第40話:王城への進軍と、胎動する狂気
「……勝負あったわね」
シルヴィアが、魔杖を下ろしながら静かに言った。
「ええ。所詮は、温室で育てられた偽物の英雄。クロウ様の敵ではありません」
セリアもまた、双剣を鞘に納める。
クロウは、倒れ伏す勇者や大魔導士を一瞥することなく、王都の巨大な城門——その奥にある王城へと視線を向けた。
戦意を喪失した五万の軍勢は、三人が歩き出すと、モーゼの十戒のようにサァッと道を開けた。誰も、彼らに武器を向ける勇気など残っていなかったのだ。
「さて……表のゴミ掃除は終わった。ここからは、王城での『お片付け』の時間だ」
クロウたちが、堂々と王城の門を破り、内部へと足を踏み入れる。
彼らの頭上では、かつて自分たちを虐げていた王族や貴族たちが、恐怖に震えながら逃げ惑う足音が響いていた。
◆ ◆ ◆
その頃。
王城の最奥、地下に隠された『王立礼拝堂』。
「聖女マリア殿! 外の軍勢が、勇者パーティーが壊滅したというのは真実か!?」
「どうするのだ! このままでは我々は皆殺しにされるぞ!」
国王と、まるまる太った腐敗貴族たちが、逃げ込んできたマリアを取り囲んで喚き散らしていた。彼らの顔は恐怖で青ざめ、見苦しいほどに狼狽している。
「静かにしなさい、愚鈍な豚ども」
マリアが冷酷な声で言い放つと、貴族たちは一瞬ひるんだ。
「大丈夫です。教会が長年隠し持っていた、この【命の搾取器】さえ使えば……」
マリアは懐から、禍々しい赤い光を脈打つように放つ水晶玉を取り出した。
「聖女殿、それは一体……?」
「この国を守るための、尊き『儀式』の道具です。……外の五万の兵士たちはもちろん、この王都に住む数十万の民衆、そして……あなた方、貴族の命も全て」
マリアの目が、狂気と絶望で完全に濁りきっていた。
「わたくしの『魔力』として捧げていただきます。あの怪物どもを殺すには、これだけの命を集めて『神』を顕現させるしかありませんからね」
「な、何を言っている!? 我々の命を……!?」
国王が後ずさりする。
「ええ。あなた方は、最後までこの『聖女』のための役に立つ舞台装置なのです。光栄に思いなさい」
マリアが高らかに笑い声を上げた瞬間、水晶玉から不吉な赤い光が、王城の地下深くから溢れ出し始めた。
それは、これから始まる『真の地獄(ラスボスとの死闘)』を告げる、破滅の胎動だった。




