第42話 封印最下層
第42話 封印最下層
北方物流中継局が震えていた。
ゴゴゴゴゴ……
三千年間沈黙していた巨大施設全体が軋んでいる。
壁面の光が明滅する。
物流レーンが停止する。
天井の魔力導管から火花が散った。
そして。
施設中へ警報が鳴り響く。
《警告》
《封印領域異常》
《隔離レベル低下》
《最下層封鎖失敗》
その声を聞いた瞬間。
ミリアの顔色が変わった。
今まで冷静だった少女が初めて動揺を見せる。
「そんな……」
小さな声。
震えている。
「あり得ない……」
---
カイルは即座に状況を切り替える。
「何が起きた」
短い質問。
ミリアは唇を噛む。
そして。
ゆっくり答えた。
「封印対象です」
「何の封印だ」
「三千年前」
施設の奥を見る。
最下層。
そこは中継局最大の禁域だった。
「中央管理局が最後に隔離した存在です」
空気が変わる。
神代が息を呑む。
アリアですら沈黙している。
それだけ危険なのだ。
---
その時だった。
神代が頭を押さえた。
「っ……!」
視界が揺れる。
いつもの継承記憶。
しかし今までより遥かに強い。
景色が変わる。
三千年前。
同じ場所。
北方物流中継局。
そして。
大勢の技師たち。
管理者たち。
その中央で。
一人の男が叫んでいた。
---
「封じろ!」
---
「絶対に外へ出すな!」
---
「ゲートごと閉鎖するんだ!」
---
轟音。
悲鳴。
崩壊。
そして。
黒い何か。
人型。
だが人ではない。
影のような存在。
その記憶を最後に。
神代は現実へ戻った。
膝をつく。
呼吸が荒い。
---
「見たのか」
カイルが支える。
神代は頷く。
顔色は真っ青だった。
「封印です」
「やはりか」
「でも魔物じゃない」
その言葉にミリアが反応する。
「知っているんですか」
神代は困惑した。
自分でも説明できない。
ただ。
確信だけがある。
「人間だった」
静寂。
施設の警報だけが響いている。
---
「人間?」
栞が聞く。
「たぶん……」
神代は額の汗を拭く。
「管理者です」
今度は全員が固まった。
管理者。
その単語は重い。
ヴァルド。
最後の管理者。
中央管理局。
全てに繋がる。
---
その時だった。
栞の能力が反応する。
《情報統合》。
頭の中で情報が結び付く。
三千年前。
封印。
管理者。
世界崩壊。
そして今この瞬間。
バラバラだった情報が繋がる。
「待って」
全員が見る。
栞は施設地図を指差した。
「これ事故じゃない」
ミリアが振り向く。
「何ですって?」
「誰かが壊してる」
静かに言った。
感覚ではない。
情報から導き出された結論。
---
地図上。
施設各所で同時多発異常が起きている。
隔壁。
制御室。
魔力炉。
保守区画。
全部。
偶然ではあり得ない。
「妨害です」
栞が断言する。
神代の目が開く。
確かにそうだ。
言われてみれば。
あまりにも都合が良すぎる。
---
アリアが即座に計算を開始する。
数秒後。
結果表示。
《補佐官分析を支持》
《人為的干渉確率九六パーセント》
ミリアが驚く。
栞自身も驚く。
だが。
もう止まらない。
情報が見える。
施設全体の状態が。
まるで鳥瞰図のように。
---
「西区画」
栞が言う。
「そこから始まってる」
神代が地図を見る。
「本当だ」
さらに辿る。
妨害経路。
移動経路。
侵入ルート。
全て。
一人の存在へ繋がる。
---
ミリアの表情が変わった。
「あの人……」
小さく呟く。
誰か思い当たるらしい。
---
その直後。
施設が大きく揺れた。
ゴォォォォォ!!
低い音。
空気そのものが震える。
そして。
最下層方向から。
凄まじい魔力が吹き上がる。
カイルですら眉をひそめるほどの密度だった。
危険。
本能が告げる。
---
だが。
カイルは恐怖より先に別のものを見ていた。
構造だ。
施設構造。
振動。
荷重。
崩壊進行。
そして。
気付いた。
「最下層だけじゃない」
全員が振り向く。
「施設そのものが落ちる」
沈黙。
ミリアが青ざめる。
「そんな……」
カイルは地図を指した。
支柱。
基礎部。
エネルギー炉。
それらが連鎖的に損傷している。
もし封印が完全解除されたら。
北方物流中継局そのものが崩壊する。
---
神代が息を呑む。
「第二認証鍵は?」
ミリアが答える。
「最下層です」
終わっていた。
崩落したら回収不可能。
施設も失われる。
物流中継局も終わる。
---
沈黙。
だが。
カイルだけは落ち着いていた。
むしろ少し考えている。
いつもの顔だった。
工事現場で問題を見つけた時。
橋の危険箇所を見つけた時。
同じ顔。
---
栞は思わず笑った。
「また何か思い付きましたね」
カイルが見る。
「分かるか」
「最近分かるようになりました」
補佐官能力のせいか。
付き合いが長くなったせいか。
その両方かもしれない。
---
カイルは地図を操作する。
施設全体。
物流炉。
補助動力。
冷却路。
そして。
一本の線を引いた。
「全部は直せない」
「そうでしょうね」
神代も頷く。
時間がない。
崩壊中だ。
---
「だが」
カイルは静かに言った。
「支えることはできる」
その瞬間。
神代が笑った。
なるほど。
いつものやつだ。
---
壊れた橋。
↓
補強する。
壊れた道。
↓
迂回する。
崩れる施設。
↓
支持する。
全部同じだった。
スケールが少し大きいだけで。
---
アリアが理解する。
《修復者プランを確認》
《仮設補強案》
ミリアが固まる。
「できるんですか?」
カイルは答える。
「分からん」
正直だった。
「だが」
少し笑う。
「試す価値はある」
それが彼だった。
無謀ではない。
だが諦めもしない。
---
その時。
最下層から。
声が聞こえた。
誰もいないはずなのに。
男とも女とも分からない。
不思議な声。
施設全体へ響く。
---
「ようやく自由だ」
---
全員が凍り付く。
声だけで分かる。
普通ではない。
---
ミリアの顔色が真っ白になる。
そして。
震える声で言った。
「そんな」
「封印対象……」
長い沈黙。
そして。
三千年間施設を守ってきた少女は。
初めて恐怖を露わにした。
---
「あの人は」
---
掠れた声。
---
「元・中央管理局第一技師です」
---
空気が止まる。
神代が息を呑む。
栞も言葉を失う。
カイルだけが静かに目を細めた。
---
最後の管理者ではない。
だが。
管理局崩壊の時代を生きた人間。
三千年前から封印され続けた存在。
そして。
第二認証鍵のすぐ傍にいる人物。
---
本当の中継局攻略が。
今まさに始まろうとしていた。
――第43話へ続く――
ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!尚、現在10月新作もよろしく(*´∀`)ノ
伝説の魔法斥候、地球に逆転移して『空想具現』に覚醒する〜ライトノベルと土木工学を読み漁って帰還したら、規格外の魔法と現代インフラで異世界最強の王になっていた件〜
https://ncode.syosetu.com/n4751mt/




