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復讐のスキル・イーター  作者: 鷲尾秋水
王都簒奪編

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第42話:偽神の誕生と、絶望の序曲

王城の内部は、異様なまでの静寂に包まれていた。

かつて豪華絢爛を誇った廊下や大広間には、逃げ惑った近衛兵やメイドたちの姿はない。ただ、床に続く一本の『赤い光の筋』が、城の地下へと向かって不気味に脈打っているだけだ。


「……嫌な魔力ね。空気が重すぎて、肌がピリピリするわ」


シルヴィアが魔杖を構えながら、周囲を警戒する。


「王都の民衆からの魔力供給はクロウ様が完全に断ち切りました。ですが……王城の内部にいた人間たちの命は、既に吸い尽くされた後のようです」


セリアが影から周囲を偵察し、冷酷な事実を告げる。

三人が大階段を下り、王族だけが立ち入りを許される地下の『王立礼拝堂』の重厚な扉を開け放った瞬間。

強烈な血の匂いと、常軌を逸した濃密な魔力が暴風となって三人を襲った。


「……これは、酷いな」


クロウが仮面の奥で目を細める。

広大な地下礼拝堂。その美しい大理石の床には、数え切れないほどの『干からびたミイラ』が転がっていた。

豪奢な服を着た腐敗貴族たち。そして、豪奢な王冠を被った国王すらも。彼らは皆、苦悶に顔を歪ませたまま、完全に生命力を吸い尽くされたただの肉の抜け殻と化していた。

そして、その死体の山の中心。

祭壇の上に浮かび上がり、赤い光を放つ水晶玉【命の搾取器】を胸に抱いている存在。


「アァ……アァァ……素晴らしい……。民衆の命は途絶えましたが……王族の濃密な血と、高位貴族たちの魔力……これだけでも、十分すぎるほどですワ」


それは、かつて『聖女マリア』と呼ばれた女だった。

だが、その姿はもはや人間ではない。

美しい白のローブは内側から膨張した筋肉と骨格によってズタズタに引き裂かれ、彼女の背中からは、血に濡れた『六枚の巨大な光の翼』が不気味に蠢きながら生え揃っていた。

手足は獣のように鋭い爪を持ち、顔の右半分は醜い魔物のように肥大化している。だが、左半分は聖女としての美しい微笑みを保ったままという、見る者の精神を削るようなアンバランスで冒涜的な姿。


「……勇者パーティーの回復役が、最終的にはこんな醜いバケモノに成り果てるとはな」


クロウが大剣を構え、黒霧を全身に纏わせる。

「醜イ? いいえ、これは『神』の姿です。数万の命と、王族の血肉を喰らい、次元の壁を超えた……完全なる【救済の天使】なのですカラ!」

マリア——いや、怪物と化した偽神が、背中の六枚の翼を大きく広げた。

その瞬間、地下礼拝堂の空間そのものが「ミシッ」と悲鳴を上げた。先ほどの超大型魔物など比較にならない、次元の違う魔力圧。シルヴィアが息を呑み、セリアですら本能的な死の予感に一歩後ずさりする。


「クロウ様、あの怪物は……今までの敵とは、何もかもが違います! 魔力の底が、全く見えません!」


「ああ、わかってる。だが、どんな神だろうが俺が喰い殺——」


クロウの言葉が終わるよりも早く。

マリアの姿が、かき消えた。


(……速ッ!?)


クロウの【気配察知】すらも一瞬置き去りにするほどの、圧倒的な神速。

次の瞬間、クロウの目の前にマリアが顕現し、光の魔力を纏った鋭い爪を振り下ろしてきた。


「オオォォォォッ!!」


クロウは即座に反応し、限界まで紫電を纏わせた大剣でその爪を下から跳ね上げようと迎撃する。

Sランク魔物を圧倒したクロウの規格外の筋力と、最高密度の魔力の激突。

これまでは、どんな敵であれクロウの一撃の前には紙屑のように粉砕されてきた。


ガギィィィィィィィィィィンッ!!!!


火花が散る。

だが、結果は三人の想像を絶するものだった。


「……なっ!?」


クロウの全力の大剣による一撃が。

マリアの振り下ろした『たった一本の指の爪』によって、完全に受け止められ、押し負けていたのだ。


「フフッ。遅イですネ、虫ケラ」


「チッ……!」


マリアの爪から放たれた強烈な衝撃波がクロウの体を打ち据え、彼は後方へ数十メートルも吹き飛ばされ、礼拝堂の太い石柱を三本へし折ってようやく止まった。


「クロウ様!!」


セリアが悲鳴のような声を上げる。


「よそ見をしている暇など、ありませんヨ?」


マリアが空中で振り返り、六枚の翼から数千もの『光の矢』を放つ。


「【氷晶の城壁】!!」


シルヴィアが即座に反応し、大魔導士の極大魔法すら防ぎ切った、彼女の最大防御魔法である絶対零度の氷壁を展開する。

だが。


「アハハハハハッ! モロい、脆スギますワ!」


光の矢が氷壁に触れた瞬間、絶対零度であるはずの氷壁が、まるで熱した鉄板に落ちた雪のように、一瞬にして蒸発し、消滅してしまったのだ。


「嘘……私の絶対零度が、魔法としての格で負けてる……!?」


驚愕するシルヴィアの肩を、かすめた光の矢が撃ち抜く。


「きゃあぁぁっ!」


鮮血を散らしてシルヴィアが膝をつく。


「シルヴィア様!」


セリアが【幻惑魔法】を展開し、数十体の分身を創り出してマリアに四方八方から襲いかかる。

だが、マリアが背中の翼を一度羽ばたかせただけで、礼拝堂全体を『浄化の光』が満たした。


「影など、神の光の前には存在できませんヨ」


光の波に飲まれ、セリアの分身たちが悲鳴を上げる間もなく全て蒸発させられる。隠密を破られ、無防備になったセリアの本体へと、マリアの強烈な蹴りが炸裂した。


「ガハッ……!?」


セリアの小さな体が宙を舞い、祭壇の壁に激突して崩れ落ちる。

開戦から、わずか数十秒。

これまで全ての敵を圧倒的な力で蹂躙してきた『仮面の三人組』が。

手も足も出ず、たった初撃の応酬だけで、全員が地面に這いつくばらされていた。


「アハハハハハハハッ!! 弱イ、弱い、弱イ!!」


礼拝堂の空中に浮かぶ化け物が、狂ったように笑い声を上げる。

数百年の歴史を持つ王国中枢の命を全て喰らい尽くし、禁忌の魔道具によって人ならざる者(バケモノ)へと昇華した『偽神マリア』。

絶望的なまでの戦力差。

本当の『死闘』が、ここに幕を開けたのだった。

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