第11話:放置されたBランク依頼と、一撃の蹂躙
冒険者ギルドの掲示板の前で、俺は一枚の羊皮紙を無造作に引き剥がした。
「クロウ様、それは……っ!」
隣でセリアが息を呑み、周囲の冒険者たちが一斉に青ざめる。
俺が手にしたのは、掲示板の最上段で長年埃を被っていた『Bランク魔物・鋼鎧の剛鬼の討伐』という依頼書だった。
「お、おいあんた! Cランク登録したばかりでBランクの討伐なんて自殺行為だぞ!」
「そいつは分厚い鋼の皮膚を持ってて、魔法も剣も通じねえんだ! これまで何組ものパーティーが全滅して——」
周囲の制止を無視し、俺は受付嬢のカウンターに依頼書を叩きつけた。
「これを受注する。場所は北の岩山で間違いないな?」
「えっ、あ、はい……ですが、本当に……?」
「セリア、行くぞ」
「は、はいッ!」
受付嬢の言葉を遮り、俺は魔物の毛皮を纏った半裸の姿のまま、セリアを引き連れてギルドを後にした。手っ取り早く服と宿を手に入れるには、この高額報酬の放置依頼が一番手っ取り早い。
◆ ◆ ◆
迷宮都市から北へ数キロ。荒涼とした岩山の中腹で、地響きのような咆哮が轟いた。
『ゴォオオオオオオオッ!!』
体長四メートルを超える巨漢。全身を鋼鉄のような赤黒い皮膚で覆われた剛鬼が、巨大な棍棒を振り回してこちらを威圧している。
「ク、クロウ様……あれが……」
「下がっていろ」
震えるセリアを背後に庇い、俺は奈落の主から奪った巨大な骨の大剣を片手で軽々と構えた。
『ギガァッ!』
剛鬼が大地を砕きながら、俺をペチャンコにしようと棍棒を振り下ろしてくる。
だが——遅い。あまりにも遅すぎる。
奈落の底で死闘を演じた骸骨剣士の絶望的な速度に比べれば、止まって見える。俺の【複数思考処理】は、すでに棍棒の軌道とその後の展開を完全に予測していた。
俺は一切回避せず、正面から【筋力強化】と【骨格強化】を全開にして大剣を振り抜いた。
——ドゴォォォォンッ!!
鋼鉄すら弾き返すはずの剛鬼の棍棒と右腕が、大剣との激突によって紙屑のように粉砕され、宙に舞う。
『——ガ、ァ……?』
自分の腕が消し飛んだことを理解できず、剛鬼が間抜けな顔で硬直した。
「終わりだ」
俺は一歩踏み込み、無防備になった剛鬼の首に向かって、返す刃をフルスイングで叩き込む。
ギィィンッ!という硬質な音と共に鋼の皮膚が裂け、巨大な首が空高く吹き飛んだ。
Bランク魔物、一撃での瞬殺。
「……嘘、でしょう……?」
背後でセリアがへたり込み、信じられないものを見る目で俺を見上げている。
俺は吹き飛んだ剛鬼の首の断面に噛みつき、血の味を確かめながらシステムの声を聴いた。
『——鋼鎧の剛鬼の捕食を確認。スキル【鋼皮(小)】を獲得しました』
「悪くない。これでようやく、まともな服が買えそうだな」
俺は剛鬼の巨大な牙を討伐部位として引き抜き、呆然とするセリアと共に迷宮都市へと踵を返した。




