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第40話 四人の役割

第40話 四人の役割

北方の森は静かだった。

不気味なほどに。

風は吹いている。

木々も揺れている。

だが生き物の気配が薄い。

まるで森そのものが何かを恐れているようだった。

オリオンを降りたカイルたちは、北方物流中継局へ向けて進んでいる。

先頭はカイル。

その後ろに栞。

さらに神代。

最後尾をアリアの浮遊端末が移動していた。

そして彼らはまだ知らない。

この森が、既に第二認証鍵を巡る戦いの最前線になっていることを。


---


異変に最初に気付いたのは栞だった。

ほんの数日前まで一般人だった少女。

しかし今は違う。

補佐官技能《情報統合》。

その力が少しずつ目覚め始めていた。

「待って」

突然足を止める。

カイルが振り返る。

「どうした」

栞自身も説明できなかった。

だが。

分かる。

何かがおかしい。

森を見る。

地形を見る。

風を見る。

音を見る。

そして頭の中で情報が繋がる。

「このまま進むと危ない」

神代が首を傾げる。

「何があるんです?」

「分からない」

正直に答える。

「でも危険」

カイルはすぐには否定しなかった。

むしろ周囲を観察し始める。

そして数十秒後。

小さく頷いた。

「正しいな」

栞は驚く。

本当に?

当たっていたのか。


---


カイルは森の地面を指差した。

「ここだ」

何も見えない。

だが。

カイルが小石を投げる。

次の瞬間。

地面が崩落した。

轟音。

大量の土砂。

巨大な落とし穴だった。

深さは二十メートル以上。

神代の顔が青くなる。

「危なっ……!」

もしそのまま進んでいたら。

確実に落ちていた。

「どうして分かったんです?」

栞が聞く。

カイルは逆に聞き返した。

「どうして分かったんだ?」

栞は言葉に詰まる。

説明できない。

ただ。

森の情報が自然に整理された。

それだけだった。

アリアが分析する。

「補佐官技能の成長を確認」

「環境情報統合レベル上昇」

栞が頭を抱える。

「どんどん人間じゃなくなってる気がする……」


---


そこからだった。

栞の能力が本格的に活躍し始める。

一時間後。

分岐路。

普通なら迷う。

だが栞は即座に答えた。

「右です」

「理由は?」

神代が聞く。

「痕跡」

「痕跡?」

「魔力の流れ」

自分で言って驚いた。

だが見える。

ほんの薄く。

空気の流れのように。

情報として。

そして。

実際に右が正解だった。


---


アリアが感心したように言う。

「補佐官技能《経路最適化》を確認」

「増えてません?」

「成長しました」

「そんな簡単に?」

「適性が高いためです」

栞は遠い目になった。

数日前まで図書館のアルバイトだったのである。


---


一方。

神代も変化していた。

彼の能力はさらに奇妙だった。

知識継承者。

《継承者の記憶》。

その力が発現し始めている。

最初の異変は中継局外周で起きた。

崩れた石橋。

その前で突然神代が止まった。

「神代さん?」

呼びかけても返事がない。

目を閉じている。

まるで眠っているようだった。

そして数秒後。

目を開く。

額に汗が浮かんでいた。

「思い出した」

「何を」

カイルが聞く。

神代は橋を指差す。

「この下です」

「?」

「下に保守通路がある」

沈黙。

誰も知らないはずの情報だった。


---


カイルは橋を調べる。

壊れた石材。

古い構造。

そして。

確かに。

隠し扉を発見した。

アリアが驚く。

「記録と一致」

「なぜ分かったのですか」

神代自身も困った顔をした。

「分かりません」

本当に分からない。

ただ。

見えたのだ。

一瞬。

別人の記憶として。

三千年前の保守員が通路を使っていた光景が。


---


アリアが分析する。

「アストレア記憶継承を確認」

神代が固まる。

「今なんて?」

「大賢者アストレアの記憶断片です」

森が静かになる。

神代はしばらく動けなかった。

自分の中に。

三千年前の記憶がある。

その事実は重かった。


---


しかし。

能力は確実に役立った。

保守通路の先には。

古代地図。

補給倉庫。

そして。

北方物流中継局の旧設計図が残されていた。

神代だけが読める。

神代だけが理解できる。

完全にチームの中核になり始めていた。


---


そしてアリア。

彼女もまた進化していた。

以前は単なる支援端末だった。

しかし今は違う。

学習している。

経験を蓄積している。

感情に近いものまで獲得し始めていた。

例えば。

夕方。

中継局目前まで到達した時。

アリアが突然言った。

「迂回を提案します」

カイルが振り向く。

「理由は」

「嫌な予感がします」

全員が固まった。

神代が聞く。

「予感?」

「はい」

「それ感情では?」

アリアは沈黙した。

数秒後。

「不明です」

栞が吹き出した。

アリアが感情を持ち始めている。

その証拠だった。


---


そして。

四人の力が初めて完全に噛み合う。

中継局直前。

巨大な魔力嵐が発生した。

視界が消える。

森が歪む。

空間が捻じれる。

普通なら進めない。

だが。

栞が言う。

「安全ルートがある」

神代が続く。

「古い保守路です」

アリアが補足する。

「通行可能性九二パーセント」

そしてカイルが決断する。

「進む」

四人が同時に動く。

まるで最初からそう設計されていたかのように。


---


やがて。

魔力嵐を抜けた先。

彼らはついにそれを見る。

北方物流中継局。

巨大だった。

山そのものが施設になっている。

黒い金属。

崩壊した塔。

埋もれた物流ゲート。

そして。

入口前に立つ一人の少女。

銀色の髪。

赤い瞳。

三千年間施設を守り続けた存在。

少女は静かに彼らを見る。

まずカイル。

次に栞。

神代。

そしてアリア。

その瞬間。

少女の目が見開かれた。

「修復者」

小さな声。

だが震えていた。

「補佐官」

「知識継承者」

そして最後に。

少女はアリアを見た。

長い沈黙。

その後。

本当に驚いたように呟く。

「アリア……姉さん?」

空気が凍りつく。

アリアも完全に停止した。

そして初めて。

感情の混じった声で答える。

「識別」

「個体名ミリア」

「妹機確認」

四人目の仲間。

いや。

アリアの妹とも言うべき存在。

三千年を生きた管理補助端末。

その出会いが。

第二認証鍵編を大きく動かすことになる。

――第41話へ続く――

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