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復讐のスキル・イーター  作者: 鷲尾秋水
王都簒奪編

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第41話:偽りの聖なる光と、真の王の黒き天蓋

「あ……あぁ……体が、熱い……!」


「息が、苦しい……助けて、勇者様、聖女様……っ!」


王都の正門前。勇者パーティーがたった三人の侵入者の前に完膚なきまでに敗北した直後、王都の空を禍々しい『赤い光』が覆い尽くした。

王城の最奥、地下礼拝堂に逃げ込んだ聖女マリアが起動した禁忌の魔道具【命の搾取器(ライフ・ドレイン・オーブ)】の力である。

その赤い光は、城壁の上から戦況を見守っていた数十万の民衆たちにも平等に降り注いだ。

光を浴びた者は、老若男女問わずその場に崩れ落ちる。彼らの体から、生命力と魔力が薄赤い靄(もや)となって空へと立ち昇り、王城の地下へと猛烈な勢いで吸い込まれていく。


「お母さん! お母さん、目を開けて! いやぁぁぁっ!」


「誰か……誰か助けてくれ! 我々が何をしたというのだ!」


阿鼻叫喚の地獄。

先ほどまで、勇者の凱旋を熱狂的に信じ、正義が勝つと信じて疑わなかった王都の民衆たちは、自分たちが崇拝していた『聖女』の手によって、文字通り生贄として命を搾取されようとしていた。


「おい、勇者……! 勇者アレク様! 立ち上がってくれ! あんたは、俺たちを守ってくれる存在じゃないのか!?」


倒れ伏す一人の男が、城壁の近くで血反吐を吐いて倒れている勇者アレクに向かって叫んだ。

しかし、全身の骨を砕かれ、黄金の聖剣すら失った勇者は、ただ虚ろな目で宙を見つめているだけだ。彼にはもう、誰かを救う力も、立ち上がる気力すらも残されていない。


「嘘だ……俺たちは、あんな偽物に命を預けていたのか……?」


絶望が、数十万の民衆の心を黒く塗り潰していく。

その地獄絵図の中。

ただ一人、悠然と平野に立つ漆黒の大男——クロウが、仮面の奥で小さく舌打ちをした。


「……気に食わねぇな」


クロウは背負っていた大剣を地面に突き立てると、大きく両手を広げた。


「あの狂った女狐。俺の獲物(王都)を、勝手に食い荒らすんじゃねぇ」


クロウの全身から、先ほど数万の不死の軍団を飲み込んだ時とは比べ物にならないほどの、桁違いの【黒霧】が爆発的に噴出した。

ドゴォォォォォォォンッ!!

という、大気が震えるほどの轟音と共に噴き上がった漆黒の闇は、猛烈な勢いで上空へと広がり、瞬く間に王都全体を覆い尽くす『巨大な黒の天蓋』へと変貌したのだ。


「クロウ様! これは……!」


セリアが驚愕の声を上げる。クロウの放つ黒霧が、王都の空を覆っていたマリアの『赤い光』を、下から覆い隠すように遮断したのだ。


「……命を吸い上げる魔法ごと、俺の闇で『捕食』する」


クロウの黒霧は、物理的な攻撃だけではなく、魔法や呪いすらも喰らう。

王城の地下から放たれる赤い搾取の光は、空を覆う巨大な黒霧の天蓋に触れた瞬間、ジュウゥゥゥッという音を立てて無効化され、喰い尽くされていった。


「あ……」


「体が、軽くなった……? 赤い光が、消えた……?」


苦しみもがいていた民衆たちが、次々と顔を上げる。

彼らの目に映ったのは、太陽の光すら遮断するほどの恐ろしくも雄大な黒い霧のドーム。そして、その巨大な魔法を展開し、自分たちを『聖女の搾取』から守ってくれている、一人の【黒の仮面】を被った男の背中だった。


「あの賊が……我々を、助けてくれたのか……?」


誰かがぽつりと呟いた。


「見ろ! 勇者は我々を見捨て、聖女は我々を殺そうとした! だが……あの仮面のお方は、身を挺して我々を救ってくださったぞ!!」


「正義の勇者など初めからいなかった! あのお方こそが、我々を救う真の王だ!」


民衆の間に、爆発的な感情の波が伝播していく。

恐怖と絶望は、絶対的な力で自分たちを救った存在に対する『狂信的な歓喜』へと変わった。


「「「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉっ!!」」」


数十万の民衆による、地鳴りのような大歓声。

それは勇者に向けられたものなど足元にも及ばない、本物の熱狂だった。


「……フッ。まるで私たちが、世界を救う本物の英雄みたいじゃない」


シルヴィアが、空を覆う黒霧を見上げながら魔女の笑みを浮かべる。


「クロウ様こそが、この世界の真の支配者に相応しい。民草もようやくその真実に気づいたようですね」


セリアもまた、誇らしげに胸を張った。

民衆の絶叫にも似た歓声を背に受けながら、クロウはゆっくりと王城の巨大な正門へと歩みを進める。


「俺はただ、俺のものを横取りされそうになったから邪魔しただけだ。……だが、これで外の邪魔者は消えた」


クロウが右腕に限界まで魔力を圧縮し、王城の正門である高さ十メートルの鋼鉄の扉を、ただの裏拳で殴りつけた。

ズガァァァァァァァァァァンッ!!!!

王城を物理的に守る最後の要であった巨大な扉が、まるで紙細工のように吹き飛び、内部の大広間へと一直線に突き抜けていく。


「さあ、ラスボスのお出ましだ。あの狂った女狐に、誰が本当のバケモノか教えてやる」


民衆の熱狂を背に、仮面の簒奪者たちは、王城の最奥——死の匂いが立ち込める地下礼拝堂へと、迷うことなく足を踏み入れた。

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