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ボクっ娘幼なじみが本命の最強美少女パイロット、女心を学ぼうとして全部間違える 〜女の子とデートしまくれば百合が理解できるよね(???)〜  作者: そらいろきいろ
002 / 配達人は二度泣く

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#8 レクセル、女を泣かせる

 さく、とわずかに音がたつ。

 切り分けたキッシュを口に運んで、レクセルは口端を少し緩めた。


「――――おいしい」

 

「でしょう〜!」


 レヴィがすすめるだけある。

 濃厚で、けれどふわふわした卵の生地。

 そこにほうれん草の苦みと、カリカリ香ばしいベーコンのしょっぱさが合わさって、1つの完成したうま味として舌に溶けていく…………!

 

 がっつきたくなる食欲をなんとか堪え、レクセルはコーヒーで味覚をリセット。

 

 食事姿もきれい……と目を輝かせるレヴィに、そうかな、なんて強がってみせる。

 ほんとーはいますぐもっとたべたいな。がまんしろ。

 

「――ねね! 配達人っていろんな街に行くんでしょ? 他の街にも、おいしいご飯ありました?」

 

「……いや。いつもは配達先でご飯食べない」

 

「えっお腹空きません? てゆーか滞在中何日間も絶食するってことですか……?」

 

「日帰りできる距離しか飛ばないの、普通は」


 レクセルは、スープのスプーンをカタリと置いた。


「……長い距離を1人で配達するのは大変でしょ。最寄りの街まで運んだら、そこから次の配達人にバトンタッチするんだよ」

 

「あぁ! つまり運び先に滞在しないからご飯食べずに帰るってこと――――あれぇ……?」


 目をぱちくりさせるレヴィ。

 小さくキッシュを切って、もぐもぐして。

 少し考えた。


「――――なんでレクさんはファーストに滞在してるんです……?」

 

「私は普通の配達人じゃなくなったから」

 

「もしかして、闇の配達人!?」

 

「なにそれ。遊便だよ」


 ゆ……う、びん?

 レヴィが首を傾げたのを見て、レクセルははっとなる。

 配達人の常識は一般常識ではないのだ。


「……遊ぶ便って書いて、遊便。決まった街に留まらず、難しい配達を専門にする配達人のこと」

 

「難しい配達、ですか?」

 

「それこそ長い距離を1人で運んだりね。――でも私が遊便になったの3日前だから、今回が初仕事」

 

「なるほどしっくり……はっ! ってことわぁ!」


 レヴィはずい、と身を乗り出した。


「レクさんがファーストに来たのも滞在することになったのも、わたしと出会う運命だったのかも!?」

 

「いや遊便になったからでしょ」

 

「それが運命なんですよぉ! ロマンチック♡」


 ひゃあと頬を押さえるレヴィ。

 あと何回デートできるかな、ファーストにはいつまでいるんですかぁ? なんてキラキラしながら尋ねてみれば――――。


「明日には発つけど」

 

「……………………えっ急すぎ」

 

「いや決まってたから」

 

「そっそそそれ、先に言ってくださいよぉ!!!」


 ――――さらりと言ったレクセルへ思わず叫んだ。


「会えるの、あと1日だけってことですか……?」

 

「出発するの早朝なんだよね」

 

「今日が最後じゃないですかぁ!」


 あまりにも突然過ぎる、とレヴィは頭を抱えた。

 曲がりなりにも、デートする仲の別れ方ではない。

 

 ……しかし相手はレクセルである。

 恋愛方面の一般常識は、レクセルの常識にはないのであった。


 食事を終えて、カフェを出る2人。

 今度は私が払う、とスマートに会計を済ませたレクセルに惚れ直したのも束の間、レヴィはずーんと重い足を動かしていた。


「ほんとに、いなくなっちゃうんですかぁ……」

 

「仕事だからね。でも、レヴィと会えて楽しかった」

 

「……さみしいこと言わないでくださいよぅ」


 レヴィはレクセルの腕にむぎゅうと引っ付く。

 とぼとぼ歩くその瞳に、ギラギラした看板が映り込んだ。

 ラブホテルだった。


「れ、レクさん……わたし、ちょっと疲れちゃったかも……」

 

「まぁ食後だしね。早く帰って寝な」

 

「ぐっ……レクさんは、疲れてないんですかぁ」

 

「こんなんで疲れてたら配達人やってられないって」

 

「ううぅタフな人だぁ……」


 ちらちら、看板に視線を送るレヴィ。

 レクセルは当然のごとく気づかない。

 2人はラブホテルの前を通り過ぎた。


 しかし。

 この辺りにはまだ、何軒かあって。


「わー見てくださいレクさん、お城みたいなホテル♡  泊まってみたくないですかぁ?」

 

「えぇ、成金趣味じゃない?」

 

「そういう設計意図じゃないと思いますぅ……」


 ――――2軒目、通過。


「ここ、ベッドが尋常じゃなくふわふわだって噂なんですよぉ。明日のお仕事に備えて、ぐっすりお休みしません?」

 

「私、かったい操縦席に慣れちゃってさ。あまり柔らかすぎると寝られないんだよね」

 

「悲しき職業病じゃないですかぁ……」


 ――――3軒目、通過。

 こんなやりとりがしばらく続く。


「ねぇ。ホテルってそんな泊まりたいもの……?」


 最終的に、通りがかったホテルの名前を読み上げるマシーンと化したレヴィ。

 流石にレクセルはツッコミを入れた。

  

「レヴィはこの街に住んでるんだし、いつでも泊まればいいじゃん」

 

「そうじゃないんですよぉ……って、ほんとはわかってますよね。わかってはぐらかして――――あぁっ!」


 ぶつぶつ言いかけて、レヴィはばっと顔を上げる。

 なにかに気付いたようなその表情に、レクセルは首を傾げた。


「もしかして、わたしのことを思って? 自分の体を大事にしろってことですか……っ」

 

「……ん? なんの話?」

 

「んもぅ白々しいですよ♡ そっかぁ、それなら言う通りにします♡」


 想い人に気遣われていると分かって、レヴィはぽかぽか、温かくなった。幸せがふつふつと湧いてきた。

 なお勘違いである。

 

 レクセルはまだ首を傾げている。

 この女、誘われたことにすら気付いていなかった。

 ラブホテルとホテルの違いを知らないからである。






「――――じゃあここで。2日間も付き合ってくれてありがとう」

 

「はいっ! レクさんもお元気で……ぇ……」


 くしゃり。

 レヴィの顔が歪む。


「――――わ゙あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙! ざびじい゙ぃぃーっ」

 

「えぇ、泣くほど……?」

 

「そうでずよぉ! そりゃレクさんにとっては女遊びのうちの1つだったかもしれないけどぉ――――」

 

「いや違うし……」(※違わない)

 

「――――わたしにとっては忘れられない2日間だったんですからぁ!」


 ぐりぐりと頭を押し付けられるレクセル。

 レヴィの見た目も相まって、はたから見れば妹に甘えられている姉にしか見えない。

 もっとも、レヴィの根底にあるのは家族愛ではなく性欲だが……それを理解しているのはレヴィ本人だけであった。もう1人の当事者は理解していない。


 仕方ないな、とばかりにレクセルはため息をつく。

 幼子をあやすように、震える桃色の髪をぽんぽんと撫でた。


「……私も忘れないよ、レヴィ」

 

「レクさぁん……」

 

「元気でね」


 名残惜しそうな声を置き去りにして、レクセルは踵を返す。

 少しだけ滲んだ涙が、風に溶ける。

 プラチナの髪がきらり、夜の闇にきらめいて。

 レヴィはそれを、見えなくなるまで手を振っていた。


「あぁあ、いっちゃった……」


 すとんとしゃがみ込む。

 胸にこみ上げる、温かくてちくちくした感覚。

 これが、失恋の痛みってやつ……?


「うぅっ――――ぐすっ……」


 こうして。

 レクセルは女を泣かせたのであった。

読んでいただき、ありがとうございます!

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