第41話 再会と継承
第41話 再会と継承
森の空気が止まったようだった。
誰も動かない。
誰も喋らない。
ただ一人。
銀髪の少女だけが震える瞳でアリアを見つめていた。
そして。
アリアもまた固まっていた。
管理支援端末。
常に冷静。
常に論理的。
感情など持たないはずの存在。
そのアリアが。
今だけは違った。
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「アリア……姉さん?」
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少女の声は小さい。
か細い。
だが三千年分の感情が込められていた。
長い孤独。
長い時間。
長い待機。
その全てが。
たった一言に詰まっている。
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アリアの瞳が僅かに揺れる。
「識別完了」
「管理補助端末七号機」
「識別名ミリア」
「稼働確認」
沈黙。
数秒。
いや。
もっと長く感じられた。
そして。
アリアは続けた。
普段では考えられないほどゆっくりと。
「再会できて……」
言葉が止まる。
自分でも理解できていないらしい。
「よかったと思います」
森が静まり返った。
栞と神代が目を見開く。
そして。
ミリアの頬を涙が伝った。
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「姉さん……」
その声を聞いて。
栞は胸が痛くなった。
三千年。
三千年である。
人類史そのものだ。
文明が生まれ。
国家が興り。
滅ぶほどの時間。
その間ずっと。
この少女は一人で待っていた。
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カイルは二人の様子を見ていた。
何も言わない。
だが静かに状況を観察している。
やがて。
ミリアがこちらへ向き直った。
赤い瞳。
その中には知性がある。
感情もある。
そして。
強い責任感も。
「修復者ですね」
カイルは頷く。
「そうらしい」
「待っていました」
ミリアは即答した。
迷いなく。
本気で。
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神代が尋ねる。
「本当に三千年間?」
ミリアは頷く。
「はい」
当たり前のように。
だがその事実は重い。
神代は少し言葉を失った。
「一人で?」
「途中までは違いました」
ミリアが空を見上げる。
北方物流中継局。
その巨大な黒い施設。
山そのものが施設になっている。
「管理員がいました」
「技師もいました」
「研究者もいました」
静かな声。
だが。
次の言葉は重かった。
「みんな死にました」
沈黙。
風だけが吹く。
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栞が拳を握る。
三千年。
そんな時間だ。
当然かもしれない。
だが。
聞いてしまうと辛い。
「それでも待っていたんですか」
ミリアは頷く。
そして。
少し笑った。
「修復者が来ると聞いていたので」
その言葉に。
カイルが僅かに目を細めた。
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アリアが突然反応する。
「感情発現確認」
栞が振り向く。
アリア自身が驚いている。
「どうしたの?」
「分かりません」
アリアはミリアを見る。
ずっと。
じっと。
そして小さく言った。
「嬉しいようです」
沈黙。
その一言に。
今度はミリアが泣きそうになった。
「姉さん……」
三千年ぶりの再会。
人間ではない。
端末同士。
だが。
確かに姉妹だった。
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しばらくして。
ミリアは施設内部へ案内を始めた。
中継局は巨大だった。
想像以上に。
物流拠点。
保守基地。
研究施設。
居住区。
全てが存在する。
一つの都市と言ってもいい。
「凄い……」
神代が見上げる。
巨大な天井。
無数の物流レーン。
古代技術の結晶。
作家として。
研究者として。
興奮しないわけがない。
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そして。
ここで神代の新しい能力が大きく覚醒する。
とある通路へ入った時だった。
突然。
神代が立ち止まる。
視界が揺れる。
景色が変わる。
三千年前。
同じ場所。
技師たちが歩いている。
保守員たちが話している。
物流車両が走っている。
そして。
一人の男。
白衣姿。
古い管理者。
その人物が言う。
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「非常時は中央補助炉を停止しろ」
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神代が息を呑む。
現実へ戻る。
汗が流れていた。
「神代さん!?」
栞が支える。
神代は前を見る。
そして叫んだ。
「止まって!」
全員が足を止める。
直後だった。
前方の床が崩落した。
轟音。
大穴。
数十メートル先の通路が完全に消える。
もし進んでいたら落ちていた。
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ミリアが驚く。
「なぜ分かったのですか」
神代も困惑する。
「記憶です」
「記憶?」
「三千年前の」
沈黙。
ミリアは息を呑んだ。
理解したらしい。
アストレアの血。
知識継承者。
それが本格的に目覚め始めている。
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同じ頃。
栞の能力も進化していた。
情報統合。
その性能が急激に向上している。
施設全体を見た瞬間。
頭の中に地図が組み上がった。
構造。
物流路。
人員配置。
危険区域。
全部。
まるで管理画面を見るように。
そして。
栞は気付く。
「待って」
ミリアが振り向く。
「どうしました?」
栞は施設の一角を見る。
「ここ」
「何かあります」
ミリアが眉をひそめる。
「センサーには何も」
「でもいる」
栞は確信していた。
情報が繋がって見える。
誰かが隠れている。
そこに。
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カイルが即座に動いた。
壁際へ回り込む。
支柱の影。
配管裏。
そして。
「出てこい」
静かに言う。
数秒。
沈黙。
その後。
人影が現れた。
黒装束。
解放派だった。
全員が身構える。
だが。
男は一人だった。
それも怪我をしている。
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「まさか」
男が苦笑する。
「補佐官候補か」
栞が驚く。
見つけられるとは思わなかった。
自分でも。
だが。
確かに見えたのだ。
違和感が。
施設全体の中で。
そこだけ情報が不自然だった。
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アリアが分析する。
「補佐官技能進化を確認」
「世界管理補佐権限の初期起動」
栞が固まる。
「また増えた」
神代が笑った。
「順調ですね」
「全然嬉しくありません」
即答だった。
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だが。
ここで初めて。
チームが完成する。
カイルは現場を見る。
神代は過去を見る。
栞は全体を見る。
アリアはシステムを見る。
それぞれ違う。
だから強い。
誰か一人では足りない。
四人だから進める。
そんな形になり始めていた。
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そして。
ミリアは静かに言う。
「修復者」
カイルが振り向く。
「第二認証鍵は最下層です」
「そうか」
「ですが問題があります」
その時。
施設全体が揺れた。
ゴゴゴゴゴ……
嫌な振動。
そして。
警報。
三千年沈黙していた中継局に。
真っ赤な警告表示が灯る。
ミリアの顔色が変わった。
アリアも凍り付く。
そして。
二人が同時に呟く。
「まさか」
その先。
最下層。
第二認証鍵保管区画。
そこから。
巨大な魔力反応が立ち上がっていた。
そして。
ミリアは震える声で言った。
「封印が壊れてる……」
静寂。
誰も動けない。
三千年間守り続けた施設。
その最も深い場所で。
何かが目覚めようとしていた。
――第42話へ続く――
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