第29話:氷空の墜落。三位一体の反撃
氷の鎖で足を絡め取られ、地面に叩きつけられた『ブリザード・ロック』。
だが、Sランク魔鳥の巨体はすぐさま強引に鎖を引きちぎり、再び猛吹雪の空へと舞い上がった。
『ピィィィィィィィィッ!!』
怒りに満ちた絶叫。上空を旋回する魔鳥の周囲に、先ほどとは比べ物にならない密度の冷気が収束していく。次に放たれるのは、間違いなく一撃必殺の広範囲殲滅ブレスだ。
「上空に逃げられたら、私の魔法でも届くまでに威力が落ちるわ……!」
シルヴィアが悔しげに唇を噛む。
「なら、叩き落とせばいい」
俺は大剣を構え直し、仮面の奥で視線を鋭くした。
「セリア。奴の『目』を奪え」
「御意」
俺の短い指示に、セリアが即座に動く。
彼女は自身の【隠密】を解き、あえて魔鳥の視界に入るように瓦礫の上へ跳び上がった。そして、両手に集めた魔力を上空のブリザード・ロックへ向けて一気に解放する。
「【幻惑魔法】——『千の鏡』」
魔鳥と目が合った瞬間、セリアの瞳が妖しく輝く。
『——ッ!?』
ブリザード・ロックの動きが空中で不自然にブレた。幻惑にかけられた魔鳥の目には今、眼下のあちこちに
「無数のクロウたち」が分身して見えているはずだ。狙いを絞れず、ブレスのチャージが僅かに淀む。
「上出来だ」
俺は【複数思考処理】で空中の魔鳥への最適ルートを瞬時に計算。
両脚に【敏捷強化】と【筋力強化】、さらに手に入れたばかりの【狂戦士化(小)】を僅かに乗せ、大地の岩盤が砕けるほどの力で上空へ向けて大跳躍した。
「ッ……オォォォォッ!!」
凄まじい風圧を切り裂きながら、一直線に魔鳥の懐へ飛び込む。
幻惑で混乱していたブリザード・ロックが俺の急接近に気づいた時には、既に骨の大剣は【紫電】の雷光を限界まで纏い、極限まで振り被られていた。
雷鳴が轟く。
『ガァァァァァァァァッ!?』
紫電の刃が、魔鳥の巨大な右翼の付け根を深々と斬り裂いた。
硬質な氷の鎧ごと肉を断たれ、鮮血と氷の破片が空中に舞い散る。空力を完全に失った巨体が、バランスを崩して錐揉み状態になりながら落下を始めた。
「シルヴィア!! 今だ!!」
空中で俺が叫ぶ。
「逃がさない……ッ!!」
地上で待ち構えていたシルヴィアの周囲には、既に彼女の全魔力を注ぎ込んだ『極大の魔法』が完成していた。
彼女の頭上に展開されたのは、一本一本が大木ほどの太さを持つ、数十本もの超高密度の『氷の長槍』。
王女としてのリミッターを完全に外し、魔女として覚醒した彼女の、純粋な殺意の結晶だ。
「穿て——【氷槍豪雨】!!」
シルヴィアが両腕を振り下ろす。
重力に逆らい、地上から上空へ向かって、無数の巨大な氷槍が逆流する雨のように打ち出された。
『ピギィィィィィィィィッ!!!』
落下してくる魔鳥の腹部や残った左翼に、次々と氷の長槍が突き刺さる。
悲鳴を上げる間もなく、Sランクの巨体は無数の氷槍の推進力に押し負け、そのまま古代遺跡の入り口にある巨大な石の広場へと、隕石のような勢いで激突した。
ズドドォォォォォォォォンッ!!!
谷全体を揺るがす大音響と共に、魔鳥の巨体が氷漬けの地面を深く抉る。
俺は無事に地上へ着地し、黒霧を纏って衝撃波を相殺した。
土煙と吹雪が晴れた後。
そこには、シルヴィアの氷槍に全身を貫かれ、地に縫い付けられてもがく『天空の暴君』の惨めな姿があった。
「やった……! 落としたわ!」
シルヴィアが荒い息を吐きながら、確かな手応えに拳を握りしめた。




