第38話:魔女の冷笑と、大魔導士の末路
重騎士の絶叫が戦場に響き渡る中、五万の王国軍は完全に統率を失っていた。
セリアの分身による攪乱と、防御の要であった重騎士の精神崩壊。たった三人の侵入者を前に、世界最強と謳われた勇者パーティーの威信は、わずか数分で泥まみれにされていた。
「嘘だ……俺の、俺たちのパーティーが……! こんな奴らに……!」
黄金の鎧を纏った勇者アレクが、剣を持つ手をガタガタと震わせている。
その横で、白のローブを着た聖女マリアは、美しい顔を醜く歪ませて王城の門を振り返った。
「……こんなところで死ぬわけにはいきません。勇者様、私は王城の最奥へ戻り、教会に伝わる『奥の手(禁忌の魔道具)』の準備に入ります。それまで、何としても彼らを食い止めてください!」
「ま、待てマリア! 俺たちを置いて行く気か!?」
勇者の制止も聞かず、マリアは数名の近衛兵を連れて、足早に戦場から王城内部へと逃亡していった。
「チッ、女狐め、逃げおったか。……だが、案ずることはない勇者殿! この国最高の魔法使いである私が、あの下劣な賊どもをまとめて灰にしてくれよう!」
マリアと入れ替わるように前に出たのは、派手なローブを纏った『大魔導士』だった。
彼はかつて、シルヴィアの才能に嫉妬し、彼女を王宮から追放した元凶の一人である。
「おお、シルヴィアよ! まさか生きておったとはな。だが、お前のような未熟な小娘の氷魔法など、私の究極の炎の前に溶け去る運命なのだよ!」
大魔導士は杖を天に掲げた。
「見よ! これが国最高の魔力! 【極大殲滅魔法】!!」
彼の手から放たれたのは、太陽のように燃え盛る巨大な火球だった。周囲の空気が一瞬で乾燥し、王都の城壁すらも溶かしそうなほどの熱量が、シルヴィアへと迫る。
王国兵士たちが「おおっ、大魔導士様!」と歓声を上げた。
だが、シルヴィアは一歩も動かない。
彼女は氷のように冷たい、見下すような視線を大魔導士に向けた。
「……相変わらず、無駄ばかり多くて見掛け倒しの魔法ね。お爺様」
「な、なにっ?」
シルヴィアが『絶対零度の魔杖』を軽く振る。
ただそれだけで、極低温の風が吹き荒れた。
パキィィィィィンッ!!
巨大な火球が、シルヴィアに届く数十メートル手前で
『炎の形のまま完全に凍結』し、そのままガラスのようにパリーンと砕け散ったのだ。
炎が凍るという常識外れの光景に、戦場は水を打ったように静まり返る。
「な、ばか、な……! 私の究極魔法が、凍った、だと……!?」
「私が王宮にいた頃は、もう少しマシな魔法を使っていたわよ? 才能が枯れたのね」
「貴様ァァァッ!!」
激昂した大魔導士が連続で雷撃や風刃を放つが、その全てがシルヴィアの周囲数メートルで凍りつき、地面に落ちる。魔力の格、魔法の練度、全てにおいて次元が違いすぎた。
「……もう終わり? なら、真の魔法というものを教えてあげるわ」
シルヴィアが杖の石突きを地面にコンッと鳴らす。
瞬間、大魔導士の足元から巨大な氷の結晶が瞬時にせり上がり、彼の両足、胴体、腕を次々と飲み込んでいく。
「ひぃっ!? や、やめろ、私が死ねばこの国の魔法技術は……!」
「腐敗した技術など不要よ。永遠にそこで、自分の愚かさを反省しなさい」
完全に氷漬けにされ、絶望の表情で固まった大魔導士の『氷像』が出来上がった。
勇者パーティーの攻撃の要が、シルヴィア一人によって、文字通り一瞬で粉砕された瞬間だった。




