第44話 真実の継承者
第44話 真実の継承者
最下層へ続く巨大隔壁がゆっくりと開いていく。
ゴゴゴゴゴ……
三千年間閉ざされていた扉。
その向こうから溢れる光は眩しく、同時にどこか寂しさを感じさせた。
北方物流中継局の中枢。
第二認証鍵の眠る場所。
そして。
第一技師アークの封印区画。
四人は無言のまま見つめていた。
---
「最後の管理者を止めなさい」
---
先ほどの言葉が頭から離れない。
世界を壊しているのは最後の管理者。
それはヴァルドの言葉と真逆だった。
ヴァルドは言った。
管理局は腐敗した。
世界を支配しようとした。
だから壊した。
そして最後の管理者こそ、今も崩壊を加速させていると。
だが。
今目の前にいる人物も同じことを言った。
問題は。
二人とも三千年前を知る当事者だということだった。
---
やがて。
一人の男が現れる。
ゆっくりと。
静かに。
まるで長い眠りから目覚めたように。
白い髪。
穏やかな顔立ち。
年齢は三十代に見える。
しかし瞳だけは異常だった。
その奥にはあまりにも長い時間が刻まれている。
そして。
男の身体の一部は光になっていた。
右腕。
胸部。
首筋。
そこが人ではなく、発光する回路のようなもので構成されている。
神代は息を呑んだ。
「あれ……」
人間ではない。
だが機械でもない。
その中間だった。
---
ミリアが震える声で呼ぶ。
「アーク……様」
男は少女を見る。
その瞬間。
本当に優しい笑顔を浮かべた。
「久しぶりだね」
たったそれだけ。
だが。
ミリアはその場に崩れ落ちた。
三千年間。
施設を守り続けた少女。
誰にも会えなかった少女。
そんな彼女へ向けられた、最初の言葉だった。
---
アリアも見ている。
じっと。
目を離せない。
そして。
珍しく感情がそのまま声に出た。
「あなたは」
「生存していたのですね」
アークは笑った。
「半分だけね」
そう言って自分の身体を見る。
光の回路。
人の身体。
その中間。
「私は世界炉に接続した」
「だから死ねなかった」
静かな声だった。
後悔しているようにも。
諦めているようにも聞こえた。
---
カイルは前へ出る。
「聞きたいことがある」
アークが頷く。
「当然だろうね」
「最後の管理者とは何者だ」
部屋が静まり返る。
ついに核心へ触れた。
アークは少しだけ目を閉じた。
長い沈黙。
そして答える。
「私の親友だ」
誰も予想していなかった答えだった。
---
神代が固まる。
栞も固まる。
ミリアも驚いた顔をしている。
アリアですら数秒停止した。
親友。
最後の管理者と。
第一技師アークが。
---
「彼の名前はレギウス」
アークが言った。
「中央管理局総監察官」
「管理者たちを監督する役割だった」
そして。
少し笑う。
「真面目だったよ」
懐かしそうな声だった。
「誰よりも」
「誰よりも誠実だった」
---
栞は混乱していた。
話が合わない。
最後の管理者は黒幕ではないのか。
世界崩壊を加速させている存在ではないのか。
だが。
アークの表情を見る限り。
嘘には見えなかった。
---
その時だった。
神代の能力が再び反応する。
《継承者の記憶》。
視界が揺れる。
そして。
見えた。
三千年前。
中央管理局。
巨大な会議室。
円卓。
その中央。
二人の男。
一人はアーク。
そしてもう一人。
黄金の瞳を持つ青年。
レギウスだった。
彼らは笑っていた。
本当に楽しそうに。
何かを語り合っていた。
世界の未来を。
物流網の未来を。
夢を語っていた。
---
そして。
映像が変わる。
数年後。
二人は言い争っている。
激しく。
険しい顔で。
何かが決定的に壊れている。
神代は聞き取れなかった。
だが。
一つだけ分かった。
二人は敵ではなかった。
最初は。
---
神代が現実へ戻る。
呼吸が荒い。
「見た……」
アークが振り向く。
その瞳が僅かに揺れた。
「記憶継承か」
神代は頷く。
「あなたたちは友人だった」
アークは苦笑した。
「本当に見えているようだ」
---
栞は情報を整理していた。
補佐官能力が動いている。
大量の情報。
会話。
記録。
表情。
全てを繋ぐ。
そして。
一つの結論へ辿り着く。
「二人とも正しい……?」
全員が彼女を見る。
栞は驚いていた。
自分でも。
だが。
情報はそう言っている。
---
「アークさんは世界を守ろうとした」
「最後の管理者も守ろうとした」
「ただ方法が違った」
静かな声。
補佐官としての分析。
アークは目を見開く。
そして。
小さく笑った。
「優秀だね」
栞が少し赤くなる。
褒められ慣れていない。
---
その時だった。
施設全体が再び揺れる。
今までで最大だった。
天井に亀裂。
床に衝撃。
警報が激しく鳴り響く。
アリアが叫ぶ。
「異常事態!」
「外部侵入!」
神代が振り向く。
「何だ!?」
地図が表示される。
そこに現れた反応。
数百。
いや。
数千。
異常な数だった。
---
ミリアの顔色が変わる。
「そんな」
アークも表情を変える。
初めて。
明確に。
緊張を見せた。
---
栞の能力が即座に分析する。
情報が流れ込む。
魔力反応。
移動経路。
施設配置。
全部見える。
そして。
彼女は震える声で言った。
「包囲されてる」
静寂。
---
施設全体だ。
北方物流中継局そのものが。
何者かに包囲されている。
それも。
軍隊規模で。
---
その時。
外部映像が強制表示された。
森。
山。
空。
その全てを埋め尽くす影。
黒い外套。
黒い旗。
見覚えのある紋章。
解放派だった。
---
だが。
数がおかしい。
異常だった。
こんな規模の戦力を今まで隠していたのか。
神代の顔が青ざめる。
ミリアも絶句する。
---
そして。
その軍勢の中央。
一人の男が立っていた。
長い黒髪。
鋭い瞳。
解放派の指導者。
あるいは。
もっと上位の存在。
男は中継局を見上げる。
そして。
静かに告げた。
---
「第二認証鍵を回収する」
---
その声は施設全体へ届いた。
まるで宣戦布告だった。
---
アークは目を閉じる。
そして。
重い声で言った。
「間に合わなかったか」
カイルが見る。
「知っているのか」
アークは頷く。
そして。
最悪の事実を告げた。
---
「彼は最後の管理者の弟子だ」
---
空気が凍る。
---
第四管理者ヴァルド。
第一技師アーク。
最後の管理者レギウス。
そして。
最後の管理者の弟子。
新たな敵。
その存在が。
ついに表舞台へ現れたのである。
――第45話へ続く――
ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!




