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第43話 第一技師アーク

第43話 第一技師アーク

北方物流中継局の警報は鳴り続けていた。

赤い光。

揺れる床。

軋む天井。

そして最下層から溢れ続ける膨大な魔力。

まるで施設全体が悲鳴を上げているようだった。

そんな中。

ミリアの言葉だけが重く響いていた。


---


「元・中央管理局第一技師です」


---


神代が息を呑む。

栞も言葉を失う。

中央管理局。

三千年前。

世界物流網の中枢。

その第一技師。

つまり。

世界そのものを設計していた側の人間だ。


---


「名前は」

カイルが尋ねる。

ミリアはゆっくり答えた。

「アーク」

沈黙。

その名には聞き覚えがあった。

神代が反応する。

「封印対象コード……」

「アーク」

先ほど資料にあった。

最後の管理者が見ていた情報。

それと一致する。


---


アリアが静かに補足する。

「中央管理局第一技師アーク」

「世界物流網設計主任」

「世界門保守責任者」

栞が思わず顔を引きつらせる。

肩書きだけでとんでもない。

カイルで言えば。

全世界のインフラ管理責任者みたいなものだった。


---


「何をした」

カイルが聞く。

そこが重要だった。

なぜ封印されたのか。

なぜ三千年間も隔離されたのか。

ミリアが苦しそうな顔になる。

そして。

小さな声で言った。

「世界を守ろうとしました」

沈黙。

予想外だった。


---


「守ろうとして封印されたのか」

神代が言う。

「はい」

ミリアが頷く。

「アークは最後まで修復を主張していました」

世界物流網を維持する。

崩壊を止める。

管理局を立て直す。

それを望んでいた。

だが。

当時の管理者たちは違った。

内戦状態だった。

改革派。

維持派。

革命派。

無数の派閥が争っていた。


---


「だから」

ミリアは続ける。

「最後にアークは禁忌へ手を出しました」

空気が変わる。

誰も喋らない。

ミリアも苦しそうだった。

その記録を語るのは辛いらしい。


---


「禁忌?」

栞が聞く。

ミリアは頷いた。

「世界炉です」

その単語に。

アリアが反応した。

珍しく大きく。

「警告」

「危険情報です」

空中に赤い表示が現れる。


---


カイルが目を細める。

知らない言葉だった。

だが危険なのは分かる。

アリアが説明する。

「世界炉とは」

「物流網を維持するための超大型エネルギー機関です」

地図が表示される。

無数の世界。

その中心。

巨大な炉。

そこから物流網へエネルギーが送られている。


---


神代が青ざめる。

「発電所か」

「近いです」

「ただし規模が異なります」

アリアは続ける。

「世界炉一基で数万世界を維持可能です」

栞が頭を抱える。

またスケールがおかしい。

最近ずっとそうだった。


---


「アークは何をした」

カイルが聞く。

ミリアは答えた。

「自分を世界炉へ接続しました」

静寂。

誰一人意味が理解できない。

神代が最初に声を出した。

「え?」

「人間を?」

「はい」

「なぜ」

ミリアは俯く。

そして言った。

「時間がなかったからです」


---


三千年前。

物流網は崩壊していた。

管理局は内戦。

世界は消滅を始めていた。

誰も修復作業を続けられなかった。

そこでアークは考えた。

自分自身を制御装置にする。

自ら世界炉と融合する。

永遠の管理者となる。

そうすれば物流網は維持できる。


---


栞の背筋が寒くなる。

それは。

もう人間ではない。


---


ミリアが頷く。

「そうです」

まるで心を読まれたようだった。

「だから封印されました」

技師たちは止めた。

管理者たちも止めた。

最後の管理者も反対した。

だが。

アークは諦めなかった。

世界を守るためなら。

人間をやめてもいいと考えた。


---


神代が呟く。

「狂ってる……」

ミリアは否定しなかった。

肯定もしなかった。

ただ。

小さく言った。

「誰よりも優しかった人です」

その言葉が重かった。


---


その時だった。

施設全体が大きく揺れる。

轟音。

床へ亀裂が走る。

天井から瓦礫が落ちる。

アリアが叫ぶ。

「封印領域崩壊!」

「対象が移動を開始しました!」

全員が凍り付く。


---


神代の記憶が再び発動する。

視界が変わる。

三千年前。

封印室。

中心に立つ男。

長い白髪。

優しい顔。

だが。

身体の半分が光になっている。

世界炉と融合し始めていた。

男は言う。


---


「私が止める」


---


「誰も死なせない」


---


その瞬間。

封印が発動する。

そして。

記憶が切れた。


---


神代が息を切らす。

「見えた」

カイルが見る。

「どこだ」

神代は迷わない。

施設地図を指差した。

最下層。

第二認証鍵の隣。

封印炉心区画。

そこだった。


---


その時だった。

栞の能力が爆発的に動く。

《情報統合》。

さらに進化した。

無数の情報が繋がる。

施設構造。

崩壊速度。

封印位置。

移動経路。

全部。

一枚の完成図になる。

そして。

彼女は叫んだ。

「待って!」

全員が振り向く。


---


栞は地図を見る。

真っ青な顔だった。

そして。

震える声で言う。

「アークは逃げてない」

沈黙。

「何?」

カイルが聞く。

「違う」

栞は首を振る。

情報がそう言っている。

逃走経路がない。

攻撃経路もない。


---


「封印が壊れたんじゃない」

「なら何だ」

「中から開けたの」

静寂。

全員が言葉を失う。


---


アリアが解析する。

数秒後。

答えを出した。

「補佐官分析を支持」

「内部解除の可能性九八パーセント」

つまり。

アーク自身が封印を解いた。


---


なぜ。

その疑問が浮かぶ。

そして。

次の瞬間。

施設中へ声が響いた。

今度ははっきりと。

穏やかな男の声だった。


---


「ミリア」


---


少女が固まる。

瞳が震える。


---


三千年間。

聞いていない声。

聞きたかった声。

忘れられなかった声。

その声が。

施設中へ響く。


---


「よく頑張ったね」


---


ミリアの目から涙が溢れる。


---


誰も喋れない。

アークは続けた。

声は優しい。

驚くほど。


---


「修復者も来た」


---


「補佐官も」


---


「知識継承者も」


---


「ようやくだ」


---


その言葉に。

カイルの表情が変わる。

違和感。

何かがおかしい。


---


アークは知り過ぎている。

なぜ分かる。

なぜ知っている。

封印されていたはずなのに。


---


その疑問へ答えるように。

声が続いた。


---


「私はずっと見ていた」


---


空気が凍る。


---


そして。

施設最下層。

巨大な扉がゆっくり開き始めた。

第二認証鍵の眠る場所。

その奥。

膨大な光。

膨大な魔力。

そして。

人影。


---


ついに。

三千年間封印され続けた第一技師アークが姿を現そうとしていた。

だが。

その再会は。

誰も予想しなかった真実を連れてくることになる。

なぜなら。

アークは最初にこう言うからだ。


---


「最後の管理者を止めなさい」


---


「世界を壊そうとしているのは彼です」


---


そして。

その発言は。

これまでの全てを根本から覆すものだった。

――第44話へ続く――

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