第46話 崩落解析
第46話 崩落解析
北方物流中継局は悲鳴を上げていた。
ゴゴゴゴゴ……
低い振動が床を伝う。
天井から砂埃が落ちる。
物流レーンは停止し、各所で火花が散っている。
その中心で。
カイルは地図を見ていた。
敵ではない。
封印対象でもない。
施設そのものを見ていた。
周囲ではアークとミリアが緊張している。
解放派の軍勢も迫っている。
だがカイルの視線は一つだった。
崩落予測図。
中継局の構造解析。
それだけ。
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「状況確認」
短く言う。
それだけで三人が動いた。
もはや完全にチームだった。
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最初に反応したのは栞だった。
《情報統合》が高速で動く。
目の前へ無数の情報窓が展開される。
まるで世界そのものがデータ化されたように。
施設構造。
崩落速度。
魔力流量。
損傷箇所。
全部が見える。
そして頭の中で整理されていく。
「東区画はまだ安全です!」
即座に結果を出す。
「崩落は西側から!」
「支柱損傷率七十パーセント!」
アークが目を見開いた。
普通なら数時間かかる解析。
それを数秒で終えている。
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神代も動く。
《継承者の記憶》が発動している。
視界に過去が重なる。
三千年前。
建設中の中継局。
技師たち。
設計図。
会話。
そして。
記憶の中のアーク。
若い頃の彼が図面へ印を付けている。
そこだ。
神代は叫んだ。
「補助支柱!」
全員が振り向く。
「中央炉の下です!」
「隠し補強構造がある!」
アークが固まった。
「なぜ知っている」
「見えたんです!」
神代自身も驚いていた。
完全に他人の記憶だった。
だが間違いない。
本当に見たのだ。
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アリアが即座に追従する。
「情報を照合」
「確認しました」
巨大な構造図が展開される。
通常図面には存在しない部分。
秘密の補助構造。
アークしか知らないはずの設計。
それが本当に存在していた。
「正解だ」
アークが苦笑した。
「私も忘れていた」
神代は脱力した。
三千年前の本人より先に思い出してしまった。
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カイルの目が鋭くなる。
情報が揃った。
補佐官。
知識継承者。
支援端末。
全員の情報が繋がる。
「支柱は生きているな」
アリアが答える。
「三十二パーセント稼働」
「十分だ」
即答だった。
周囲は驚く。
十分ではない。
普通に考えれば危険だ。
しかし。
カイルにとっては違った。
三十二パーセント残っている。
つまり。
使える。
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「補強する」
全員が息を呑む。
カイルは中央構造を見る。
巨大施設。
山サイズ。
普通なら工事に何年も必要だ。
だが時間はない。
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「アリア」
「はい」
「資材は」
「保守材が残っています」
「神代」
「あります」
神代は既に記憶から情報を読み取っていた。
「物流用支柱ユニット」
「予備が六本」
「地下保管庫」
アークが驚く。
「本当に全部見えているのか」
神代は笑うしかなかった。
自分でも信じられない。
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栞の能力も加速する。
大量情報が整理される。
すると突然。
一つの異常へ気付いた。
「待ってください!」
全員が見る。
栞は地図を指差した。
「敵です!」
解放派の反応ではない。
別。
もっと小さい。
だが。
一直線に中央炉へ向かっている。
「これ」
「シオンじゃない」
アークの顔色が変わる。
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次の瞬間。
神代も記憶を見る。
古い記録。
管理局の報告書。
そこに名前があった。
一人。
裏切り者。
施設専門破壊工作員。
そして。
「ユリウス!」
神代が叫ぶ。
アークが凍る。
「まだ生きているのか……!」
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栞は混乱する。
「誰ですか!?」
アークが低い声で答える。
「私の部下だった男だ」
静かな声。
だが怒りが混じっている。
「施設破壊の専門家だ」
最悪だった。
今この状況で。
施設破壊専門家。
相性が悪すぎる。
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アリアが解析する。
「施設中央炉への到達予測」
「三分二十秒」
カイルが立ち上がる。
短い。
あまりにも短い。
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栞の能力が働く。
瞬時に全体を把握する。
敵のルート。
最短経路。
施設損傷箇所。
そして。
答えが見えた。
「追いつけます!」
カイルが振り向く。
「どこだ」
栞の指が動く。
地図に一本の線が引かれる。
「ここ!」
「保守用連絡路!」
「崩落寸前だけど最短です!」
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神代も続く。
記憶が補足する。
「途中に昇降機があります!」
「三千年前の緊急用!」
アリアが即座に情報統合。
「確認」
「成功率八七パーセント」
数値が跳ね上がる。
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アークは驚いていた。
三人を見て。
修復者。
補佐官。
知識継承者。
アリア。
まるでかつて夢見たチームだった。
管理局が失ったもの。
その理想形がここにいる。
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「行くぞ」
カイルが言う。
全員が頷く。
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その瞬間だった。
施設全体へ衝撃が走る。
ドォォォン!!
重い爆発音。
中央炉方面。
アリアが警告する。
「爆発確認」
「工作開始」
神代の顔色が変わる。
「もう始まった!」
「急ぐぞ!」
カイルが走り出す。
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そして。
初めてだった。
栞も。
神代も。
迷わず走る。
以前なら足手まといだった。
だが違う。
今は役割がある。
情報を見る者。
過去を見る者。
現場を見る者。
そして支える者。
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四人は駆ける。
崩壊する施設を。
敵へ先回りするために。
第二認証鍵を守るために。
そして中継局そのものを救うために。
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その頃。
中央炉区画。
暗闇の中。
一人の男が笑っていた。
白髪。
痩せた身体。
狂気を宿した瞳。
ユリウス。
三千年前の破壊工作員。
彼は巨大な爆薬を炉心へ設置しながら呟く。
「全部壊そう」
楽しそうに。
本当に楽しそうに。
「昔もそうだった」
「今もそうだ」
そして最後の起爆装置へ手を伸ばす。
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だが彼はまだ知らない。
三千年前には居なかった存在。
修復者カイル。
補佐官栞。
継承者神代。
そしてアリア。
世界を壊す者ではなく。
世界を直すために集まった者たちが。
今まさに自分へ向かっていることを。
――第47話へ続く――
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