第28話:天空の暴君と、防戦の氷壁
深い霧と絶対零度の冷気が支配する『嘆きの谷』の最奥。
俺たちの目の前にそびえ立つのは、かつて大魔導士が遺したとされる『古代遺跡』の巨大な石門だった。だが、その入り口を塞ぐように、禍々しい気配を放つ影が舞い降りる。
『ピイィィィィィィィィィッ!!!』
耳をつんざくような鋭い絶叫と共に、周囲の空気が一瞬で凍りついた。
現れたのは、全身が鋭利な氷の結晶で覆われた巨大な怪鳥——Sランク魔物『ブリザード・ロック』。翼を広げれば十数メートルにも及び、その存在自体が猛吹雪を巻き起こす『天空の暴君』だった。
「……っ! あれが、遺跡の番人……!」
シルヴィアが息を呑み、反射的に両手を構えて一歩前に出る。
「油断するな。格上のSランクだ。並大抵の攻撃では傷一つ付かんぞ」
俺は骨の大剣を抜き放ち、紫電を纏わせた。
『——ゴアァァァッ!!』
ブリザード・ロックが怒号と共に巨大な翼を大きく羽ばたかせた。
瞬間、谷全体が激震し、周囲の気温が目に見えて急降下する。魔鳥が放ったのは、全てを凍てつかせる致死性の吹雪——【極寒の暴風】だった。
「来るわ……!」
シルヴィアが前へ飛び出し、両手から全魔力を絞り出して巨大な氷の防壁を展開する。
だが、Sランクの放つ圧倒的な魔力の奔流は、シルヴィアの展開した防壁を凄まじい勢いで削り取っていく。
「っ……! 魔力が……押し返される……!」
防壁にヒビが入る。冷気が防壁の隙間をすり抜け、シルヴィアのドレスや髪を凍りつかせていく。このままでは彼女ごとパーティー全体が飲み込まれ、氷像に変えられてしまう。
「任せろ」
俺は一歩踏み出し、シルヴィアの前に立った。
【筋力強化】と【黒霧魔法】を限界まで展開し、正面から吹き荒れる吹雪の奔流を霧の盾で受け止める。凄まじい風圧が全身の骨を軋ませるが、一歩たりとも引く気はない。
「クロウ様、左側から気配が……!」
背後からセリアの鋭い声が飛ぶ。
吹雪に紛れ、ブリザード・ロックが巨体を弾丸のように突撃させ、鋭い氷の爪で俺たちの側面に襲いかかってきたのだ。空中の機動力を活かした、死角からの猛攻。
「させない!」
セリアが跳び出し、懐から取り出した無数の特製投擲ナイフに魔力を込めて魔鳥の目元へ放つ。
しかし、魔鳥を包む硬質な氷の鎧がナイフを弾き飛ばす。致命傷にはならないが、その僅かな軌道修正と弾く音の隙が生まれた。
「シルヴィア、今だ! 奴の動きを一度止めろ!」
俺の叫びに、シルヴィアの瞳に強い光が宿る。
「——任せて!」
彼女は押し込まれていた防壁を一気に解除し、その反動を利用して魔鳥の足元へ向けて無数の氷の鎖を放った。
突撃の勢いに乗っていたブリザード・ロックの片足が氷の鎖に絡め取られ、巨体がバランスを崩して地面に激しく叩きつけられる。
『ガァァッ!?』
砂煙と氷の破片が舞い散る中、俺たちは辛うじて最初の猛攻を凌ぎきった。
荒い息を吐きながらも、シルヴィアはしっかりと前を見据えている。
「ふぅ……防ぐだけじゃダメね。あの図体、今度は私から仕掛けてやるわ!」
Sランクの圧倒的な壁を前に、3人の連携による反撃の歯車が、いま噛み合い始めた。




