第45話 継承された理想
第45話 継承された理想
北方物流中継局の外。
黒い軍勢が森を埋め尽くしていた。
解放派。
数千規模。
武装集団。
魔導兵器。
古代兵装。
さらに後方には大型の輸送車両まで見える。
もはや単なる組織ではない。
一つの軍隊だった。
その中央。
黒い外套の男が静かに中継局を見上げている。
長い髪。
鋭い瞳。
冷静な表情。
その姿を見た瞬間。
アークが小さく目を閉じた。
「本当に来たか……」
苦しそうな声だった。
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カイルは男の姿を観察していた。
武器。
装備。
部隊配置。
退路。
癖。
いつものように見る。
だが。
何より気になったのは。
男の指揮の仕方だった。
解放派全体の動き。
配置。
補給線。
交代人員。
異常なほど無駄がない。
「軍人ではないな」
カイルが呟く。
神代が振り向く。
「分かるのか?」
「管理者だ」
短い答えだった。
実際には肩書ではなく考え方だった。
あの男は戦っていない。
管理している。
全体を。
物流を。
人員を。
まるで巨大な施設を運営しているように。
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その時。
栞の能力が動く。
《情報統合》。
中継局の配置。
敵の移動。
施設構造。
補給路。
全てが頭の中で繋がる。
そして。
一つの結論へ辿り着いた。
「正面は囮です」
全員が振り向く。
「何?」
ミリアが聞く。
栞は地図を指差した。
敵軍。
配置。
進軍速度。
全てが不自然だ。
「目的は侵攻じゃない」
「なら何だ」
「封鎖です」
静かな声だった。
だが確信がある。
敵は中へ入りたいのではない。
出したくないのだ。
何かを。
あるいは誰かを。
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アークの表情が変わる。
驚いていた。
明らかに。
「そこまで見えるのか」
小さく呟く。
栞自身も驚いている。
だが分かる。
情報が勝手に繋がる。
「補佐官能力……」
神代が感心する。
「かなり強力ですね」
「私もそう思います」
本人も否定できなかった。
数日前とは比較にならない。
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その時だった。
神代の頭へ激しい痛みが走る。
《継承者の記憶》。
今まで以上に強い。
視界が切り替わる。
また三千年前だった。
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中央管理局。
巨大な執務室。
アークがいる。
レギウスがいる。
そして。
もう一人いた。
黒髪の青年。
先ほど外にいた男と同じ顔。
神代は息を呑む。
血縁だ。
直感的に分かる。
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青年は怒鳴っていた。
「なぜ理解しない!」
机を叩く。
レギウスも怒っている。
アークも険しい。
そして青年が言った。
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「管理局は必要だ!」
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「自由など幻想だ!」
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「脆弱な世界は守られなければならない!」
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神代は凍り付く。
その思想。
どこかで聞いた。
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最後の管理者。
レギウス。
その考え方だった。
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記憶が終わる。
神代は膝をついた。
呼吸が荒い。
栞が支える。
「大丈夫ですか!?」
「見えた」
神代は顔を上げる。
アークを見る。
「外の男」
「知っているな」
アークは目を閉じた。
そして。
静かに頷いた。
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「名前はシオン」
ミリアが息を呑む。
アリアも反応する。
アークは続けた。
「レギウスの養子だ」
静寂。
情報が繋がる。
解放派の指導者。
最後の管理者の弟子。
そして養子。
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しかし。
次の言葉が予想外だった。
「だが彼は解放派ではない」
空気が止まる。
神代が聞き返した。
「え?」
「正確には違う」
アークが映像を見る。
外に立つシオン。
静かに軍勢を率いる青年。
「彼はレギウス派だ」
その一言で。
一気に繋がる。
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解放派でもなく。
革命派でもなく。
管理局派。
管理による秩序。
統制による平和。
その思想。
完全にレギウス系統だった。
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栞の能力が答えを出す。
情報が整理される。
そして。
彼女は気付いた。
「待って」
全員が振り向く。
「おかしい」
「何が」
「解放派と思想が違う」
確かに。
真逆だ。
なのに。
同じ軍にいる。
矛盾している。
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アークが小さく笑った。
「そこまで見えるか」
少し誇らしそうだった。
教師が優秀な生徒を見るような顔。
「その通りだ」
アークは地図を広げる。
そして。
解放派の勢力図を表示した。
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実際は一枚岩ではない。
革命派。
統制派。
独立派。
複数存在する。
今までは「解放派」とまとめられていた。
だが。
本当は違う。
内部で分裂している。
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「つまり」
カイルが言う。
「利用し合っている」
「そうだ」
アークが頷く。
「シオンは認証鍵が欲しい」
「革命派は物流網を止めたい」
「目的は違う」
神代が眉をひそめる。
危険だった。
敵は一つではない。
複数ある。
しかも相互不信状態。
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その時。
アリアが警告を発する。
「施設侵入を確認」
全員が地図を見る。
赤点。
複数。
地下経路。
旧保守路。
そこから侵入している。
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だが。
ここで初めて。
栞が先に答えた。
「陽動です」
即答だった。
アリアが僅かに止まる。
「説明を求めます」
「戦力比がおかしい」
栞は地図を操作する。
以前ならできなかった。
今は自然にできる。
「侵入部隊は少数」
「でも包囲軍は維持」
「つまり目的は施設内部じゃない」
静寂。
そして。
神代が気付いた。
「通信か」
栞が頷く。
「誰かと接触したがっている」
アークを見る。
「あなたです」
空気が止まった。
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アークは数秒黙る。
その後。
苦笑した。
「本当に優秀だ」
否定しない。
つまり正解。
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その時だった。
中継局全体へ通信が流れる。
映像が現れる。
黒い外套。
シオンだった。
彼は施設内を見ている。
真っ直ぐ。
そして。
言った。
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「先生」
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アークが目を閉じる。
先生。
その呼び方で全てが分かった。
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師弟だった。
敵同士の。
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シオンは続ける。
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「第二認証鍵を渡してください」
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「そうすれば戦闘は避けます」
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静かな声。
怒りはない。
むしろ。
悲しそうですらある。
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カイルはシオンを見る。
そして分かった。
この男。
本気で被害を減らそうとしている。
だからこそ危険だ。
善意で動く敵は厄介である。
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アークも理解していた。
だから。
ゆっくり首を振る。
「渡せない」
その一言。
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シオンは目を閉じた。
数秒。
長い沈黙。
そして。
静かに告げた。
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「残念です」
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次の瞬間。
中継局全域が激しく揺れた。
アリアが叫ぶ。
「地下深部破壊反応!」
「爆破解析!」
神代が顔色を変える。
「爆破だと!?」
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栞の能力が一気に情報を統合する。
支柱。
地下構造。
崩落範囲。
連鎖被害。
そして。
彼女は初めて大声を出した。
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「第二認証鍵より先です!」
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全員が見る。
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「このままだと中継局そのものが落ちる!」
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静寂。
そして。
カイルの目が変わる。
完全な現場責任者の顔になった。
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敵との戦闘ではない。
認証鍵回収でもない。
施設崩壊阻止。
インフラ救出作戦。
本領発揮だった。
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「アリア」
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「はい」
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「被害予測を出せ」
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「展開します」
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「栞」
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「はい!」
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「全体管理を頼む」
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「任せてください!」
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「神代」
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「了解」
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「設計図を出せ」
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「見えてます!」
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三人が同時に動く。
そしてアークは思う。
三千年前。
自分たちが欲しかったチームだと。
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世界を直そうとする修復者。
全体を見る補佐官。
過去を読む継承者。
支援する管理端末。
そして。
今から始まるのは戦争ではない。
巨大インフラ崩落への対処だった。
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それこそが。
カイル・ヴァンガードが最も得意とする戦場である。
――第46話へ続く――
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