第9話:復讐の形と、最初の従者
月明かりの下、返り血に塗れた俺を見上げて、革鎧の少女はガチガチと震えていた。
だが、その瞳に浮かんでいるのは、純粋な『恐怖』だけではなかった。
「……名前は?」
「あ、セ、セリア……です。駆け出しパーティーで、斥候をやってました……」
「そうか。お前を見捨てた連中は、どうした?」
「私が囮になっている隙に、街の方へ逃げていきました。荷物も、全部あいつらが……」
セリアは俯き、悔しさと絶望に唇を噛み締めた。
その姿を見て、俺は鼻で嗤った。
「馬鹿だな。力がない奴は、そうやって強者に使い潰されるだけだ」
俺の冷たい言葉に、セリアはビクッと肩を揺らした。
だが、彼女は逃げ出さず、ふらつく足で立ち上がると、俺の前にその場に崩れ落ちるようにして両膝をついた。
「……助けていただき、本当にありがとうございました。あなたのあの一撃……狼たちを一瞬で屠るあの圧倒的なお姿から、目が離せませんでした」
「あ?」
「私には、帰る場所もありません。どうか……どうか、あなたに付き従うことをお許しください! 荷物持ちでも、毒見役でも、なんでもします! あなたの、絶対の忠誠を誓う配下にしてくだいッ!」
地面に額を擦りつけ、必死に懇願してくるセリア。
自分を見捨てた元仲間たちへの絶望と、俺の圧倒的な『暴力』への強烈な憧れ。どうやらこの小動物は、恐怖を通り越して俺の力に魅入られてしまったらしい。
(……毒見役、か)
その単語に、俺はかつての自分を思い出し、自嘲気味に息を吐いた。
少し前までの俺は、このセリアと同じだ。弱かったから勇者アルスに虐げられ、奈落に落とされた。
奈落でバケモノたちを喰らい尽くし、こうして地上へ戻ってきた今、俺の胸にあるのは『復讐』の二文字だ。
だが——ただ暗がりでアルスやマリアを背後から刺し殺して、それで終わりでいいのか?
いや、違う。
あいつらは『光の勇者』として、最強の称号と民衆からの名声を何よりの誇りにしている。
ただ殺すだけでは、あいつらは「悲劇の英雄」として死ぬだけだ。それはあまりにも生温い。
(俺が、真っ当な冒険者として表舞台に立ち……圧倒的な力で奴らの名声も、誇りも、全てを奪い尽くしてやる。自分たちがゴミ扱いしていた『毒見役』が、自分たちより遥かに上の存在になったとわからせて、這いつくばらせてやるんだ)
それこそが、一番残酷で、俺にふさわしい復讐だ。
そう結論を出した俺は、大剣を肩に担ぎ直し、足元にひれ伏すセリアを見下ろした。
「忠誠は口で言うほど安くないぞ、セリア。だが……ちょうどいい。俺もこれから『真っ当な冒険者』として活動しようと思っていたところだ」
「冒険者、ですか……?」
「あぁ。だが、見ての通り今の俺は無一文で、着ているものも魔物の皮だ。おまけにギルドの勝手もわからない」
「っ! な、なら私が案内します! 斥候としての裏道や、街のギルドのルールなら熟知しています!」
セリアがパッと顔を上げ、すがるような、しかし熱を帯びた瞳で俺を見た。
「いいだろう。なら、お前を俺のパーティーの『一人目』にしてやる。ただし、足手まといになれば容赦なく切り捨てる。ついてこれるか?」
「はいッ! クロウ様!」
こうして、魔物の皮を纏った異端のバケモノ(俺)と、彼に狂信的な忠誠を誓う斥候の少女による、いびつなパーティーが結成された。
目標は、勇者パーティーの頂点を超えること。
まずは金とまともな服を手に入れるため、俺たちは夜の森を抜け、冒険者が集う『迷宮都市』へと足を踏み出すのだった。




