第39話:砕け散る黄金、勇者の敗北
「う、あ……あぁぁ……」
勇者アレクは、氷像となった大魔導士を見て、完全に腰を抜かしかけていた。
絶対の盾であった重騎士は発狂し、回復役の聖女マリアは逃亡。そして最大の火力を誇っていた大魔導士は氷漬け。
世界最強のはずのパーティーは、完全に崩壊していた。残されたのは、彼一人。
「……さて。邪魔な取り巻きは消えたな」
クロウが、大剣を肩に担ぎながらゆっくりと勇者へと歩み寄る。
「ヒッ……く、くるな! くるなぁっ!!」
勇者はパニックに陥りながらも、腰に差していた国宝『聖剣』を引き抜いた。
その瞬間、聖剣から眩い黄金の光が溢れ出し、彼の全身を包み込む。神聖なる力。魔物を浄化し、闇を切り裂くとされる伝説の力だ。
勇者はその光にすがりつくように、黄金のオーラを限界まで高めた。
「俺は勇者だ! 神に選ばれた、特別な存在なんだ! お前のような、顔も隠した卑怯な賊に負けるはずがないんだァァァッ!!」
怒りと恐怖で顔を歪ませ、勇者は大地を蹴ってクロウへと一直線に突進した。
「死ねェェェェェェェェッ!!」
全身全霊。命を削り、全てを込めた勇者アレクの渾身の一撃。
聖剣の軌跡が空間を切り裂き、クロウの首元へと迫る。王都の民衆たちも、祈るようにその光の軌跡を見つめた。
だが——。
ガシッ。
「……え?」
勇者の動きが、完全に停止した。
彼の渾身の力が込められた聖剣の刃を、クロウが『素手』——【黒霧】を極限まで圧縮して纏わせた左手だけで、正面からガッチリと受け止めていたのだ。
刃はクロウの手の平に数ミリ食い込んでいるだけで、完全に止められている。
「……これが、お前の全力か?」
クロウの重圧を含んだ低い声が、勇者の耳元で囁かれる。
「う、嘘だろ……聖剣の、全力の一撃だぞ……!? なぜ、お前は無傷で……!」
「黄金の光は眩しいが、ただそれだけだ。中身が空っぽだ。……俺が嘆きの谷で喰らったSランクの鳥の方が、まだ少しは歯応えがあったぞ」
ギリ、ギリギリィッ……!
クロウが左手に力を込める。
神の加護を受けているはずの国宝『聖剣』の刀身に、ヒビが入り始めた。
「や、やめろ! それは俺の剣だ! 俺が勇者である証明なんだ!」
「お前が勇者だという証明は、この程度のナマクラか。笑わせるな」
パァンッ!!!
乾いた破裂音と共に、黄金の聖剣が粉々に砕け散った。
「あ……ああ……?」
勇者が呆然と、手に残った剣の柄を見つめる。
「偽物の英雄ごっこは、これで終わりだ」
クロウは、右手に持っていた大剣の『腹(平らな部分)』で、勇者の胴体を思い切り薙ぎ払った。
「ゴハァッ!?」
刃を使わずとも、クロウの規格外の筋力による一撃だ。
勇者の纏っていた黄金の鎧が紙のようにひしゃげ、彼の体は数十メートルも後方へと吹き飛ばされ、王都の城壁に激突してようやく停止した。全身の骨が砕け、口から血を吐き出しながら地面に崩れ落ちる。
城壁の上で、全てを見届けていた王都の民衆たちは、完全な沈黙に包まれていた。
彼らの希望であり、世界を救うと信じて疑わなかった勇者パーティーが、たった三人の侵入者の前に、何一つ抵抗できずに完膚なきまでに叩き潰されたのだ。




