての部下。
そして。
かつて信頼していた男。
---
ユリウスは答える。
静かに。
「先生」
笑う。
優しく。
狂ったまま。
---
「壊れるものだから美しい」
---
沈黙。
---
「維持するから苦しむ」
---
「守るから争う」
---
「なら壊せばいい」
---
その思想は極端だった。
だが。
彼にとっては真実なのだろう。
---
カイルが前へ出る。
ユリウスを見る。
そして。
静かに言った。
---
「違うな」
---
ユリウスが眉をひそめる。
---
「壊れるから直すんだ」
---
静寂。
---
「壊れないものに価値はない」
---
「維持するから文明になる」
---
「守るから人が住める」
---
カイルの声は平静だった。
だが。
強かった。
---
修復者。
その生き方そのものだった。
---
ユリウスは笑う。
そして。
起爆装置へ指を置く。
---
「なら証明してみろ」
---
次の瞬間。
暴走が始まった。
中央炉が真紅に染まる。
轟音。
振動。
アリアが叫ぶ。
「炉心暴走!」
「崩壊まで三百秒!」
---
五分。
---
中継局崩壊まで。
残り五分だった。
――第48話へ続く――
ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!




