第24話:茶番の裁判と、氷姫の堕ちる日
王家の威信をかけた裁判は、あまりにも滑稽で、おぞましい茶番劇だった。
王城の深部にある『裁きの間』。
その高い天井の梁の上に【隠密】で潜伏し、俺とセリアは眼下で繰り広げられる地獄を見下ろしていた。
「父様! 目を覚ましてください! バルド侯爵は人身売買を行い、防衛費を横領していたのです! 勇者アルスもその資金を受け取り、私腹を肥やしていました!」
後ろ手に縛られ、床に膝をつかされたシルヴィアが、血を吐くような悲痛な声で玉座の国王に訴えかける。
「……黙りなさい、シルヴィア。お前が賊と結託し、国を乗っ取ろうとしていた証拠は既に挙がっているのだぞ」
「違います! 彼らは私を助けて……!」
「哀れなことだ。王女殿下は、あの仮面の賊に精神を操られているのですな」
大げさに頭を振って嘆いてみせたのは、勇者アルスだった。その隣では、バルド侯爵がいやらしい笑みを浮かべている。
「国王陛下。王女殿下が仰る『裏帳簿』なるものは、私の屋敷を調べても一枚たりとも出てきませんでした。そもそも、そのようなものは存在しないのです。全ては、王女殿下が私や勇者様を陥れるためにでっち上げた妄言」
「なっ……! 白々しい! 帳簿は間違いなく地下金庫に——」
「おお、怖い怖い。あの夜、殿下は賊を引き入れて私の金庫を破壊し、私財を根こそぎ奪い去った。その上、私にまで濡れ衣を着せようとは!」
バルド侯爵がわざとらしく怯えたふりをする。
裏帳簿は俺の【収納袋】の中にあるため、彼らの屋敷をいくら捜索したところで出るはずがない。侯爵たちは「証拠がない」ことを逆手に取り、シルヴィアの告発を『賊に操られた王女の狂言』として完全に握り潰したのだ。
「勇者アルス殿……我が娘が、国を救ってくれた英雄である貴殿に剣を向けるとは……。王として、顔向けできない」
「どうかお気になさらず、陛下。我々はいつまでも、この国の剣であり盾です。……ただ、反逆者には相応の罰を与えねば、国の示しがつきませんぞ」
アルスが、玉座の国王へ冷酷な視線で圧をかける。
勇者の力と名声に完全に依存しきっている国王は、アルスの言葉に抗うことなどできなかった。
「……第一王女シルヴィア。お前を王族の籍から除名し、魔力を封じた上で、北の果て『極寒の凍土』への永久追放とする。……連れて行け!」
「父様……! お願いです、父様ぁっ!!」
シルヴィアの絶叫が裁きの間に響き渡るが、国王は目を背け、二度と彼女を見ることはなかった。
近衛兵たちがシルヴィアを取り囲み、彼女の両腕に重々しい『魔力封じの枷』をはめ込む。
魔法を奪われ、家族に捨てられ、国を想う心すらも汚泥で塗り潰された。
玉座の間に引きずられていくシルヴィアの瞳から、光が完全に失われる。彼女の心は、彼女自身の氷魔法よりも冷たく、暗い絶望の底へと沈み込んでいった。
「……見事なまでに、心が折れましたね」
「あぁ。これで彼女の『国への未練』は完全に断たれた。最高の仕上がりだ」
天井の梁の上で、俺は仮面の奥で暗い笑みをこぼした。
自分の正義を否定され、全てを失った孤独な王女。彼女がすがる場所はもう、この世のどこにも残されていない。俺たちの『闇』を除いて。
「行くぞ、セリア。俺たちの新しい仲間を迎えにいく」




