第10話:迷宮都市のギルドと、規格外のステータス
迷宮都市の朝。
冒険者ギルドの重厚な扉を押し開けると、むせ返るような酒と汗、そして鉄の匂いが鼻を突いた。
早朝から依頼を求める荒くれ者たちで賑わっていたギルドの喧騒は、俺が足を踏み入れた瞬間にピタリと止んだ。
「……なんだあいつ。乞食か?」
「おい見ろよ、あのデカい剣……魔物の骨じゃねえか? 薄気味悪いぜ」
周囲から飛んでくるのは、嘲笑と侮蔑の視線。
それもそのはずだ。今の俺は奈落の底で狩った魔物の毛皮を雑に巻きつけただけの半裸で、返り血と泥にまみれている。隣を歩くセリアがオドオドと周囲を気にする一方で、俺は堂々と受付のカウンターへと歩み寄った。
「新規のギルド登録を頼みたい」
俺がそう告げると、カウンターの奥にいたベテランらしき女性受付嬢が、怪訝な顔でこちらを見た。
「登録は可能ですが……冒険者は実力主義です。あなたのような装備では、スライム相手でも命を落としますよ?」
「忠告はありがたいが、心配ない。早く手続きを進めてくれ」
俺の冷たい声に、受付嬢は小さくため息をつき、カウンターの上に水晶玉のような魔道具を置いた。
「……では、こちらの『測定水晶』に手を触れてください。あなたの基礎能力と所持スキルを読み取り、ギルドカードに刻印します」
俺は躊躇なく、血の乾いた右手を水晶に置いた。
勇者パーティーにいた頃の俺は戦闘職として登録すらさせてもらえなかったため、これが初めての測定だ。
(俺のスキルがどう判定されるか……)
淡い光を放ち始めた水晶を見つめる。
通常、新規登録者の水晶は白く微かに光る程度だとセリアから聞いていた。
しかし——。
バチィィィッ!!
「なっ……!?」
水晶は突如として、目を焼くような強烈な赤黒い光を放ち始めた。
ギルド内の冒険者たちが「なんだ!?」と慌てて立ち上がる。
水晶の表面に無数のヒビが入り、そこに浮かび上がった文字を見た受付嬢は、血の気を引かせて絶句した。
「こ、これは……っ! 筋力、敏捷、耐久……すべてにおいて、Aランク冒険者……いえ、一級の魔物に匹敵する数値!? そ、それに、このスキルの数は一体……ッ!?」
受付嬢の声が裏返る。
水晶から空中に投影されたのは、異常な長さのスキルの羅列だった。
【毒耐性(大)】【爬虫類の自己再生】【暗視(中)】【麻痺毒(微)】【外殻強化(極小)】【痛覚耐性(微)】【剣術(中)】【複数思考処理】【骨格強化(大)】——そして、最上部に君臨する【強奪】。
(……なるほど。奪ったスキルが全部そのまま表示されるのか)
「嘘だろ……なんだよそのスキルの数……!」
「自己再生に、複数思考処理だと!? どれか一つでも持ってりゃ一流のレアスキルだぞ!?」
「あいつ、一体何者なんだ……ッ」
先ほどまで俺を乞食扱いして嘲笑っていた冒険者たちの顔が、驚愕と、底知れない化け物を見るような恐怖へと染まっていく。
隣にいるセリアは「やはりクロウ様は凄いです……!」と、頬を紅潮させて恍惚とした表情を浮かべていた。
「あ、あの……あなた、本当に新規登録者なんですか……?」
「あぁ。問題あるか?」
俺が淡々と聞き返すと、受付嬢は慌てて首を横に振り、震える手で真新しいギルドカードを差し出してきた。
「い、いえ! 規定により、飛び級でCランクからのスタートとなります! ……クロウ様、冒険者ギルドへようこそ」
周囲の静まり返った視線を背に受けながら、俺はギルドカードを受け取った。
勇者アルス。俺をゴミだと見下していたお前は、今頃どこで何をしている?
俺の復讐の舞台は、今ここから幕を開ける。
「行くぞ、セリア。まずは服を買いに行く金稼ぎだ」
「はいッ! クロウ様!」




