第45話:覚醒の黒霧と、反逆の刃
「ナニ……? この、おぞましい気配ハ……」
マリアの醜い顔が、わずかに引き攣る。
クロウの全身から噴き出した漆黒の闇は、地下礼拝堂の空間を捻じ曲げるほどの重圧を放っていた。それは、これまでの『捕食』する黒霧とは違う。周囲の光も、音も、そして空間そのものを『削り取る(無に帰す)』ような、純粋な破壊の闇。
「オラァッ!!」
クロウが短く吠えると、彼の体を縛っていた【命の搾取器】の赤い拘束の鎖が、バリバリと音を立てて内側から千切れ飛んだ。
「ナ、バカナ!? ワタシの、神の拘束ヲ、力任せニ千切ッただト……!?」
「セリア、シルヴィア! 立て! 俺たちの本番はここからだ!」
クロウが右腕を振り抜く。
そこから放たれた黒霧の刃が、シルヴィアとセリアを縛っていた赤い鎖を、彼女たちの体を傷つけることなく正確に斬り裂いた。
「あ……クロウ様……!」
「クロウ……ええ、そうね。ここで倒れるなんて、私たちには似合わないわ!」
拘束から解き放たれた二人は、ボロボロの体を引きずりながらも、再び立ち上がった。
クロウの背中から放たれる圧倒的な闇の力が、二人の折れかけた心に火をつけたのだ。
「……フザケルナ! たかが拘束を解いたクライデ、調子ニ乗るナァッ!!」
マリアが激昂し、背中の六枚の翼から、先ほど二人を撃ち抜いた赤い光線の雨を無数に放つ。
回避不能の全方位攻撃。だが、クロウは一歩も引かず、両手に限界まで黒霧を纏わせた。
「全部喰らえ、【黒の暴風】!!」
クロウが両腕をクロスさせ、周囲の空間ごと捻り潰すように振り抜いた。
瞬間、クロウの前に発生した『漆黒の竜巻』が、マリアの放った赤い光線の雨を、文字通り全て吸い込み、空間ごと削り取って消滅させた。
「な、アァッ!? ワタシの光ガ……全て、掻き消サレタ……!?」
マリアが驚愕に見開いた目の前で、漆黒の竜巻を割ってクロウが跳躍する。
「よそ見してんじゃねぇぞ、化け物!!」
クロウの右ストレート——限界まで圧縮された黒霧と紫電を纏った鉄拳が、マリアの醜く肥大化した顔面にクリーンヒットする。
ドゴォォォォォォォォンッ!!
「ガッ、ゲバァッ!?」
マリアの巨体が弾け飛び、祭壇の巨大な女神像を粉砕しながら壁に激突した。
これまで完全に防がれていたクロウの物理攻撃が、覚醒した【黒霧】の重圧によって、ついにマリアの神の防壁を打ち破ったのだ。
「……やった! クロウ様の攻撃が通った!」
セリアが歓喜の声を上げる。
だが、崩れた瓦礫の中から、赤いオーラを立ち昇らせながらマリアがゆっくりと立ち上がった。
彼女の顔面は陥没していたが、【命の搾取器】による異常な再生力で、瞬く間に元通りに修復されていく。
「イタイ……痛イデスネェ……! ヨクモ、神デアルこのワタシの顔ヲ……!!」
マリアの六枚の翼が、怒りで赤黒く変色していく。
空間の魔力圧が跳ね上がり、地下礼拝堂が崩壊しそうに揺れ始めた。
「チッ、タフな野郎だ。だが、防壁が抜けるなら殺せる」
クロウが拳を握り直す。
「クロウ様、あの化け物の再生力は、胸に抱えた『水晶玉』から供給されています。あれを砕かない限り、何度でも蘇るはずです!」
セリアが冷静に分析し、叫んだ。
「なるほどね。……なら、私とセリアで『隙』を作るわ! クロウ、お前はあいつの胸をブチ抜きなさい!」
シルヴィアが、自身の折れた右足に強制的に『氷のギプス』を形成し、痛みを無視して魔杖を構える。
「……任せた。限界を超えてこい!」
クロウの号令と共に、血塗れの三人が、再びマリアへと死線を上げる。
今度こそ、化け物を解体するための『真の連携』が始まった。




