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第24話 座標の先にあるもの

第24話 座標の先にあるもの

深夜。

宿泊施設の小さな部屋。

カイルは机の前で固まっていた。

窓の外では都会の灯りが輝いている。

車の音。

遠くを走る電車の音。

いつもと変わらない夜。

だが彼の前に置かれたノートだけは違った。

何も書いていないはずのページ。

そこへ浮かび上がった文字。

【第七物流ゲート管理権限承認待機】

そして。

【現地調査を推奨】

さらに。

【座標情報展開】

その下には数字が並んでいた。

緯度。

経度。

地球の位置情報。

カイルはすぐに理解する。

これは手掛かりだ。

黒虚の顎と繋がる何か。

あるいは地球側の物流ゲート。

少なくとも無視すべき情報ではない。

「場所を確認する必要があるな」

そう呟きながらスマートフォンの代わりにノートへ座標を書き写した。

未だにスマートフォンは持っていない。

だが最近は地図を読む機会が増えた。

図書館にも地図資料はある。

確認は可能だ。

問題は。

なぜ自分に情報が送られてきたのか。

ということだった。


---


翌朝。

図書館。

開館直後。

カイルは真っ先に郷土資料コーナーへ向かった。

そして国土地図や地形図を広げる。

座標を照合する。

何度も確認する。

間違いない。

場所は市街地から離れていた。

山間部。

古い開発跡地。

現在はほとんど使われていない区域。

「妙だな」

地下施設を隠すなら都合がいい。

物流施設を建設するなら微妙だ。

判断が付かない。

その時。

「また難しい顔してますね」

栞だった。

朝の業務前らしい。

コーヒーを片手にこちらへ来る。

「どうしたんですか?」

「これだ」

カイルは座標を見せた。

栞はしばらく眺める。

そして。

「あ」

声を漏らした。

「知っているのか」

「たぶん」

栞は少し考える。

記憶を探るように。

「子供の頃に聞いたことがあります」

「何を」

「開発中止になった施設」

カイルが顔を上げる。

栞は続けた。

「山の中を掘っていたら、変な遺構が見つかったとか」

「遺構」

「詳しくは知りません」

「でも地元じゃ少し有名な話です」

カイルの思考が加速する。

偶然とは思えない。


---


昼前。

図書館の会議室。

神代も呼ばれていた。

資料を広げながら説明する。

座標。

遺構。

物流ゲート。

神代の顔が段々真剣になっていく。

「一致します」

「何とだ」

「手記です」

神代は古いコピー資料を机へ広げた。

そこには地図があった。

かなり曖昧なものだったが、一か所だけ印が付いている。

山岳地帯。

地下施設。

そして。

そこにはこう書かれていた。

地球側中継保守施設

栞が息を呑む。

「保守施設?」

「物流ゲートそのものじゃない」

神代が言う。

「保守担当施設です」

「じゃあ」

栞が尋ねる。

「そこへ行けば何か分かる?」

「可能性は高い」

神代の声は慎重だった。

だが期待も混じっている。

「少なくとも初めての実地調査になります」


---


会議は二時間続いた。

必要なもの。

移動手段。

現地情報。

危険性。

全てを洗い出す。

そこで栞はあることに気付いた。

「待ってください」

二人が見る。

「私たち完全に探検に行く流れになってません?」

沈黙。

神代が顔を逸らした。

カイルも顔を逸らした。

「やっぱり!」

思わず立ち上がる。

「普通の図書館員なんですよ私は!」

「アルバイトだ」

カイルが訂正する。

「もっと悪いです!」

神代が吹き出した。

カイルも少し笑う。

だが。

笑いが収まった後。

三人とも理解していた。

もう引き返せない。

ここまで来てしまった。


---


夕方。

準備を終えた三人は図書館前に集まった。

神代は資料を持つ。

栞は地図とノートを持つ。

そしてカイルだけが妙だった。

荷物が異様に少ない。

小さな鞄だけ。

栞が尋ねる。

「それで足りるんですか?」

「足りる」

「本当に?」

「本当に」

即答だった。

神代が苦笑する。

「異世界の斥候ですからね」

「そういえばそうだった……」

今でも慣れない。

目の前の存在が本当に異世界人だということに。


---


そして。

駅へ向かう途中。

突然カイルが足を止めた。

「どうしたんです?」

栞が尋ねる。

答えはなかった。

代わりに。

カイルは周囲を見回す。

人の流れ。

建物。

道路。

駐車場。

そして。

ゆっくりと空を見上げる。

『空想具現』

静かに発動する。

世界が変わった。

人には見えない線が見える。

物流。

通信。

地下構造。

そして。

微かな歪み。

「……またか」

小さく呟く。

栞と神代が振り向く。

「何かあった?」

神代が聞く。

カイルは少し迷った後で答えた。

「追跡者だ」

空気が張り詰める。

「見えるんですか?」

栞が尋ねる。

「完全には」

カイルは目を細める。

「だが近付いている」

神代の顔から笑みが消える。

「昨日のやつでしょうか」

「可能性は高い」

栞は周囲を見回した。

しかし何も見えない。

普通の街だ。

普通の人たちが歩いている。

だが。

今はもう分かる。

普通に見えるだけだ。

世界は既に異常を始めている。


---


その夜。

三人は調査計画を最終確認した。

明朝出発。

目的地は座標地点。

山中の旧開発区域。

古代文明アルカディアの地球側施設である可能性あり。

そして。

カイルだけが宿へ戻った後も起きていた。

机へ向かう。

ノートを開く。

すると。

再び文字が浮かび上がる。

今度は今までとは違った。

一文だけではない。

長い文章だった。

【現地調査担当者確認】

【修復者認証進行】

【補佐官候補検出】

【知識継承者候補検出】

カイルの視線が止まる。

修復者。

これは自分だろう。

では。

補佐官候補とは誰だ。

知識継承者候補とは。

次の瞬間。

文字が変化した。

【補佐官候補 朝比奈栞】

【知識継承者候補 神代悠人】

カイルは沈黙する。

そして小さく息を吐いた。

「勝手に決めるな」

迷惑なシステムだと思った。

本当に。

だが。

少しだけ安心もしていた。

一人ではない。

この世界にも仲間ができた。

異世界へ飛ばされて以来。

初めてそう思えた。

そして翌朝。

三人は地球側物流施設の調査へ向かう。

そこで彼らは目撃する。

数百年眠り続けていた古代文明の設備と。

世界門を巡る争いが、既に始まっていたことを。

――第25話へ続く。

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