第20話:玉座の前の証明。勇者から『王』を奪う漆黒
王家からの招待状がギルド経由で俺たちの元へ届いたのは、地下迷宮から帰還した翌日のことだった。
「雷竜討伐の功績を称え、王城へ招きたい、か。……ずいぶんと仕事が早いな」
「いかがなさいますか、クロウ様。罠という可能性も……」
「いや、行くぞ。王家という国の『頂点』が俺たちをどう評価するか、見極めるいい機会だ。それに、王族とパイプを持てば、勇者どもへの嫌がらせの幅も広がる」
俺とセリアは漆黒のコートとマント、そしてお揃いの仮面を身につけ、堂々と王城の門をくぐった。
◆ ◆ ◆
通されたのは、王城の奥深くにある豪奢な謁見の間だった。
玉座に座る国王と、その傍らに控える第一王女。そして周囲を固めるのは、この国でも最強クラスの精鋭である近衛騎士団の面々だ。
「よくぞ参った、仮面の剣士とその従者よ。たった二人でAランクの雷竜を討伐したその武威、見事である」
「お褒めに預かり光栄です」
俺は片膝をつくこともなく、ただ軽く頭を下げるだけで応じた。
その不遜な態度に周囲の騎士たちが殺気を放つが、国王は手でそれを制し、苦笑を浮かべた。
「よい。規格外の強者とはそういうものだろう。……実は今日、そなたたちの功績を称える場に、勇者アルス殿も招いていたのだ。彼らもかつてこの国を救ってくれた英雄だからな。だが……」
「『体調不良』を理由に欠席された、とお聞きしましたわ」
第一王女が、少しだけ冷ややかな響きを含んだ声で国王の言葉を引き継ぐ。
「ええ。勇者様はここ数日、屋敷に大勢の護衛を配備して一歩も外に出られないほどの『重病』のようですから。無理はありません」
「……」
俺の皮肉に、玉座の間の空気が微かに変わった。
王族たちも薄々は感づいているのだ。「光の勇者」が、得体の知れない恐怖に怯えて屋敷に引きこもっているという事実に。
「仮面の剣士よ。単刀直入に言おう」
不意に、国王の傍らに立っていた屈強な男——近衛騎士団長が一歩前に出た。
「我々近衛騎士団は、あの雷竜を討伐するには一個大隊が必要だと踏んでいた。それを二人で無傷で討ち取ったという報告……失礼ながら、まだ信じきれずにいる。そこで、私と手合わせ願えないだろうか。お前たちの実力が『本物』か、この剣で確かめたい」
騎士団長が剣の柄に手をかける。
王家からの事実上の「実力テスト」だ。ここで無様に敗れれば、ただの詐欺師として地下牢行きだろう。
「いいだろう。安い見世物になるつもりはないが……そちらが望むなら」
俺は背中の骨の大剣をゆっくりと引き抜いた。
謁見の間が、そのまま即席の闘技場となる。
「手加減は無用だ、来い」
俺の挑発に、騎士団長が地を蹴った。
『神速』と呼ぶにふさわしい、洗練された王国の剣術。俺の首を正確に狙う一撃だ。
だが——遅い。奈落の魔物たちに比べれば、止まって見える。
「……【黒霧】」
俺が呟いた瞬間。
手のひらから爆発的に広がった『漆黒の霧』が、謁見の間の中央を完全に覆い尽くした。
「なっ……!? 霧!? 前が、見えな——」
突如として視界と音を完全に奪われた騎士団長が、黒霧の中で驚愕の声を上げる。
【黒霧魔法】による絶対の闇。その中で唯一、俺の【暗視】と【複数思考処理】だけが、相手の隙だらけの姿を正確に捉えていた。
「もらった」
俺は【敏捷強化】で背後に回り込み、【筋力強化】を乗せた骨の大剣の『腹』で、騎士団長の背中を思い切り薙ぎ払った。
「ぐはぁッ!?」
鋼の鎧がひしゃげる凄まじい衝撃音と共に、騎士団長の巨体が吹き飛び、玉座の階段の下に無様に転がった。
俺が指を鳴らすと、黒霧が嘘のように晴れていく。
そこには、大剣を肩に担ぎ、傷一つ負っていない俺と、床に這いつくばって荒い息を吐く近衛騎士団長の姿があった。
戦いが始まってから、わずか数秒の出来事である。
「……見事だ。私では、足元にも及ばない……っ」
「十分な腕だったぞ。ただ、俺が少しばかり『理不尽』なだけだ」
静まり返る謁見の間。
やがて、玉座の国王がゆっくりと立ち上がり、拍手を送った。それに合わせて王女や他の騎士たちからも、畏敬の念を込めた拍手が湧き起こる。
「素晴らしい。噂以上の実力だ。……仮面の剣士よ、お前たちさえいれば、この国はどんな脅威からも守られるだろうな」
国王のその言葉は、「もはや臆病風に吹かれている勇者など不要だ」と言っているのと同じだった。
俺とセリアは仮面の奥で見つめ合い、密かに冷たい笑みを交わした。
これで王家の支持は、勇者から俺たちのものへと傾き始めた。復讐の舞台は、着実に整いつつある。




