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復讐のスキル・イーター  作者: 鷲尾秋水
王都簒奪編

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第30話:魔女の断頭台と、Sランクの捕食

氷槍に貫かれ、大地に縫い付けられたSランク魔鳥『ブリザード・ロック』。

だが、天空の暴君はまだ死を認めていなかった。


『ピギィィィィッ!! ゴアァァァァッ!!』


残った左翼を狂ったように羽ばたかせ、周囲に無差別の吹雪と無数の氷の刃を撒き散らす。それは手負いの獣の最後の足掻きであり、触れれば骨まで凍りつく致死の嵐だった。


「まだ暴れる力が残っているとはな。さすがはSランクだ」


俺はセリアを背後に庇い、飛来する巨大な氷の破片を【紫電】を纏った大剣で次々と弾き落とす。


「ええ。でも、もう飛べない鳥なら……ただの的よ」


シルヴィアが一歩、猛吹雪の中へ進み出た。

彼女の眼差しには、かつての王女としての気品や、生命への慈悲は欠片も残っていない。あるのはただ、強者を冷酷に見下ろす『魔女』としての絶対的な氷の意思。

彼女は深く息を吸い込み、魔鳥の頭上、はるか上空の空間へ向けて両手をかざした。


「国を守る盾ではなく、敵を惨殺する刃。……今の私には、これが一番しっくりくるわ」


凄まじい魔力の渦が、シルヴィアの頭上で急速に収束していく。

空気中の水分が一瞬にして凍結し、形成されたのは——見上げるほどに巨大な『氷の刃』。それは分厚い刃を二本の氷の柱で支えた、処刑場にそびえる『断頭台』そのものだった。


『ガァ……!?』


魔鳥が頭上の異常な魔力に気づき、本能的な死の恐怖に怯えた声を上げる。


「さようなら、遺跡の番人。……【氷の断頭台(クリスタル・ジャッジ)】」


シルヴィアが、無慈悲に腕を振り下ろした。

ギギィィィンッ! という金属が擦れるような甲高い音と共に、重力と魔力によって極限まで加速された巨大な氷の刃が、魔鳥の首筋へ向けて真っ直ぐに落下する。


ズバァァァァァァァァンッ!!!!


分厚い氷の鎧も、Sランクの強靭な肉体も、その圧倒的な質量と切れ味の前には紙切れ同然だった。魔女の『裁き(ジャッジ)』は、絶対だ。

魔鳥の巨大な首が切断され、血の代わりに極低温の冷気が爆発的に吹き上がる。胴体は切り口から瞬時に凍りつき、パキパキと音を立てて崩れ落ちた。


「ふぅ……」


断頭台を霧散させたシルヴィアが、荒い息を吐きながら振り返る。


「完全なオーバーキルだな」


「すごい……Sランクの魔物を、たった一撃で……」


俺は感嘆の声を漏らすセリアの肩を叩き、崩れゆく魔鳥の亡骸——その胴体の中心で、淡い青光を放つ巨大な『魔石』へと歩み寄った。


「さて……ここからは俺の『食事』の時間だ」


俺は魔鳥の巨体に手を突っ込み、人間の頭ほどもある巨大な氷の魔石を引きずり出した。触れているだけで皮膚が凍傷を起こすほどの絶対零度。Sランクの魔力の結晶だ。

それを、俺は躊躇うことなく頭上へ掲げ、大きく口を開けて『噛み砕いた』。


バキィィィィッ!!


「ッ……! グ、ァァァァァァッ!!」


魔石を飲み込んだ瞬間、俺の体内を未曾有の吹雪が暴れ回った。

血管が凍りつき、心臓の鼓動が急激に低下していく。Sランクの魔力が、俺という器を内側から破壊しようと反発しているのだ。


「クロウ!?」


「クロウ様!!」


駆け寄ろうとする二人を、俺は手で制した。


「来る、な……ッ! コイツは、俺自身で……ねじ伏せる……!!」


俺は【複数思考処理】で体内の魔力回路を極限までコントロールし、同時に【黒霧魔法】の全魔力を体内へと逆流させた。

内臓を凍らせるSランクの冷気を、それを上回る漆黒の闇で強引に包み込み、俺自身の『底なしの闘争心』と『精神力』だけで無理やり消化していく。


「俺の闇は、勇者の絶望すら喰い尽くす……! 凍りついた氷鳥の魔力ごときが、俺の胃袋の中で暴れるなァァァッ!!」


数分にも及ぶ、内なる死闘。

やがて俺の体から噴き出していた冷気が完全に収まり、漆黒の【黒霧】と混ざり合って静かに霧散した。


『——ブリザード・ロックの捕食を確認。』

『——対象のスキル【極寒の暴風(ブラスト・ブリザード)】、及び【氷結耐性(極)】を獲得しました』


「……ふぅ。少してこずったが、最高の極上の味がしたぞ」


口元の血と霜を拭い、俺は仮面の奥で獰猛に笑った。

その常軌を逸した『悪食』の光景を目の当たりにしたシルヴィアは、恐怖するどころか、強大な闇を従える俺の姿に熱を帯びた視線を向けていた。


「さぁ、お前の『報酬』を受け取りに行こう」


俺たちは魔鳥の亡骸を越え、古代遺跡の巨大な石門を押し開けた。

中は冷気に満ちた広大な神殿になっており、最奥の祭壇には、透き通るような氷の結晶で出来た一本の杖が鎮座していた。

『絶対零度の魔杖』。


シルヴィアが祭壇に近づき、その杖の柄を握りしめた瞬間。


カァァァァァッ!!


杖から凄まじい冷気の波動が放たれ、シルヴィアの魔力と共鳴する。

彼女を包む青いオーラは、先ほどまでの激戦の疲労を完全に吹き飛ばし、彼女の魔力上限をさらに一段階引き上げていくのが目に見えて分かった。


「すごいわ……これまでの魔力の流れがまるで違う。これなら、いくらでも力を引き出せる……!」


杖を構え、誇らしげに微笑む真の『氷の魔女』。

これでシルヴィアは、俺たちのパーティーの最大火力として完璧な状態に仕上がった。

俺は仮面越しに満足げに頷き、そして、今まで常に一歩下がって俺たちをサポートしてくれていたセリアへと振り返った。


「シルヴィアの武器探しはこれで終わりだ。……次は、セリア。お前の番だ」


「え……私、ですか?」


驚いて目を丸くするセリアに、俺は肩をすくめてみせた。


「今のままでも十分優秀だが、お前の暗殺術をさらに引き上げる『最高の武器』が必要だ。……何せ、俺たちはこれから世界を敵に回すんだからな。妥協はしないぞ」


「クロウ様……!」


セリアの瞳が潤み、シルヴィアも「ええ、私たちで最高の武器を見つけに行きましょう」と優しく微笑む。

勇者への復讐は、まだ先だ。

奴らを最も残酷な形で絶望させるため、俺たち『仮面の三人組』は、さらなる力を求めて新たな地へと足を踏み出すのだった。

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